Nieの國
@arcana_wind
プロローグ
霧に覆われたその森は、真昼だというのに仄暗い。
ヒカリゴケに蛍火。
訪れる者の無い、石の路を照らして。
幾年の静寂を分けるように、鈍く、草を踏みしだく音がした。
蛍火がはらはら散る。
少年は、たった一人で此処に着たのだろう。
まだ新しい革の靴に、濃紺の刺繍を施した麻のコート。
開かれた眼差しが鳶色の火を灯す。
彼の見つめた先には石の祠が在った。
小さな泉の対岸で、それは方舟か棺のようにも見えるかもしれない。
ひたりと歩みを水の中へ。
水は腰までを濡らした。
彼は祠に手を伸ばす。
Nieの國 @arcana_wind
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