キリン探偵のアミメ推理

三角ともえ

『羽根が見ていたもの』

ある朝、『ロッジアリツカ』の主人アリツカゲラは首を捻りつつ、ロッジの食堂へ現れた。

「あの~、どなたか、夜中にジャパリまんを食べませんでした~?」

「ジャパリまんを?」

 先にいた宿泊客の作家・タイリクオオカミに聞き返され、アリツカゲラは頷く。

「はい~。お客様の朝食用に用意していたジャパリまんが減っていたんですよ。それも、たくさん」

「またサーバルじゃあないのかい?」

「今日はサーバルさん泊まっていませんし、あの量はとても一人じゃあ食べ切れませんよ~」

「つまり事件ですね!」

 立ち上がったのは、宿泊客であり、自称・探偵のアミメキリンだった。

「私にお任せください先生! その事件、今度こそ名探偵アミメキリンが解決してみます!」

「なら、お手並み拝見させてもらおうかな」

「えぇ~……」

 以前に起きた『事件』で、キリンの探偵としての実力を知っているアリツカゲラは、先程よりも困った表情を浮かべた。


「というわけで犯人は貴女達のどちらかですね!」

「ええっ!? 何がですの!?」

「……」

 食堂へやって来た二人の宿泊客……シロサイとハシビロコウは、突然キリンから宣言されて、対称的な反応を示した。

 ハシビロコウは無言でキリン達のほうをじっと見つめ返し、事情を聞いたシロサイは猛烈に抗議し始める。

「お待ちなサイ! どうして私達が犯人になるんですの!?」

「それは容疑者が貴女達しかいないからです! 昨日の夜、ロッジに泊まったのは私と先生の他は、貴女達だけ! 私は犯人ではありませんし、先生が犯人の訳ありませんから、犯人は貴女達のどちらかで決まりです!」

「何ですの、その強引な推理は!?」

「事件が起きたのが、貴女達が泊まりに来た夜だというのも、偶然にしては出来すぎです! これは必然だったのです!」

「泊まりに来た理由は、昨日ちゃんとアリツカゲラさんに話したでしょう!?」

「私は聞いていません!」

 胸を張ってキリンに言われ、シロサイは頭を抱えながら、自分達の事情を説明する。

「私達は皆で『ゆうえんち』へ行っていたのですが、ヘラジカ様に『私はジャガーと一勝負してくるから、お前達は先に帰っていてくれ!』と言われたので、ハシビロコウに『ゆうえんち』から『へいげん』まで一人ずつ運んでもらっていたのです。けれど何往復もして、さすがにハシビロコウも疲れてしまったため、最後に残った私は、彼女と一緒に、途中にあるこのロッジに泊めてもらうことにしたのですわ」

「それでおなかが減って、夜中についジャパリまんを」

「食べていません!」

 言い争うシロサイとキリンの間に、アリツカゲラがおろおろと割って入る。

「あの~キリンさん、証拠もなく他のお客様を犯人呼ばわりするのは、程々にしていただけると……」

「証拠! 証拠ですか! その発想はなかったのです!」

「なかったんですか~?」

「では証拠を見つけに行きましょう! ジャパリまんが消えた部屋に連れて行ってください!」

「犯人扱いされたまま黙っていられませんわ! 私達も連れて行きなサイ!」

「……」

「じゃあ私もご一緒させてもらおうかな」

 かくして、一同はアリツカゲラを先頭に、ぞろぞろと食堂を後にした。


「このお部屋が、ジャパリまんを置いてた部屋ですが~」

 アリツカゲラに案内された部屋には、ジャパリまんが山盛りに入ったカゴが並べられており、いくつかのカゴは空になっていた。

「確かに、他のカゴと同じくらいジャパリまんが入っていたのだとしたら、一人で食べるには多すぎる量だね」

 オオカミの言葉に、キリンははっとした表情でシロサイ達を振り返る。

「それはつまり、犯人はどちらかではなく、貴女達二人の共犯……!」

「何でそうなるんですの!?」

「おや……」

キリン達のやり取りを余所に、オオカミは空のカゴのそばにしゃがみ込んだ。立ち上がった彼女の手に握られていたのは……

「これは、鳥の羽根だね」

「鳥の羽根! 本当ですか先生!」

 オオカミの手の中の羽根を確認したキリンは、今度はハシビロコウへと振り向いた。

「これぞまさに動かぬ証拠! 犯人は貴女です、ハシビロコウさん!」

「……」

 なおも黙ったままのハシビロコウに代わって、隣のシロサイがキリンに言い返す。

「お待ちなサイ! ハシビロコウは昨晩、私と同じ部屋に泊まっていました! 犯人のはずがありませんわ!」

「ということは、やっぱり貴女達二人の共犯!」

「だーかーらー!」

「お、落ち着いてくださ~い」

「……」

 キリンの屁理屈に、頭をわしゃわしゃとかきむしるシロサイ。おろおろするアリツカゲラ。固まったように動かないハシビロコウ。

 そんな一同を尻目に、なおもカゴの周りを調べていたオオカミは、再び何かを発見した。

「ここにも羽根が落ちているな」

「ほら、やっぱり!」

「いや、この羽根、最初のものと種類が違うな」

 オオカミは部屋のところどころに落ちていた羽根を拾い上げ、注意深く見比べた。

「間違いない。この部屋には、二種類の羽根が落ちている」

 オオカミの言葉に、アリツカゲラは首を傾げる。

「でも昨日、ロッジに泊まったお客様の中で、鳥のフレンズはハシビロコウさんだけですが~?」

「ふっふっふっふ。わかりました!」

 突然笑い始めたキリンは、指をびしっと突き付けた。

「犯人は、貴女です!」

 その指の先にいたのは、アリツカゲラだった。

「え、ええ~!?」

「正確には、アリツカゲラさんとハシビロコウさんの共犯です! 二種類の羽根が落ちていたのが、その証拠! 依頼人であり被害者であり第一発見者が犯人という、意外な真相だったのです!」

「わ、私は犯人じゃありませ~ん」

「言い逃れしようとしても無駄なことです! 羽根を見れば、貴女とハシビロコウさんのものだということは……」

「違うな」

 ヒートアップしたキリンの言葉を、オオカミが遮った。

「この羽根、よく見ると両方とも、先がふわふわしている。アリツカゲラどころか、ハシビロコウのものとも違う感じだ」

 手にした二種類の羽根を見つめ、オオカミは考え込んだ。

「それにこの羽根の匂い、どこかで嗅ぎ覚えが……」


「さっきからうるさいのです」

「うるさくて眠れないのです」


 突然の声に一同が振り向くと、そこに立っていたのは……

 アフリカオオコノハズクの博士と、ワシミミズクの助手の、二人だった。


「我々、ヒグマに料理を作ってもらいに行っていたのです。ヒグマは火を怖がらないので」

「帰り道、我々、おなかがすいてしまったのです。だからロッジで、料理を食べていくことにしたのです」

「そこで我々、ジャパリまんに料理をつけて食べると美味しいことを思い出したのです。だからジャパリまんを分けてもらったのです」

「料理とジャパリまんを食べた我々は、今まで隣の部屋で眠っていたのです。我々、本来は夜行性なので」

 以上が、博士と助手の口から語られた、事件の真相だった。

「お泊まりになるのは大歓迎ですけど、今度からは、一言教えてくださいね~」

 とアリツカゲラ。

「ご覧なサイ! ハシビロコウは無実だったじゃあありませんか!」

 シロサイに言われ、キリンはハシビロコウに頭を下げた。

「ごめんなさい……でもでも、じゃあどうして、ずっと黙っていたのですか?」

「……それは」

 キリンに問われたハシビロコウは、ついに口を開くと、ずっと見つめ続けていた相手……キリンの隣にいた、オオカミに向かって、こう言った。

「私も、『ホラー探偵ギロギロ』のファンなんです……握手してもらっていいですか?」

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キリン探偵のアミメ推理 三角ともえ @Tomoe_Delta

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