エピローグ 永遠のゲーマー少年少女たち

「どうも、久しぶり!」


 あの熱かった東京ゴリンピックから数ヶ月。

 久しぶりに戻った東京はクリスマス一色で、ここゲームショップ・ぱらいそも稼ぎ時とあって大勢のお客さんで賑わっていた。

 

「おー、有名人のご来店だー!」


 いつも同様に明るく出迎えてくれたのはヒルの奥さんで、ぱらいその看板娘、今もなにやらセクシーサンタとやらで冬だというのに真っ赤なビキニ姿で愛想と色気を振りまいているなっちゃんさんだ。


「あ、九尾君やん。有名人やのに、そんな素顔で出歩いてて大丈夫なん?」


 なっちゃんさんの声に久乃さんもカウンターから歩いてやってくる。


「よろしかったらサングラス、お貸ししましょうか?」


 そう言って不意に背後から肩を叩くのは黛さん。


「いや別に大丈夫ッス。もう注目されるのにも慣れたんで」


 おおう、我ながらなんてカッコイイ台詞だ。

 でも、実際にそうなんだよ。

 あのゴリンピックが終わって、俺は一躍有名人になった。念願の大手スポンサーも手に入れたし、幾つかの企業のCMにも起用された。

 だが、それ以上にやはりあのアルベルトを破った新王者というのは全世界的にインパクトを与え、ワールドサーキットで世界各地を転戦している間も至る所で注目されて、サイン攻めにあった。

 最初はやはり変装なんかもしてたんだが、そんなことをやっても見破られる時はあっさり見破られる。だったら、もう最初から何も隠さないでいこうと思い至った。

 おかげで今では空気を吸うようにサイン出来るようになったぞ。


 まぁ、あの戦いが終わった後、敗因を知ったアルベルトは俺との戦闘では超重力を使わなくなったし、海原アキラやヒョードーも香住が開発した重力発生装置を使うようになったので、世界ランクはいまだ5位なんだけどな。とほほ。


 ま、それはともかく。


「で、美織は……って聞くまでもないか」


 俺は苦笑いを浮かべ、いつだって店内でも一際賑わっているそこへ目を向ける。

 幾つかの試遊台が並べられているそのひとつに、美織が例によってお客さんとゲームで遊んでいた。


「美織ちゃん、九尾君が来てくれたで」


「あ、そう。ちょっと待たしておいて。今はそれどころじゃないの」


 久乃さんの呼びかけに答えながら、美織は狙い済ましたように前方を行く対戦者のカート目掛けて甲羅を発射。見事にぶち当てて、スピンする相手を颯爽と抜き去る美織のカートに一位のチェッカーフラッグが振られた。


「うっし。王者防衛成功!」


 両拳を天高く突き上げて、喜びをその小さな体全体で表す美織。

 いつだってこいつはどんな対戦であっても本気で戦い、本気で喜ぶ。根っからのゲーマーだ。


「で、九尾が来た所で時間は……っと、丁度いいみたいね」


 久しぶりに会ったというのに挨拶どころか、こちらを見ることもなく、美織が今まで遊んでいたディスプレイの画像を切り替える。

 どうやらPCが繋がっていたみたいで、そこから何やら操作し始めた。


「よっ。みんな揃ってるな」


「あ、レン。なんだ、お前も美織に呼び出されたのか?」


「ああ。なんか知らないが急に来いって。で、一体なんなんだ?」


「分からん。当の本人もさっきまでゲームしてたと思ったら、挨拶もせずにPCを弄り始めるし、相変わらず美織は一体何を考えて」


 いるのやらと呆れ声を続ける前に、突如として画面に見知った顔が映し出された。


「ダーリンと司君だぁ」


 なっちゃんさんが歓喜の声を上げる。

 が、それ以上に俺たちが注目したのは、彼らの後ろにでかでかと掲げられた看板に躍る文字……。


「『AOAワールドカップ開催決定!』だと?」


 なんだそれは? 聞いたことがない。普段やっているワールドサーキットと何が違うんだ?


 と思っていたら、香住がモニターの向こうで説明し始めた。

 なんでも先のゴリンピックでの成功を受けて、マックロソフトが主催する世界大会を開催するらしい。

 普段は一部の実力あるプロゲーマーしか参加できないワールドサーキットと違い、参加資格は別になし。これもゴリンピックで美織たち未知なる強豪が次々と現れた影響だろう。


 うん。なるほど、面白そうだ。おまけに天下のマックロソフトが主催とあって、賞金もひとつの大会にしてはかなりの破格。これは俄然やる気になってきたぞ。


「ただし大会は個人戦で、参加できる選手はひとつの国につき一名のみとします。皆さん、頑張ってくださいね」


 へ? ひとつの国につきひとり、だって?

 おいおい、日本には海原アキラやヒョードーたちがいるんだぞ?


「そしてアメリカ大会にはこちらのヒルさんが、日本大会には僕も参加します。これを見ているだろう健太や店長たち、悪いけど日本代表の座は僕が貰うよっ!」


 予想だにしなかった厳しすぎる予選内容に唖然としているところへ、香住がこちらを名指しして挑戦状を叩きつけて来る。

 ちょっと待て、香住。そんなことをしたら、きっとこいつらは――。


「ふっふっふ、面白いじゃない。私も参加するわ」


「いいねぇ、ゴリンピックの団体戦ではどうも美味しいところをみんなに持っていかれて欲求不満だったんだ。今度こそオレが主役を張らせてもらうぜ?」


「美織、予選当日は勿論私も有給を使わせてもらいますのでよろしくお願いします」


 ほらー、みんなやる気になったじゃねーか!

 海原アキラたちだけでも難敵だって言うのに、こいつらも参加するってどれだけ難易度をあげるつもりなんだよっ!


「むぅ、ゴリンピックの時も私と薫がいなかったから例の買取キャンペーンが出来なかったじゃない? だから結構買取が落ちちゃったのよ。出来れば私たちふたりが同時に休むのは回避したいわね」


「だったらどうでしょう、今ここでぱらいそ代表を決める戦いをするって言うのは?」


 え、今、黛さんが何かとんでもない事を言ったような……。


「いいわね、薫! ナイスアイデア、それいただきよ」


「おう、オレもいいぜ。もちろん、九尾もいいよな?」


「え? いや、俺はほら、ぱらいその元常連であって、スタッフじゃなかったから、その戦いに参加する権利はないっていうか、その」


「何言ってんの。チーム・ぱらいそとして一緒にゴリンピックで戦った仲じゃない。今更水臭いわよ」


「いや、水臭いとかそんなんじゃなくて、何の準備もなくお前らとは戦いたくないと言うかっ!」


 いや、マジで。こっちはプロゲーマー、しかも今や世界ランク5位の有名人なんだぞ。

 それがいきなりこんなところで、世界有数の実力者たちと大きな大会への参加権を賭けて何の準備もなく戦うなんて、そんなのハードすぎやしないか!?


「はい、つべこべ言わずにやるわよ」


「うぎゃー、誰か助けてくれー」


 俺の悲壮感漂う叫び声がぱらいそに木霊する。

 その後、どうなったかは……またいずれ、別の機会に。

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疾風怒濤のナインテール! タカテン @takaten

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