冴える!アミメキリンの名推理!

のこのこのこ

じゃんぐるちほーにて

 私、アミメキリンは偉大なる作家タイリクオオカミ先生とじゃんぐるちほーに来ています。いや、それにしても……


「うぅ、蒸し暑いわね……先生、やっぱりロッジアリツカで漫画を描きましょうよ」

「まあまあ、これも良い漫画を描くために必要なことなのさ」


 先生曰く、色んなちほーに行くことで視野を広げ、表現を豊かにするとのことです。


「さて、夜も更けてきたし、今日はおやすみにしようか」

「はい! おやすみなさい、先生!」


 そうして先生は横になると、すぐに寝てしまいました。先生も慣れないちほーで疲れていたのでしょうね。

 しかし、私ことアミメキリンは一日の睡眠時間は1時間に満たないほど短いので、全く眠くありません。

 とはいえ、ただ一人で起きていても暇です。こういうときは……


「名探偵アミメキリン、じゃんぐるちほーに見参よ! どんな難事件でもかかってらっしゃい!」


 さあさあ私の本職、探偵の開始です!

 まあ、何か事件が起こってくれないと、やっぱり暇なのですが……そう思っていると、聞き覚えのある、騒がしい声が聞こえてきました。


「ねーねー、ここでなにしてるの? なにしてるの?」


 声の正体は、かばんおめでとうの会でも一緒になったコツメカワウソでした。ふふふ、これは丁度良い暇つぶしになりそうです。


「私は探偵として事件を追ってるのよ」

「たんてー? なにそれなにそれー! おもしろそー! どんな事件を追ってるの?」

「い、いやそれは……今探し中なのです!」

「へー! ねえねえ、私も一緒に探していい? 探していい?」

「もちろん! ただし、捜査の邪魔はしないことよ!」

「やったー! 今日は夜更かしした甲斐があったなー」


 思った以上にカワウソさんの食いつきがよくて、私も思わずにやりとしてしまいます。

 し、しかし、あくまで表情はクールに保たなくては!

 ホラー探偵ギロギロがそうであったように!


「おーい、こんなところで何してるんだー?」

「うひゃぅ!」


 澄ました顔を作っているときに急に声をかけられ、思わず跳ね上がってしまいました。


「おいおい、そんなに驚かなくても」

「おー、ジャガー! ねえねえ、なんか最近事件あった? あった?」

「い、いきなりだなぁ。でも、一つ心当たりはあるな」


 ジャガーさんのその言葉を聞いて、私の探偵魂に火が付きました。


「その事件、この名探偵アミメキリンに任せなさい! さあ、どんな事件だったの?」

「今朝、起きたら私のイカダが壊されてたんだ。まあ、あれくらいならすぐ作れるからいいんだけどさ」

「それはひどいなー」


 ふむふむ……確かにひどい事件ですね。

 さっそく推理といきたいところですが……探偵ギロギロを見習って、まずは情報収集からです!


「イカダが壊れる音とかはしなかった?」

「わからん……」

「怪しい影を見たりしなかった?」

「わからん……」

「じゃあ何か、少しでも思い当たる節はないの?」

「全然わからん……」

「もー! これじゃあ推理もできないじゃない!」

「そ、そう言われてもだなぁ」


 この後もジャガーさんは「わからん」の一点張りで、ヒントの一つも寄越してくれやしません。これでは名探偵の私といえどもお手上げです。

 考えあぐねていたそのとき、やはり私は天性の探偵なのでしょうか。ふと頭に真実の光が降りてきました。


「わかりました!」


 みんなの視線が私に集まります。

 そして私は言い放つのです。


「犯人は、カワウソさんです!」

「えー私? 私なの?」

「楽しいことが大好きなカワウソさんは、イカダを壊すことに楽しさを見出したのです! 楽しさのみに己の行動を委ねる、その純粋さ故の犯行だったのです!」

「あはははは、キリンちゃんは楽しい推理をするね! でも、私はしてないよ?」

「否定するあたりが余計に怪しいわね!」

「ま、まてまて、この子はそんなことしないよ」

「そのときだけ別の人格に乗っ取られていたとすれば、考えられーる!」


 うおー! 私の頭がサイコーに活性化しています!

 さあ、あとはカワウソさんを大人しく自白させるだけです!


「ねーねー、別にじけんせーみたいなのはなくてさぁ、フツーに誰かが間違って壊しちゃったんじゃないのー?」

「カワウソさん、そうやってまた嘘を重ねるのね! 私の眼は誤魔化せな……」

「おーい! ジャガー!」


 私の推理が大炸裂している最中に、声が聞こえてきました。

 その声は段々と大きくなって……そしてその主の姿も見えてきました。どうやらアライさんとフェネックさんです。イカダを漕いでこっちに近づいてきます。

 くぅ、いいところでなによ……


「やあ、私の名前を叫んで、どうしたんだい? それにそのイカダは?」

「そ、その……」

「ほら、アライさーん。ちゃんと謝らないとー」

「じ、実は……ジャガーのイカダを壊してしまったのはアライさんなのだ……何も言わずに逃げてしまって、ごめんなさいなのだ……」

「それでね、アライさん、一日中新しいイカダを作ってたんだよ。ほら、この通り。許してあげてくれないかなー?」 

「いやいや、もちろん許すさ。それにこのイカダ、元の奴より奇麗じゃないか」

「えっへん、頑張って作ったのだ!」


 アライさんたちのやり取りを聞いている間、私は立ち尽くしていました。

 あろうことか、カワウソさんの当てずっぽうな推理が当たってしまい、私の推理は大外れ。


「ほらほらキリンちゃーん、やっぱり推理間違ってたじゃーん!」

「うぐ……」

「あーほら、落ち込まないでぇ、またおもしろーい別の事件を探そうよ!」

「ごめんなさい、今日はもう遅いし、先生のところに帰るわね……」


 そう言って、私は先生の寝床へとぼとぼと歩き初めました。

 ホラー探偵ギロギロに憧れて、頑張って推理してるのにいっつもこう、的外れなことばっかり言っちゃって……後ろでカワウソさんたちが「またねー」と言ってくれているみたいですが、振り返ることはできませんでした。


~~~


「やあ、おはよう。って、どうしたんだい、しょんぼりとした顔をして」

「うぅ、先生……やっぱり私、探偵に向いてないのでしょうか」

「あはは、そんなことで悩んでいたのか」

「そ、そんなことって」


 励ましの一言を期待していたのに、余計に悲しくなりました。

 涙がこぼれそうになるのを堪えていると、先生は私の頭にぽんと手を乗せて、こう囁いてくれました。


「大丈夫。確かに君の推理はいつも斜め上を行っているけど、そうした思いがけない発想こそが探偵には必要なのさ」

「そうですかね……」

「ギロギロだって最初は間違った推理ばかりしていた。でも発想力だけはあって、次第にそれがいい方向に傾き始めたんだ。きっと君もそうなれるよ」

「せ、せんせぇ~! やっぱり私、まだまだ探偵頑張ります!」


 うう、なんという優しさ! なんというかっこよさ!

 悲しさも一瞬で吹き飛び、思わずにへぇと笑顔になって、先生の眼を見つめます。


「お、その顔いただき。やっぱり君には笑顔が似合ってるね」


 さ、さすがにそう、ストレートに言われると俯いてしまう私、アミメキリンなのでした。

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