氷柱

あのみかんさん

氷柱


 「で、殺したと?」

目の前の殺人犯は頷いた。

殺人犯を目の前に、普通に話せるのは警察くらいしかいないだろうなと、いつも冷静に思う。

事情聴取が終わり、コーヒーを買い一服にと外へ出る。

今日も手に持つコーヒーが異常に熱く感じるほど、冷えている。

真冬では外が凍るほど寒く、吐く息ははっきりと真っ白い。

氷柱が連なっているのを見ると、余計に寒く感じてくる。


 「○○市で殺害事件、犯人は不明。」

ゆっくりしようとした側からこれだ。次々と舞い込んでくる事件に、一服する暇すらもあまりない。

「せんぱーい。

呼ばれてますよー」

わかった、と返事の代わりに片手をあげ車へと乗りこんだ。


 現場は団地で、すでに野次馬がわんさか溜まっている。

5畳ほどのリビング、ベランダには何かの植物が置かれている。

枯れて伸びきっているあたり、長いこと手入れされてないと感じる。

ソファの後ろで倒れていた夫を、外出から帰ってきた奥さんが発見したらしい。

 「死因は、見てわかる通り刺殺だな。

ま、肝心の凶器はまだ見つかってない。」

こういう事件は大抵、第一発見者であることの場合が多い。

現に、奥さんのアリバイは無いようだ。

しかし、取り調べでは奥さんはただ泣き続け、「どうして私が」と繰り返すばかりだった。


 凶器も見つからないまま二日ほど経った頃、司法解剖の結果が届いた。

《死亡原因 刺殺

頸動脈に長さ10センチ程度と思われる鋭利痕

また、痕の凍傷もあり》


凍傷?

10センチということは、包丁などではないということか。


「おい、凶器がベランダで荒れていた植物の中から発見された。

被害者のDNAと一致する血液が付着したペティナイフだ。

奥さんに再度、取り調べするぞ。」


ナイフ、、、?


 事件はその後、奥さんが逮捕され終わった。

しかし、俺の中ではまだ凶器のことが引っ掛かっていた。

コーヒーを買い、一服にと外へ出る。

相変わらず、刺さるように寒い。

と、そこで気が付いた。


まさか、こんなもので?

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氷柱 あのみかんさん @mikan1222

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