【   号室】の入居者 in 人格ヒルズ

ちびまるフォイ

ようこそ人格ヒルズ!

「あなたが人格ヒルズマンションの入居者ね」


「大家さん、よろしくお願いします」


「100部屋あるうち、入居者は10人。

 空いてる部屋は使っていいから」


「ガラガラじゃないですか!!」


荷物をとりあえず最上階の角部屋に運んだ。

ウキウキの新生活がはじまった。


しばらく生活していると、自分でもわかるほど気持ちが落ち込んでいった。


「なんだろう……毎秒1回は死にたいって思うようになる……」


マンションのベランダから外を眺めると身投げしたくなる。

これはさすがにまずいと部屋を出たとき、ドアのプレートに目が行った。



【ネガティブ号室】



「……なんだこれ?」


「あなた、この部屋を選んだの? 物好きね」


「大家さん。この部屋ってなんですか?」


「人格ヒルズは部屋ごとに、住んでる人の性格を変えていく。

 ここに住んでいればだんだんとネガティブになるのよ」


「部屋の選択間違えた……」


「最初にいったように、空き部屋の移動は自由だから

 自分のなりたい性格の部屋で生活するといい」


大家さんもそう言っていたので、まずは人格ヒルズの部屋を全部見てみることに。


「ポジティブ号室、おおざっぱ号室、神経質号室、

 のんびり号室、せっかち号室、ナルシスト号室……なんでもあるな」


どれが今の自分に一番合っているだろう。

新しい職場で仕事がはじまることから、神経質ぐらいがいいのだろうか。


「……ん? この部屋なんだ?」


一室だけ、プレートになにも書かれてない部屋があった。



【  号室】



入ろうとしてもドアには鍵がかかってる。

かといって、誰かが入居しているわけではない。

空き部屋なのに入居を拒んでいるようだ。大家さんに聞いてみても、


「あの部屋はダメ」


とだけ。



「ふふふ、そういわれると気になるなぁ」


【好奇心号室】に入居を決めた俺にとって「ダメ」は挑戦を待っているようにしか聞こえない。

そこで、なにも書かれてない部屋の隣の部屋に入り、ベランダを伝って開かずの部屋へ入る。


「よしよし、窓の鍵はかかってないのか」


部屋に入ると、中はほかの部屋と同じだった。

なにか特別な性格が芽生えるのかと期待していたがそれもない。


「……あれ? なんだこの部屋。

 ほかの部屋みたいに自分の人格が部屋に合わせて変化しないぞ」


ただの部屋なのか。

わざわざ不法侵入したかいがない。


部屋を出ようとしたときに、ドアがガチャリと開いて大家さんが入って来た。


「なっ……! どうしてこの部屋に!? あれほど入るなと言ったのに!」


「大家さん、心配しすぎですよ。この部屋、なんともないじゃないですか。

 性格も変わらないし」


「あなたにはこの部屋に入ってほしくなかった……」


「だから大丈夫ですって。この部屋、なんの部屋なんですか?」



「ここは……"ありのまま号室"。

 他の部屋とは違って、自分の本心を包み隠すことができなくなる」



「ああ、なるほど。どうりで大した変化がなかったのか」


ひとりで納得していると、大家さんが抱き付いてきた。


「お、大家さん!?」


「……だから、あなただけには入ってほしくなかった」


「それってどういう……」


「あなたとこの部屋に入ったら……自分の気持ちを隠せなくなるから」


「大家さん……!」


大家さんはうるんだ瞳で俺を見上げていた。

その恋をしている顔を見て、俺は告白を決意した。





「大家さん、男、ですよね……」

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