第2話

「こんにちわー! 立花様はいらっしゃいますかー」

「あ、こんにちわ長篠さん。少々お待ちください」

「‥‥‥なあ誠士郞よ」

「なんですか」

「なんで受付の子とちょっと仲良し風なんだ? 俺にひとっっことも無かったぞ、あの子」

「もしかしたら、僕の部下! なあんて‥‥ないですね、はは‥‥そんな怖い顔しないでください」

「あらー 鹿之助じゃないの、珍しいわね?」


こいつの名前は立花ゆりか。この探偵事務所の所長だ。

なんで所長やってるのか知らない。ましてやなんで俺のライバル会社で、しかも同じビルで設立したのか‥‥なんてのも知らない。


元々、ゆりかは別の職業だったんだけどなあ。

近しい職業だったけども。


「ずいぶん見ない間に‥‥」


老けたなーと言う寸前でやめた。

ぜったいにゲンコツが飛んでくるからだ。


「なによ? 随分見ない間に?」

「‥‥きれいになったなー」

「まったく感情が入っていないお世辞をどうも。で、何の用?」

「ああ、そうだった。ほれ、誠士郞」

「ゆりかさん、これ‥‥受け取ってください」


誠士郞は抱えていた鉢植えをゆりかに手渡した。


「何これ?」

「これはなー。幸せの成る実が出来る鉢植えだ。既に種はうえてある」

「はあ?」

「信じてないな?」

「鹿之助‥‥そんな人だったっけ?」

「あ、えっと、実は‥‥」


誠士郞が口を挟んでくる。

かいつまんで話したところゆりかは納得したようだ。


「と、いうわけで、飾らせてもらうぞ。おーいそこのお嬢さん、これを日の当たる所においてくれないか」

「あ、はい」

「幸せの実ねえ‥‥まあ、いいか。コーヒーでも飲んでく?」


そういうとゆりかは個室スペースの扉を開ける。


「そうこなくちゃな、ご馳走になろうぜ、誠士郞」

「お邪魔します」

「はいはい、じゃあちょっとまっててね」


個室スペースに入れられた俺たちを置いて、ゆりかは行ってしまった。


「凄いっすね、この部屋‥‥個別にお客さんが対応出来るようになってるんですかね」


誠士郞は壁を見渡しながら呟いた。


「これなら一度に何人も対応出来るし‥‥いいアイデアですね」

「‥‥ウチもやるか? 同じビルだし。広さは変わらんぞ」

「まず‥‥僕たちの布団とか生活用品をどかさないと」

「俺たちどこで寝るんだ」

「‥‥‥外‥‥‥ですかね」

「誠士郞は外で寝るって事でいいな?」

「ウソですごめんなさい」

「しかしゆりかのヤツ遅いな?」

「そうですか? でも所長さんですし、色々あるのかも」

「色々ってなんだ‥‥っていうか、普通、あいつの部下が飲み物持ってこないか?」

「そういえば‥‥そうかも?」


何か‥‥嫌な予感がする。

こういうときの自分の直感にたいして、俺は素直に信じることにしている。


「長年のつきあいから予想するに‥‥俺たちは撤退すべきだ」

「え?」

「あいつじゃ解決出来ない案件を持ってくるに違いない‥‥」

「そうと決まれば帰るぞ誠士郞。む、このおやつは持って帰ろう」

「ああっ、鹿之助さんだけずるい、僕も!」

「くっ、ポッケにもう入らないな‥‥こうなったら口の中にほおばっていこう」

「おまたせー」

「もがっ」

「‥‥何やってんの、あんたたち」


ハムスターのように膨らんだほっぺを見ながら言われてしまった。


「もぐ‥‥もがが‥‥うん。いやあ、コーヒーごちそうさま。それじゃあ帰るわ」

「まだ飲んでもいないじゃない。それより頼みたいことがあるのよね」


ああああ、やっぱりそうだった。

帰りたい。


「ちょっとさー、面倒な案件があってね-。鹿之助にお願いしたいのよー」

「やだ」

「そのポケットにはいったお菓子を元に戻しなさいよ」

「やだ」

「あんたの胃袋に入ったお菓子も元に戻しなさいよ」

「‥‥‥いいのか? お見せ出来ないが」

「バカ」

「‥‥‥真顔で言われるとこう‥‥抉られるものがあるな」

「じゃあ黙って聞きなさい、やって欲しいのは、ちょっとしたモノ探しをして欲しいのよね。住み込みでー」

「お前の家にでも入れておけ」

「いやよ、知らない人と一緒に住むのなんて」

「どの口が言うんだ」

「鹿之助は別に構わないでしょ、なんだったら公園だって寝れるじゃない」

「こう見えても一国一城の主だぞ! もう公園では寝ない」

「えっ、寝てたんですか‥‥?」

「誠士郞はちょっと黙ってろ」

「すいません」

「それでー、今呼んであるから、連れて帰ってね?」

「はあ?」


やられた‥‥ゆりかが席を外してたのはこれか。


「アリサ、いらっしゃい」

「シツレイします」


扉を開けて入ってきたのは、ブロンド髪で小柄な、可愛い女性だった。


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OutNumber えにし @enishi_midori

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