1-8 ギルド


「魔法は浪漫だけどそれにしてもやっぱり日本にいたかったな~。新鮮な食材もない。快適な生活環境もない。水も綺麗じゃない。なんだよこれ。無い無い尽くしじゃねーか」


俺は1人ふてくされていた。ファンタジーな美味い魔物の飯?肉?ご飯? そんなもんは、貴族の飯だと。


さっき乗せてもらった馬車は案の定、運が良かっただけらしい。普通の庶民は肉なんて贅沢はできない。せいぜいパンが食えるかどうかというレベル。


奴隷も聞いた話によるといるらしいが、いったいどんな生活を強いられているのか想像したくもないな。だいたい俺はまだこのファンタジー魔法世界に来てから数日しか経っていない。その数日で既に酷いことになっているというのに...


そして俺は今、冒険者ギルドの前にいる。

「冒険者ギルド、きたーーー!」

ギルドの前、周りの厳つい空気の中でも俺は感情を昂らせるのを抑えられなかった。だってギルドだぞ? 架空の組織が目の前にあるんだぞ。

「おい、要。なんでそんなに嬉しそうなのかは、知らねーが、今からお前は、死にに行くんだと思ってないのか?」


俺はその言葉で一気に冷めた。

「え?」


「どういうことですか?」

俺は恐る恐る質問した。しかし、その質問で更に呆れ果てたのか可哀想な人を見るかのような顔で見てくる。

「はぁ、どういうことも何も当たり前の事だろう? 一体どんな田舎に住んでいたんだ? そもそもお前の倒れていた道はアッセンディ平原のほぼど真ん中。あんな所まで普通、徒歩で行けないぞ!」

「はぁ...」

「その反応を見るにアッセンディ平原という地名ですら知らないようだな...説明するのも面倒だ。とりあえず中に入って冒険者登録してきてくれ。良いな?」


すると、俺は背中から勢いよく背中から押し出された。このままだとそのままドアにぶつかりそうだったので思わず開いてしまった。

中は、賑わっていた...というか酒場だ...

その殆どの人が軽そうな革鎧、または、金属性の重たそうな鎧に身を包み武器を装備している。俺みたいなひょろひょろっとしてそうな人は少ないくらいだ。


ヤバいぞ...チート有るのに自信なくなってきた。

みんなじろじろ見てくるし。とにかく、この酒場の奥にカウンターが見えるし、そこに並んでいるみたいだから行こうか。

並ぶと直ぐに見知らぬ人から声をかけられた。なんか、いかにもって感じの人だ。

「おい、てめーはあっちじゃねーのか?」

その人は、クイっと左側に指先を向けた。


その先には、俺と同じぐらいの少年から、子供がカウンターに並んでいる姿が有った。それらは、皆貧しそうな服を着ていて、鎧のような防具もつけていなく、少女も混じっている。

「あれは?」

「何だ。知らねーのか?ここは、ギルドの本登録だ...と言っても登録したところで直ぐに魔物と戦えるって訳じゃない。あそこは、貧しい人用のカウンターだ。仮登録は無料だからな」

「貧しい人...、日本基準だったら殆どの人が生存権に当てはまるだろうな」

「日本基準?何だそれは」

「え、いや、何でもないです。聞かなかったことにしてくれると嬉しいです...」

「それで、金あるのかお前は?登録料は、10銀貨だぞ」

「お金⁉︎あ、そりゃあ必要か...」

(持ってる訳ないだろそんなもん!1つも持ってねーよ!聞いてないぞ!)

「何だ、持ってないのか?」

にやにやしながら聞いてきた。くそぉ、うざいけど持ってないもんは持ってないんだし仕方がない。


「持ってない」

「なら、お前のその着てるやつ。10金貨で買い取ってあげよう」

「着てるやつって?これか?」

「ん?あぁ、それでも良いぞ」

「まぁ、これくらいなら」

俺は上着のジャージを脱いで手渡した。10金貨を確認する。この世界の貨幣価値がどのくらいかは知らない。


学校のジャージ。数少ないあっちの世界の物だけど、今の俺には必要がない。どうせこれから防具も買うんだ。お金になるならその方が良いだろう。

「確認した。まぁ、あとは頑張れよ」

「え...はい」


自分の順が回ってきた。受付嬢は、ピンク色の髪に蒼い目。顔立ちは西洋で美人だと思う。もう、俺は驚かないぞ...これ。

「新規の方ですか?お若いですね」

「はい。登録しに来ました」

冷静にしないとな...緊張するけど平常を保つんだ。そして、カードっぽい物を持って来て言ってきた。

「それでは、ここに血を垂らして下さい」

「血を...?はい。分かりました」


自分の指をナイフで少し切る。赤い液体が出てくるとともに痛みが来るが我慢する。

「はい。完了です。あとはこのカードを放っておけば自然と出来ますので大丈夫ですよ。はい、では、金を頂きます。10銀貨です」

「あの...これでも大丈夫でしょうか?」

俺は、日本で良くあるファンタジー世界を描いた 作品の貨幣価値を信じて1枚金貨を渡した。

「これは、金貨ですね。お釣りを用意します。はい。銀貨90枚です。ご確認ください」

渡されて確認してくださいと言われたがちょっとこれは無理があるだろう...90枚は重いって。


「それでは、冒険者ギルドへようこそ!ギルドについての説明を聞きますか?」

「はい」

「それでは説明しますね。まず、冒険者はランク分けされています。最初のランクは、Gです。その次はG+となっています。全部言うとややこしいのでこちらの表をご覧になってください」

そう言いながら、学校でよく渡されるぐらいの大きさの紙を手渡された。


「昇格するにはどうすれば良いですか?」

「昇格は、クエストをこなしていけば、自然と昇格できますよ」

「魔物とかを討伐したらどうすれば?」

「死骸...というより、部位を持って来ていただければ大丈夫ですよ。それにしても質問が的確ですね」

「そうかな...」


この世界マジでゲームの世界なんじゃねぇの?なんて、思ったりしているが...どちらにしろ確認する術がないよな。そんなこと言ったら日本で暮らしていた世界もゲームじゃないと言い切ることはできないんだし。

「他に聞きたいことは有りますか?」

「あ、クエストって契約金かかりますか?」

「はい。でも大丈夫ですよ。報酬は大抵契約金の10倍ぐらいは有りますので。それに、報酬と一緒に戻って来ますので」

「え?じゃあ、あそこに張り出されているクエストに、報酬金書かれてるけどそれって一緒に戻ってくる契約金も含まれているの?」

「含まれていませんよ、まだ、有りますか?」

「いいえ」


「分かりました。では、また来るのをお待ちしています」


結局お金の枚数の確認はせずに袋に入れて冒険者ギルドから出ることにした。あ、一体どれぐらいお金返せば良いんだろう?


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

俺は運頼みのくじ引き能力で異世界を生きていく 煜焔 @ni_wschk

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ