みゅーじあむ
アルケミスト
第1話
「みんなとはぐれちゃったね、サーバルちゃん」
「大丈夫だよ、かばんちゃん。みんな逃げ足早いから、きっと大丈夫」
「ハハ、そうだねきっとみんな無事だよね。でも、ここは何処だろうね」
かばんとラッキービーストとサーバル、そしてサーバルと同じ様にキョウシュウチホーからかばんに付いてきたフレンズ達でゴコクチホーまで旅を続けていたが、道中に突然大量のセルリアンの群に襲われ、みんなとはぐれてしまい、何処かの洞窟の様な所にいた。
「かばんちゃん、あっちに出口があるよ、ほら」
「あっ、本当だ」
「早く行ってみよう」
「うん」
二人が出口を出ると睡蓮の池があった。
「わーあ、きれいだね。かばんちゃん」
「うん、綺麗な花だね。何の花だろう? 水の上に浮かんでるね」
「これはスイレンだよ、水位が安定している池や沼などに生息する地下茎から長い茎を伸ばし、水面に葉や花を浮かべる植物だよ」
「ふーん、そうなんだ」
池に架かった橋の上でラッキービーストの説明を聞きながら水面に輝く様に咲いた睡蓮を見詰めるかばん。
「かばんちゃん、あっちにも何かあるよ」
サーバルに誘われてかばんは橋を渡るとバルコニーの向こう側に海が広がっていた。
「すごーい、水がグルグル回ってるよ、かばんちゃん」
「本当だ。なんだろねあれ?」
「あれはウズシオだよ。早い潮流と、海峡両岸に近い穏やかな流れの境界に渦が発生する現象で渦の直径は十五メートルにもなるんだよ」
「そうなんだ、すごいね」
「ねぇ、かばんちゃん。あの中に入ってみようよ」
「えっ?!」
「きっと楽しいよ」
「サーバルちゃん、それは止めておいた方が…」
かばんが物音に気付いて振り向くと突然壁が崩れて中から肉食系の怖そうなフレンズが現れた。
「わわー、食べないで下さい!」
「何だ、お前達は?!」
「ホワイトタイガーさん、上ですっ!」
かばんとサーバルも、見上げるとそこには、塔の上に鎮座した黒く巨大な球体のセルリアンがこっちをぎょろりとした目で見詰めていた。
「わぁぁぁぁ!!」
「セルリアン!」
黒く巨大な球体のセルリアンが上からかばん達を狙っていた。
セルリアンの触手が襲い掛かると、ホワイトタイガーは、鋭い爪の一撃ではね除ける。
「ハヤブサっ!」
「了解です、タァァァァー!」
シマハヤブサが素早く飛び立ち、一直線に剥き出しになったセルリアンの核である石を狙った。
「グッ!」
シマハヤブサの目の前に三角形の空飛ぶ青いセルリアンが立ち塞がり、ギリギリの所で回避するが、黒く巨大な球体のセルリアンに存在を認識され、触手と空飛ぶ青いセルリアン達に石への進入路を完全に防御されてしまう。
「もう一度突入します」
「ダメよ、ハヤブサっ」
シマハヤブサが振り向くとそこには、ハクトウワシとオオタカがいた。
「キャプテン、オオタカさん」
「作戦は中止」
「でも、私は未だ行けます。やらせて下さい!」
「ダメよ、このまま突入してもナヴァロンに察知された以上、防御を崩すのは無理。このまま戦闘を続けても、ナヴァロンが呼び寄せた護衛のセルリアンが来たら私達に勝ち目はないわ。ここは一旦撤退して体勢を立て直した方が良いわ」
「もっと、クールに考えなよハヤブサ」
「…了解しました、キャプテン」
ハクトウワシが俯いて答えるシマハヤブサの肩に手を置いて頷いた。
「今度は勝ちましょう」
「感傷に浸ってる所悪いんだけど二人とも、お客さんが来たみたいだよ」
ハクトウワシとシマハヤブサが見ると、海の方から三角形の空飛ぶセルリアンと海岸の林から台形型のセルリアンが大量にこちらに向かってきていた。
「時間がないわ、ホワイトタイガー、ハヤブサ。あの子達を連れて脱出して、私とオオタカは空飛ぶセルリアンを足止めするわよ。いけるわね、オオタカ」
「あいよ、今日もクールに決めるよ」
「ハヤブサ」
「はっ、はい!」
「頼んだわよ」
「はっ、了解しましたキャプテン!」
シマハヤブサの元からハクトウワシとオオタカが飛び立つと、ハヤブサはかばん達の所に向かった。
「あなた達、私達に付いてきて」
「わかりました、行こうサーバルちゃん」
「うん、わかった」
「ホワイトタイガーさん、急ぎましょう」
「おう」
ホワイトタイガーを先頭に建物中を走り抜けて下の出口の方に向かうかばん達。
「これって、絵だよね。それもヒトを描いた」
逃げる途中に建物の天井や壁にヒトや風景、動物が描かれていたり、壁に取り付けられた四角い板などにも描かれているのに気付いたかばんは足を止める。
「わーなんだろう」
「あっ、サーバルちゃん、触っちゃダメだよ」
「えっ、でもスベスベして気持ちいいよ。かばんちゃんも触ってみたら?」
「二人とも早く、急いで」
シマハヤブサに声を掛けられて気になる事を振り切ってかばんとサーバルは、出口に向かった。
「クソ、もうセルリアンがこんなに」
「私が空から援護しますから、ホワイトタイガーさんは二人を」
「わかった。二人とも私から離れるなよ」
「わかりました」
シマハヤブサが上空から台形型のセルリアンに攻撃を仕掛けて一部を倒すと、陣形が崩れて混乱したセルリアンをホワイトタイガーが一撃で倒し、道を切り開いていく。
「陣形を崩せば纏まりが無くなる今だ」
走り抜けて暫くするとセルリアン達が追い掛けてこなくなり、かばん達は近くにあった石に腰を掛けて一息吐いた。
「何とか逃げ切りましたね」
「どうやら奴らの縄張りから脱出できたようだ」
「いっぱい走ったから、私喉乾いたな」
「はい、サーバルちゃん、水筒に水入れてきたから飲んで」
サーバルは水筒の水を飲む。
「おいしー。ありがとう、かばんちゃん」
嬉しそうなサーバルを見てかばんも笑みを見せる。
「かばんちゃんも、飲みなよ」
「私は最後でいいよ。えーと、助けてくれてありがとう御座います、良かったら二人で先に飲んで下さい」
「すまんな。そう言えば名乗っていなかったな、私はホワイトタイガー」
「私はハヤブサです」
「あっ、どうも。かばんと言います」
「私は、サーバル」
「お二人は何でナヴァロンの所にいたんですか?」
「ナヴァロンって、あの黒いセルリアンのことですか?」
「ええ、「パークの危機」の頃からいたセルリアンで、ヒトがナヴァロンて呼んでいたので私達もそう呼んでいます」
「ナヴァロンは普通のセルリアンと違って移動することはないが、下級のセルリアン達を従えて縄張り内に入ったフレンズを自分の所に追い立てて捕食する姑息な手を使うセルリアンだ。それどころか最近になってあいつは縄張りを急速に広げだして、この辺にいたフレンズの殆どはナヴァロンに喰われるか、住処を捨てて逃げだしたかのどちらかだ」
「そんな、酷いよそんなの。かばんちゃんなんとかならないの?」
「ええ、そんなの急に言われても無理だよ、サーバルちゃん」
「何でかばんさんなんですか?」
「かばんちゃんは、ヒトだからいろいろ出来るんだよ。橋を架けたり、火を熾したり、文字だって読めるんだよ」
「それは本当ですか!」
「はい、だからヒトが住んでる地域に行こうとサーバルちゃん達と旅をしている途中なんです」
「お願いですっ、かばんさん。どうか力を貸して下さい!」
深く頭を下げてお願いするシマハヤブサにかばんが驚き動揺する。
「ハヤブサ、落ち着け。かばんはヒトだが戦いに得意そうには見えない。もし、ナヴァロンをどうにか出来るなら我々が助ける前にどうにかしているはずだ」
「ホワイトタイガーさんのいうとおりです、力になれなくてご免なさい」
「そうですか、すみません」
「そろそろ行こうか、森を越えた入江の方に我々のベースキャンプがある。ハクトウワシ達も、もう戻ってる頃だろう。ハヤブサ…?」
「大丈夫です。さあ、急ぎましょう」
入江にあったのは座礁した巨大な鋼鉄製の船だった。
「わーい、おおきいね。かばんちゃん」
「これも船なんですか?」
船の上は高く巨大な艦橋以外は、船首から船尾まで平坦な造りの不思議な構造をしていたが船自体は入江の浅瀬に乗り上げて航行不能で長いこと放置された状態に見えた。
「そうよ。ようこそ、かばんさんとサーバルさん。私達のベースキャンプに歓迎します」
「あなたは?」
「初めまして私は、隊長のハクトウワシ。キャプテン・ハクトウワシよ、よろしくね」
「私は、オオタカ。まっ、何事もクールにいきましょう」
「さあ、お腹空いたでしょう。みんなでランチにしましょう」
艦橋の中に通されて、椅子に座ると無口なブラックジャガーが大皿に山盛りになったジャパリまんを持ってきた。
「さあ、どうぞ」
「いただきます」
「おいしいね、かばんちゃん」
「ほんとだ、いつもと味も違うし、いつもよりおいしいです」
「それは良かったわ」
「なんたって、これはベースキャンプのコックのお手製だからな」
「コック?」
「ブラックジャガー、いつもありがとう。きょうのも最高にいけるわ」
「ハクトウワシ、礼は良いがあいつをなんとかしてくれないか、おかげでのんびり昼寝もできねぇよ」
「オウッ、またハヤブサですか?」
「あー、見付けましたブラックジャガーさん」
「ハヤブサさん?」
「ハヤブサちゃんどうしたの?」
「お願いです、ブラックジャガーさん。私達と一緒にナヴァロンと戦って下さい。ブラックジャガーさんは、パークの平和を守る私達ビースト・フォースのメンバーなんですからっ」
「それは先代の話だ、オレには関係ない」
「そんなことありません、ブラックジャガーさんは前にセルリアンに食べられそうになった私を助けてくれたじゃないですかっ」
「たまたまだ」
「いいえ、ブラックジャガーさんは、先代に負けないぐらいの力があります。なぜそれを使おうとしないんですかっ」
「ハヤブサさん、先代のブラックジャガーさんって?」
「ビースト・フォースってハンターみたいなものかな?」
「ビースト・フォース。大昔にジャパリパークでヒト一緒にセルリアンと戦っていたフレンズのことよ」
「ブラックジャガーや私達の先代も、ビースト・フォースだったんだ」
「ビースト・フォースは、パークの平和をヒトと共に守った最強のフレンズ揃いの英雄達なのです。部隊の司令塔にして士気を高め、危険を省みず仲間は見捨てない、正義を貫くキャプテン・ハクトウワシ! フォロミー! セルリアンの撃滅数ならフレンズトップクラス、激戦の場にあっても常にクールな判断をし、魔獣王という渾名でセルリアンに恐れられたオオタカ! クールにいきましょう! 戦場を駆ける白き獣、誰よりも強く高潔にして、神獣に恥じない戦いをしたホワイトタイガー! 我が一撃は白き閃き! そして、絶望的な戦場でたった一人で一度に百以上のセルリアンと戦い、大勢のヒトを救出した闇を味方に付けた一騎当千ブラックジャガー! 一撃必殺、それで十分! ビースト・フォースの働きで何度もパークは、危機を脱して来たんです!」
「すごーい、みんな強いんだね」
「ほんと、凄いです。あっ、ハヤブサさんの先代はどんな活躍をしたんです?」
「あっ、私ですか?! 私はその…」
かばんに振られてさっきまでの勢いが弱まりもじもじするシマハヤブサ。
「ハヤブサはルーキーだ。今の二代目ビースト・フォースは、こいつが無理矢理結成させたんだ。ナヴァロンを倒すという無謀な戦いをするためにな」
「無謀なんかじゃありません。ブラックジャガーさんが一緒に戦ってくれたらきっとナヴァロンに勝てます!」
「フッ、バカも休み休みに言え、お前達が来て半年になるが未だナヴァロンに傷一つ付けられていないだろ」
「今日は、ナヴァロンの足下まで行けました今度こそっ」
「それを決めるのはお前じゃないだろっ、だろうハクトウワシ…」
「そうね、ブラックジャガー」
「キャプテン…」
「ナヴァロンは他のセルリアンと違って狡猾よ。きっと今頃配下のセルリアンを集めて防備を固めているはず。そこへなんの解決策もなく突入させることはビースト・フォースの隊長として許可できないわ」
「そんな、やってみないとわからないじゃないですかっ」
「ハヤブサ、さっきも言っただろもっとクールに考えろ、それに隊長の命令は絶対だってお前も、いつも言っているだろ」
「…はい、そうですね。失礼します」
シマハヤブサは踵を返すとそのまま何も言わずに部屋を出て行った。
「少し言い過ぎじゃないかブラックジャガー。少なくても私はハヤブサの熱意は本物だと思っているし、私もセルリアンの脅威からパークを守りたいとことには偽りはない」
「だが、先代のビースト・フォースは、ナヴァロンと戦って全滅した。ヒトだってそうだ、ナヴァロンの周りの海岸にある艦艇や航空機、車輌の残骸がそれを物語っている。ヒトですらやつに勝てなかったんだ。そんな敵に気持ちだけで戦おうとしているあいつにまともに付き合ったら無駄な犠牲が出るだけだ、あの時の様に…」
ナヴァロンが触手を伸ばし、配下のセルリアンに指令を出し、空飛ぶセルリアンが戦闘機を撃墜し、眼下の砂浜で大小の台形型のセルリアンが戦車に体当たりしたり、のしかかったりして蹂躙していく、もはや一方的な破壊がそこにはあった。
そんな戦場に虫の息の女兵士らしきヒトを担いで泣く先代のブラックジャガーを見る今のブラックジャガーがいた。
これはいつも見慣れた夢だと直ぐに判るが、いつ見ても胸が締め付けられる。
ナヴァロンの触手が伸び、先代のブラックジャガーと女兵士のヒトを丸呑みにした。
「…ハアッ」
「すみません。何かに魘されていた様だったので気になって」
「そうか、心配かけたな。なにか飲むか?」
「いえ、そんな」
「あっ、コーヒーもミルクも切れてたな、水でいいか」
「はい、いただきます」
かばんは、ブラックジャガーから水の入れられたステンレスのカップを受け取る。
「たまに見るんだ、先代の夢を会ったこと無いのに何となく判るんだ、あれが先代の最期だって、ナヴァロンに喰われたんだヒトと一緒に…」
「先代のブラックジャガーさんの?」
「フレンズはセルリアンに喰われるとフレンズだった頃の記憶を全てを失うと言うが、強い記憶は完全に消えずに残ることがあるんだ。オレの場合は先代の最期の記憶って訳だ。怖くて、辛くて、悔しかったんだろうな…」
「あのう、一つ聞いても良いですか。セルリアンともう戦いたくないブラックジャガーさんが、なんで未だハヤブサさん達と一緒にいるんですか?」
「一緒にいるって言うかあいつらが後から来たから一緒にいるっていうのが正確かな。いつからだったか忘れたが、元々この船にはオレが一人で住んでいたんだ。ハヤブサをセルリアンから助けた後、一緒に住む様なったんだ。オレは興味なかったけど、ここにあったヒトが残していった書籍やら資料やらに興味を抱いて多少文字が読めたオレが遊びがてら読んでやったら先代のビースト・フォースの虜になって最後には独学でオレより読める様になってビースト・フォースを再結成させるためにここにある全部の書籍と資料を読みあさってゴコクチホーを飛び回ってハクトウワシ達を連れてきたんだ」
「そうね、私もあの子に初めて会った時に「キャプテン」と言われて何が何だか判らなくってびっくりしたわ」
「起きてたのか?」
「私も気になって眠れなくて…」
「お前もか…」
「ホワイトタイガーっ」
「私はハヤブサと初めて会った時に「軍神」と言われた」
「みんな考えることは同じだね」
「オオタカも起きてたのね」
「因みに私の時は「魔獣王」って言われてびっくりしたな、懐かしいな」
「ブラックジャガーは何て言われたの?」
「おっ、それ私も聞きたい」
「私も興味あります」
「あー、あれか…」
「なんて、言われたんだ」
「…ワンマンアーミー」
「何それ?」
「一人軍隊か」
「いや、お前らしいよ」
「笑うなよ、オオタカ」
「ハハっ、でも、ハヤブサに出会わなければ私達こうやって巡り会えなかったんじゃない」
「そうだなハヤブサに出会う前からセルリアンとは戦っていたし、仲間が出来て私も前より強くなったと感じている」
「確かにハヤブサに出会ってから退屈は無くなったしね」
「オレもそうだ。だから、あいつにはオレみたいな思いは味わって欲しくないんだ。どうしてだろな、いつもはこんな話しないんだけどな。きっとかばんがヒトだからかな」
ブラックジャガーの言葉にかばんも何か以前の自分と同じ所があると感じた。
目線を反らすと部屋の中央に置かれた台の上にナヴァロンがいる山の上の建物と今いる入江の船が駒になって表されている地図を見付けた。
「どうしたの、かばんちゃん」
「サーバルって、お前寝てたのか」
「そうだよ」
「ハハハっ」
「これって、もしかして地図ですか?」
「そうだ、昔この船で戦ったヒト達が使っていた地図だ」
「ナヴァロンに、今いる私達の船。それと…、何だろうこの四角と三角は?」
「ナヴァロン配下のセルリアンの位置だ」
「昔のですか?」
「いや、最近の位置だ」
「なるほど、時たまブラックジャガーがベースキャンプにいないと思ったら、セルリアンのことを調べていたのね」
「これって使えるかも、ブラックジャガーさん。ナヴァロンや配下のセルリアンは夜はどうしてますか?」
「夜は自分達の持ち場に戻って眠っている。日中しか活動しない様だ」
「だったら…、ちょっと調べてみたいことがあるんですが」
かばん達はそれぞれセルリアン達の位置を密かに確認して回っていた。
「かばんちゃん、いたよ」
「何匹いる、サーバルちゃん」
「えーと、1、2、3、4、5、6、六匹だよ」
「六匹、ブラックジャガーさんが前に調べた数より半分少ないですね。サーバルちゃん次見に行こう」
「おっ、いたいた。キャプテン」
「何匹いる?」
「ええと、1、2、3…7、8。八匹だ」
「ここは変わり無いようね、次行きましょう」
「いたな、2、4、6…20、22、24。以前の三倍に増えてるな」
「やっぱり昨日の攻撃で布陣を変えてきた様だな」
「ああ、小癪なことをする。後少しだ」
「急ごう」
入江の崖の上で一人座り込んでいたシマハヤブサがいた。
「あっ、いたいた。ここにいたんだ」
「キャプテン…」
「昨日から返ってこなかったから心配したわ」
「すみません…」
「ちょっと来てくれるかしら」
「なんです?」
「えっ、何ですか、これ?!」
ベースキャンプ戻ったシマハヤブサの目の前に地図と正確な位置や数、強さに分けて色を変えたセルリアンを表す駒が置かれて全体の敵の布陣が一目でわかる様になっていた。
「凄いでしょう、かばんちゃんが作ったんだよ」
「いえ、皆さんが手伝ってくれたから出来たんです」
「夜通し、歩き回って調べたしな」
「まあ、ハヤブサを探すついでだったけど」
「みんな…」
「では、皆さん揃ったので作戦を説明しますね」
「作戦って?」
「ナヴァロンの周辺に配置された配下のセルリアンは、昨日の攻撃の後に布陣を変えてだいたい半分を自分の近くに配置しています」
「あいつ私達に核を狙われたんで籠城するきだな」
「狡賢いくせに肝は小さいな」
「って、いうかセルリアンに肝なんてあるのかしら?」
「それで、中心以外の防衛が半分以下になったので、外ががら空きです。それに双眼鏡でナヴァロンがいる建物を確認したら、やっぱり中には一匹もセルリアンは確認できませんでした。どうやら捕食するフレンズを中に逃げ込ますために敢えて配置していないんだと思います。だからそこを逆手に取ります」
かばんは自分とフレンズ達を模した駒を取り出すと、戦略図の上に置いていく。
「ここにこういう風に配置してから、ハクトウワシさんとオオタカさんの部隊とホワイトタイガーさんとハヤブサさんの部隊が同時にナヴァロンに攻撃すると見せかけて配下のセルリアンの気を引いて下さい。その間にサーバルちゃんとブラックジャガーさんで建物の中に入って、ナヴァロンの核を破壊します」
「だが、昨日も同じ様な作戦をとったが失敗したぞ」
「そうです。それで、この船の中で何か使える物はないかとラッキーさんと探していたら未だ使用できる戦車が一台ありました。これを使って私とラッキーさんがナヴァロンの注意を引き付けます。もしかしたら、またヒトが攻撃を仕掛けてきたと勘違いして上手くいけば、昨日より注意を引き付けることが出来るかもしれません」
「パークの危機のリベンジ…」
「そうね、パークだけじゃない、私達の先代が成し遂げられなかったナヴァロン攻略…、私達にとってもリベンジね」
「じゃあ、作戦名はパークビースト・リベンジ作戦にしましょう」
「わー、何か格好いいね。かばんちゃん」
「じゃあ、作戦名はそれで行きましょう。作戦開始は明日の早朝。みんな準備は怠らないでしっかり休養もとってね」
「はい!」
その日の夕方、シマハヤブサは、厨房でジャパリまんの下拵えをしているブラックジャガーを訪ねた。
「どうして急に戦う気になったんですかブラックジャガーさん」
「確実に勝てる見込みがあると感じたからだ」
「そんなの狡いです、私がどれだけ説得してもダメだったのに」
「今は余計なとは考えるな。明日の作戦のために身体を休めておけ、昨日あまり寝てないだろ」
「あっ、あのっ…」
大きな鍋を持って厨房から出て行くブラックジャガーを呼び止めようとしたシマハヤブサだったが、躊躇して押し黙ってしまった。
次の日の早朝、みんなが作戦前の最終調整をしていた頃、シマハヤブサは、ブラックジャガーを探していた。
「サーバルさん、ブラックジャガーさん知りませんか?」
「ブラックジャガーさんなら、かばんちゃんとボスと一緒に戦車を見に行ったよ」
「そうですか…」
「どうかした?」
「いえ、ブラックジャガーさんに昨日言えなかったことを話しておこうと思ったんですが、作戦後にします」
そう言って、シマハヤブサは、サーバルの元を後にする。
「うわー、なになにこれ?!」
目の前の鋼鉄製の乗り物にサーバルが興奮する。
「これが、ヒトがセルリアンと戦う時に使っていた戦車か」
「さっき、電池を充電したから直ぐにでも動かせます」
「燃料も弾薬も問題ないよ。かばん、操縦と装填は僕がやるから車長を頼むよ」
「解りました」
ラッキービーストの説明にかばんが頷く。
ハクトウワシとブラックジャガーが今回の作戦は確実に行けそうだと予感していた。
「では、戦車の砲撃音を合図にパークビースト・リベンジ作戦を開始します。くれぐれも気をつけて下さい。危なくなったら迷わず逃げて下さいね。それじゃあみなさん、フォロミー! ナヴァロンをぶっ倒すわよ!」
「おうっ!!」
ベースキャンプである巨大な船の甲板にハクトウワシ、オオタカ、シマハヤブサが一列に並び、一人ずつ飛び立っていく。
「キャプテン・ハクトウワシ出撃するわ。レッツ・ジャスティス!」
「今日もクールにいきましょう。オオタカ出る!」
甲板で見送るブラックジャガーと目が合うシマハヤブサ。
「一撃閃光、ハヤブサ出撃します!」
「うわー、みんな格好いいね」
「サーバルちゃん、私達も向かいましょう」
「そうだね。かばんちゃん、あのナヴァロンをパッカーンしちゃおうね」
「そうだね」
「ラッキーさん、作戦通りよろしくお願いします」
「解ったよかばん…。確り捕まっていてね」
「うっおお、動いたー」
戦車に乗る、かばん、サーバル、ラッキービースト、ブラックジャガー、ホワイトタイガーが森の中を進んでいった。
かばんはキューポラから上半身を出して周りを警戒する。
「かばんさん」
「ハヤブサさん」
「この先はセルリアンは見当たりません」
「解りました、砲撃を合図にホワイトタイガーさんと一緒にセルリアンの陽動をお願いします。」
「了解しました」
「そろそろ作戦開始の時間ね」
遠くの上空からナヴァロンに気付かれない様に様子を窺うハクトウワシとオオタカ。
「みんな配置に付いたかな」
「かばん、そろそろ時間だよ」
「解りました。ラッキーさん、目標前方のセルリアンでお願いします」
「了解、砲弾装填完了…」
「発射っ!」
戦車から放たれた砲弾が前方に布陣していた台形型のセルリアンに命中する。
「始まったわ」
「キャプテン、二時の方向っ」
「来たわね、引き付けるわよオオタカ」
「了解!」
赤、青、緑などの三角形をした空飛ぶセルリアンの編隊にハクトウワシとオオタカの編隊が突入する。
「よし、今だ。てぇやー!」
「はぁー!」
「ハヤブサっ、やつらをナヴァロンから遠ざけるぞ」
「解りました!」
逃げると見せかけて後退するホワイトタイガーとシマハヤブサを追撃する様に台形型のセルリアンが付いていく。
「行ったみたいだよ」
「急ぐぞ、サーバル」
「次弾装填…」
「ええと、三時の方向、発射…」
「次弾装填…」
「今度、十時方向、発射…」
「うわぁぁぁ、ラッキーさん!」
「任せて、かばん」
ラッキービーストは、戦車の操縦桿を素早く切り返して、突撃してきた小さな台形型セルリアンを回避する。
今度は、大きな台形型セルリアンが戦車にのし掛かろうとすると、砲塔を回して振り払おうとし、砲口が丁度セルリアンに掛かった。
「次弾装填…。発射…」
「凄いや、ラッキーさん」
砲撃で大きな台形型セルリアンの石を砕いた。
「かばんちゃんが言ったとおり、セルリアンはいないみたいだね」
「サーバルっ、危ない!」
「セルリアンだ! なんで」
「ナヴァロンのやつ、数匹だけ護衛を残していたのか」
「ブラックジャガーさん、行くよ」
「サーバル、こいつらは他のセルリアンより強いぞ、気をつけろよ」
サーバルとブラックジャガーは野生解放で攻撃する。
一撃必殺でサーバルとブラックジャガーの技が炸裂し、セルリアンを蹴散らした。
「ブラックジャガーさん、上」
そこには触手を伸ばしたナヴァロンのギョロリとした目がサーバルとブラックジャガーを見詰めていた。
「チッ、なんだ。また寝床を荒らしに来たからムカついているのか。守りは部下にやらせて自分はのうのうと高みの見物をしているから寝首を掻かれるんだよ」
ナヴァロンが触手を伸ばしてブラックジャガーに襲い掛かるが、ブラックジャガーは触手を避け、そのまま触手を駆け上ると、一撃必殺を食らわせた。
「サーバル、こいつの石は見付かったか?!」
「うん、背中だよ」
「よし」
「ブラックジャガーさん、後ろ!」
「タァー!!」
「ハヤブサっ!」
「ブラックジャガーさん…、良かった…」
ブラックジャガーを助けようとしたシマハヤブサがナヴァロンの触手に捉えられ、食われてしまう。
「ハヤブサっ、クソォ!!」
「大変、ハヤブサちゃんがっ!」
「なんだよ、その目。オレへの仕返しのつもりか…」
ナヴァロンを睨み返すブラックジャガー。
「サーバル手を貸せ、野生解放で同時に攻撃を仕掛ける」
「うん、解った。ハヤブサちゃんを助けよう」
サーバルとブラックジャガーは野生解放で攻撃すると、連携攻撃が炸裂する。
だが、ナヴァロンも執拗に触手を繰り出し、ブラックジャガーを襲い、手応えを感じた。
「残念だったな…、お前の負けだナヴァロン」
捕らえたブラックジャガーの笑みを見た瞬間、ナヴァロンの核が砕け、パッカーンと身体がキューブ型に砕け散った。
その時、解放されたシマハヤブサを空中で抱き抱えて着地する。
「ありがとう…、ワンマンアーミー」
「オレは、ただのコックだって…」
ブラックジャガーの腕の中で気を失うシマハヤブサ。
「サーバルちゃん、ブラックジャガーさんっ」
「良かった、無事だったんだねかばんちゃん。あれ?!」
その時、ラッキービーストのメモリーから立体映像のミライさんが現れた。
「ようこそ、ジャパリミュージアムへ! ここは世界中のありとあらゆる絵画と彫刻を精巧なレプリカや学術的に貴重な生物の標本や化石などを展示公開しています。また、今回の特別展では、ヒトとフレンズをテーマにした作品も展示公開してます。是非見に来て下さいね!」
「そうなんだ、だから絵がこんなに…、あっ」
かばんがふと見上げると、そこに巨大な絵画があり、みらいさん、サーバルちゃんとその他のフレンズ達に白衣を着た髪の長い女のヒトが楽しそうにしているパークの日常が描かれていた。
次の日、かばんとサーバルは、はぐれたフレンズ達を探しにもといた街道に戻ることにした。
少し寄り道が長かったが、きっと他のフレンズ達もかばんのことを信頼して待っていると思ったからだ。
「もう、行くのね」
「寂しくなるわ」
「また、遭おうな」
「世話になったな」
「あのう、ありがとうございました」
「うん、また来るよ。今度はフレンズのみんなも連れてね、かばんちゃん」
「そうだね、サーバルちゃん。あっ、ところで皆さんこれからどうするんですか?」
「そうだな、宿敵ナヴァロンも倒したし、ビースト・フォース解散か?」
「いいえ、ナヴァロンは倒したけど、パークには未だセルリアンが我が物顔で蔓延っています。だからみんなで少しずつでも良いからセルリアンからパークを解放していきましょう」
「さすがねハヤブサ。もう、元の調子に戻ったみたいね」
「はい、だってワンマンアーミーが正式に仲間に入ったんですから、これでビースト・フォース完全復活です!」
「オレは、未だ仲間になるって言ってないぞ。ただお前達の飯と装備はオレが担当することになったけどな」
「良かったですね、ハヤブサさん」
「かばん。もし、セルリアンのことで困ったことがあった私達を呼んで、きっと力になるから」
「はい!」
「それじゃあ、皆さん」
「この道を真っ直ぐ行って森を抜ければ、街道に出られるから」
「道中気をつけて」
「はい、いろいろありがとうございました」
「またねー!」
みゅーじあむ アルケミスト @Alchemist-Erica
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