かろうと
たんばたじかび
かろうと
秋も深まった昼下がり、雲一つなく晴れ渡る空にパトカーのサイレンが激しく鳴り響いていた。一台、二台の数ではなく、いつもは閑静な住宅地が蜂の巣を突いたかのような大騒ぎになっていた。
三好はそれらから身を隠すように物陰に潜み、上がった息を整えた。
自分の犯してしまった大罪にひどく怯えながら――
空き巣狙い、三好はそれを生業としている。
日中の留守宅を狙い、施錠されてない窓を探し出して忍び込んでいた。大金は盗まず、目についたわずかな金品だけを盗る気の小さな男だった。
効率のいい仕事とは言えなかったが、大それた事は犯したくない。その日をしのげる金があればそれでよかった。
そうやって根無し草の三好は全国をふらふらと回っていた。
絶え絶えになっていた息がようやく落ち着いてくると全身に震えがきた。
きょう狙ったあの家は確かに留守のはずだった。チャイムを押しても何の反応もない。ガレージに車もない。子供用の自転車はあったが、まだ小学校の修業時間内だ。
三好はもう一度チャイムを鳴らして留守を確認すると、人目に注意しながらぐるりと家の周囲を回って窓を調べ始めた。
風呂や洗面所の窓は開け放されていたが面格子がはまっていて侵入することができなかった。工具でわざわざ外す輩もいるがそこまで手間をかけたくない。
三好は最近空き巣のできる家が少なくなったので焦っていた。
せっかく見つけた留守宅だ。何としても忍び込みたかった。軍手をはめた手で閉まっている窓を念入りに調べた。そうやって探っていると、隣家の壁と接した奥まった場所の窓がすっと開いた。
思わず口元が緩む。枠を全開にすると、境界線のブロック塀を足掛かりにして侵入した。
足を下ろした場所は和室だった。畳に泥の足跡が付く。
今までもこうやって足跡を残してきた。きっと警察は念入りに調べているだろう。まだ指名手配はされていないので三好のことはわかっていないのだろうが、いつかは捕まると覚悟していた。
和室には和箪笥が二竿あった。その引き出しをすべて探ってみたが、金目のものは見つからず、見栄えがいいわりに中身がお粗末だと舌打ちする。
隣に続く襖を開けるとキッチンと繋がった居間があった。テレビボードや食器棚の引き出しも探してみたがここにも金目のものはなかった。
「ちっ、小銭でもいいから置いとけよ」
小声で独り言ちながらキッチンを出ると廊下を挟んだ正面に階段が伸びていた。
手ぶらで家を出ることに納得がいかず、普段用心して行かない二階まで足を延ばすことにした。
それが間違いだった。
三好は完全に油断していた。留守宅だと信じ込んで上がってすぐのドアを確認もせず全開してしまった。
そこにはベッドに横たわり額に氷嚢を当てた少女とその横に腰かけた年配の女がいた。
突然のことに二人は声も出せず、目を丸くしていた。
三好も驚いたが、素早くジャンパーのポケットから折りたたみナイフを取り出して刃を向ける。
「大声を出すな。殺すぞ」
できるだけ凄んでみせたが、声の震えが自分でもわかった。
「この子には何もしないで」
怯えて白くなる少女に老女が覆いかぶさった。
ここまで来たらもう後には引けない。盗るものを盗らないと。そして早く逃げださなければ。
「か、金を出せ」
手の震えを誤魔化すため三好はナイフを大げさに振り回した。
女がサイドテーブルの上のバッグを取り、財布を出すと三好の足元に放り投げた。
二人にナイフを向けたままそれを拾って、中身を確認する。ここまで危険を冒して小銭だけというのはあまりに腹立たしい。
財布の中には一万円札が数枚入っていた。こぼれそうになる笑みを必死で抑え、つかみ出した札をポケットにねじ込む。
金に気を取られた三好の隙を突き、女がバッグから携帯電話を出していた。
目の端でそれを捉えて頭に血が上る。
「てめぇぇっ」
女に飛びかかり、白い髪を鷲掴みしてベッドから引きずり下ろすと頭を数回フローリングに叩きつけた。
起き上がった少女がそれを見て鋭く長い悲鳴を上げた。
ぐったりとした女から手を放し、少女の小さな口を塞ぐ――つもりだった。実際は三好の大きな手が少女の顔全部を覆い、枕に埋もれてしまうほど力任せに押さえ込んでいた。
我に返った時、少女は目を見開いたまま動かなくなっていた。
鼻血を流した女が起き上がり、三好を押しのけ少女にすがりつく。喉が避けそうなほど泣き叫び、小さな体を抱え上げて激しく揺さぶった。だが、少女はその慟哭に答えることはなかった。
「人殺しぃぃぃ」
女は鬼面のような顔を上げると呆然とする三好につかみかかってきた。
それをとっさに振り払い、倒れ込んだ女の喉元にナイフを深々と突き立てた。
口からぐぼぐぼと血の泡を噴き出し、全身を痙攣させながら怒りに燃える目で三好を睨んでいたが、しばらくして女は息絶えた。だが死んでもなお恨みの眼差しは失われておらず、ぎらぎらと光る眼で三好を見つめている。
「あ、あ、あ」
犯罪者だが、血に塗れた死体を見るのは初めてだった。もちろん、殺人を犯すのも。
膝ががくがくと震えて動くことができない。
だが早く逃げなければ、悲鳴を聞きつけた誰かがやってくるかもしれない。
三好はナイフを女の喉から引き抜いた。傷口からまだ多量の血が溢れ出してくる。
竦んだ足を無理やり動かし、部屋を出て転げ落ちないよう注意しながら階段を下りた。
もとの和室に戻る頃には少し冷静さを取り戻していた。窓から頭を出し、人の声やパトカーの音が聞こえてこないか耳を澄ませる。何の気配もないので、まだ誰にも気づかれてないのだと胸を撫で下ろした。
窓を乗り越えて深呼吸する。
肺の中の血の臭いが消えた気がした。
隣家に挟まれた隙間から出て行くと塀の向こうに顔があった。エプロンをつけた中年女が不安げに中を窺っている。
隠れようとしたが遅かった。目が合ったとたん、女は凄まじい悲鳴を上げて逃げ出した。
改めて自分の姿を眺め三好は震えた。返り血を浴びたジャンパーに血を吸った真っ赤な軍手。その手に握られた血濡れの折りたたみナイフ。
今の悲鳴は確実に周辺の住人たちに届いただろう。見つかるのも時間の問題だ。
逃げた主婦も今頃警察に通報しているに違いない。
三好は急いで塀を乗り越えると広い道を避け、細い路地を選んで入り込んだ。無我夢中で路地から路地へと逃げ回り、人気のない物陰にひとまず隠れて上がった息を整えていた。
パトカーのサイレンの音が幾重にも重なって鳴り響いている。その中には救急車のサイレンも混じっていた。
少女の白い死顔と死してもなお自分を睨む女の目を思い出す。
人を殺してしまった恐怖が三好を苛み、その上に警察に見つかる恐怖が重なっていく。
警官があの現場を見たら、凶悪な殺人鬼の仕業だと信じて疑わないだろう。見つかれば有無を言わさず撃たれるかもしれない。
でも俺は気の弱い、ただの空き巣狙いだ――
近くの路地を野次馬たちがあの家の方に向かって走っていった。この辺りもだんだんと騒々しくなり始めている。見つかる前にどこかに隠れなければ。夜までやり過ごせたら闇に紛れて遠くへ逃げよう。
三好は物陰から頭だけ出して左右の確認をした。今のところ人はいない。素早くその場を離れ、次の路地に入り込んだ。再び路地から路地へ走り抜け、できるだけあの家から遠ざかった。
ブロック塀に囲まれた路地を抜けるといきなり二車線の車道に出た。一般車両が二、三台通り過ぎただけで通行人はいない。
道を挟んだ向かい側には白壁が長く連なり、それを目で追っていくと古びた寺の門が開いていた。
全速力でその古刹に向かって道路を横切り、誰にも見られていないことを確かめると敷居をまたいだ。五段ほどの苔むした階段を降りてから、三好はやっと足を緩めた。
石畳の参道は今にも朽ちそうな本堂に続いている。
黒い僧衣を着た住職らしき坊主頭の老人が本堂前に散らばる枯葉を草箒で掃いていた。三好に気が付くと手を止め、にっこり笑った。
「何か御用ですかな」
頭が直接肩に繋がったような猪首で、柔和な表情をしているが薄気味悪い。
三好は乾いた血糊のついたナイフを突きつけた。
「騒ぐと殺すぞ」
「おやおや」
住職は動ずることなく笑顔のままで、「この騒ぎはお前さんじゃな」と鳴り響くサイレンが見えるかのように視線を巡らせた。
「うるさいっ」
「まあまあ、そんな物騒なものしまいなさい。いったい何が望みじゃ。金か。ここは見ての通り、金などありはせんぞ」
ほっほっほっと住職は笑う。
「少しの間、かくまってくれ。夜まででいい。通報しようとしたらお前を殺す」
「坊主を殺すと大罪じゃぞ。この世だけでない。あの世に行ってもお前は責苦から逃れられん」
「う、うるさいっ。黙れっ!」
三好はナイフを大きく振り回した。再び殺人を犯すつもりはなかったが、恐怖が我を失わせていた。
刃が草箒の柄にかつんと当たる。
「おお怖い、怖い」
それでも住職は恐れることなく笑った。
坊主というものは恐怖を感じないものなのか。それとも、こいつの胆力が据わっているだけなのか。
三好はにたにたと笑う住職に寒気を感じた。
「まあ、ここに逃げてきたのも何かのお導きであろう。
さっ、こっちにいらっしゃい」
住職は草箒を本堂に上がる階段の脇に置くと三好に手招きした。本堂へ誘われるわけでも庫裡に招かれるわけでもなく、墓地のほうへと導かれている。
「おい、クソ坊主。どこへ行く気だ」
温柔に見せかけて自分をはめようとしているのかもしれない。三好は警戒した。
「ささっ、こっちじゃ」
住職は質問に答えず、先に歩きながら僧衣のたもとを揺らして振り返っては手招く。
警察が捜査範囲を広げたのか、とうとう白壁の外まで騒々しくなってきた。
寺に聞き込みに来るのも時間の問題だと焦った三好は、とりあえず誘われるまま墓地のほうへと移動した。
広い墓地に佇むたくさんの墓はこの寺同様古いものばかりで、供花が手向けられているものは一つとしてなかった。卒塔婆も黒く変色して朽ちているものばかりだ。
点在する苔むした巨大な五輪塔は子供の頃テレビで見た戦国武将たちの墓に似ていて、もしかしてここは由緒ある寺なのかもしれないと思った。
住職は古い墓をピラミッドのように積み上げて造った無縁塔の後ろまで行くと再び手招きした。
無縁塔とはもう誰も参ることのない墓の供養塔だ。
呼ばれるままその後ろに回ると、住職が塔の下段に並ぶ墓石の前にしゃがみ込んでいた。
「何してるんだ」
住職は黙ったまま墓石の間にはめ込んだ薄い石板をずらした。そこには身を屈めれば入れそうな四角い入口が開いていた。中は空洞になっているようだが暗くてよく見えない。
「ささっ、ここへ隠れなさい。ここなら決して見つからん。ただ中はちと狭いでな、足から入らんと体勢がつら――」
三好は住職の言葉を遮った。
「てめえ、俺をこんなとこへ閉じ込めて、警察にチクるつもりじゃねえだろうな」
「そんなことはせんよ。仏に仕える身じゃ嘘は言わん」
躊躇している間にも塀の外がますます騒がしくなってくる。大声で指示を飛ばしている会話から警察関係者なのは明らかだ。
「さっ、早う、早う」
住職に促されて仕方なく三好はナイフをたたみ、意を決してバックで足から潜り込んだ。砂利が敷き詰められているのか下ろした足裏でがりっと音がする。
住職の言う通り中は本当に狭い。腕を広げても肘がまっすぐ伸ばせず、座ると頭上に多少の余裕があるだけだった。
「では」
笑みを湛えた住職が石板をもとに戻す。
「裏切んなよっ」
三好は凄んでみたものの、通報されたら一巻の終わりだ。信じるしかなかった。
閉じられると一瞬真っ暗闇になったが、石板の縦の隙間からわずかだが光が差し込んでいるので少しほっとした。
湿った土と黴のにおいがひどい。
しばらくの我慢だ。坊主の言う通り、誰もこんなところへ隠れているなど考えないだろう。ここらあたりにいなければ警察は捜査を切りあげる。夜にはここから出て遠いところへ逃げるとしよう。
三好はひとまず緊張で凝り固まった体の力を抜いた。
身じろぎするたび、三角座りした尻の下で砂利の音がする。
「ごつごつと痛えな」
そう独り言ちた時、自分の踏んでいるものが何なのかに思い当たった。
これは石じゃない。無縁墓から掘り出された骨(こつ)だ。
「あのクソ坊主。俺に骨なんか踏ませやがって。バチが当たるだろうが」
三好は舌打ちして文句を垂れたが、
「二人も殺しておいてビビるこたぁないか」
と笑いながら隙間から外の様子を窺った。
「おいおい、なにしてんだよ」
額に浮き出た汗が頬を伝う。
無縁塔から数メートル離れた場所で住職がじっと立っている。
満面の笑みを湛えてこちらを見つめていた。
「んなとこで、こっち見て突っ立ってたらおかしいだろうが。まさか、誰か来たら教えるつもりか――
ちっ、見えてねえと思って。バレバレなんだよっ」
怒りで足に力が入り、骨がぱきんと音を立てた。暗闇に慣れた目が足下にある頭蓋骨を見つける。割れた眼窩が三好を見上げていた。
「わっ――」
叫びそうになり、慌てて口を押さえた。
欠片の中に形を留めた骨がたくさんあることにも気づいた。歯のついた頭蓋骨がごろごろしている。土葬時代の焼かれていない骨なのかもしれない。そう思うと腐敗臭が漂っている気がした。
「ったく気持ちのいいもんじゃねえな」
もっとほかに隠れるところがあるだろう。住職の口も塞がないといけないし。
三好は外に出ようとして自分で石板を押してみた。だがびくともしない。隙間に指先を入れて横に引いてもまったく動かなかった。
外からしか開けられないのかもしれないと思い、住職を呼ぼうとした時、男たちの声が近づいて来た。
ああもうだめだ。あの野郎、ここに俺がいることをきっと教える。
三好はぎゅっと目を閉じた。
「まさかこんなところに隠れてませんよ」
若い男の声がする。
「そうだな。塀の裏にでも潜んでるんじゃないかと思ったが」
年嵩の別の声も聞こえたが、住職の声はしない。
チクらないのか?
三好は隙間を覗いた。住職はさっきと同じ場所で突っ立ったままだ。その前をいかにも刑事だという風体をした胡麻塩頭の男が通り、その後ろを若い男がついてきたが、その二人に声をかける様子はない。
二人も住職を無視して石板の近くまで来た。
心臓が早鐘を打つ。
「塩見先輩、もう行きましょう。なんか気持ち悪いですここ」
「まあそう言うな。こういう場所でも一応調べないと」
「もうっ。一目瞭然じゃないですか。ただの空き地でしょ」
「念には念をと思ってな」
胡麻塩が笑った。
空き地?
三好は首をひねった。
「でもここ変なとこですね。塀だけ残して何もないって」
「倉田。お前、赴任して来たばかりだから知らんだろうが、ここは忌地なんだよ」
「イミチ?」
「忌まわしい地と書くんだ。檀家がみんな死に絶えた寺の跡だそうだ。
子供の頃、祖母さんから聞いた昔話だがな、ある檀家の娘がいたずらされ殺されたあと自分の家の墓下に埋められていたそうだ。
檀家たちは住職を疑った。もちろん本人は否定したが、みな信じて疑わなかったらしい。
僧職に就きながらなぜそこまで疑われたのかわからんが、檀家たちは怒りに任せて住職を殺し、本堂を焼き払った。
だが、犯人は娘の家の番頭だった。そいつは自白した後、住職が来ると言って狂い死にしたらしい。
檀家たちは怯え、住職の供養をしようとしたんだがその前に全員死んでしまったそうだ。親族一同、生まれたばかりの赤子まで、根絶やしだ。
いわく付きの寺は終戦まで放置されていたんだが、戦後の復興時にようやく撤去されることになった。
いろんなことが起こったって祖母さんが言ってたよ。墓石は全部魂抜きしてきちんと処分したし、更地になった土地で大法要を営んだにもかかわらずだ。
この白い塀の中は使えない土地なんだよ。いまだに。
そういうこと実際にあるんだよ。刑事の言うことじゃないけどな」
「や、やめてくださいよ。僕、そういうの弱いんです。早く出ましょう」
情けない声に胡麻塩男は笑いながら踵を返した。若い刑事が後を追いかける。同じ場所にはまだ住職がいたが、そちらを見ようともしない。
三好は震えが止まらなかった。
じゃ、さっき見た本堂や墓は何なんだ。そこに立つ坊主は誰なんだ。この無縁塔は? 俺はどこにいるんだ
「おいっお前ら、そこに坊主がいるだろうがっ。
お前もなんとか言えよ。犯罪者がここにいますって言えよっ」
隙間に口を近づけて叫んだが、二人とも振り向かない。
嫌な汗が噴き出してくる。
「おーい。俺はここだぁ。おーい」
刑事たちが見えなくなっても声の限り何度も叫んだ。喉が切れたのか、微かな血のにおいが鼻に抜ける。
「おーい。出してくれぇぇ」
石板を叩く。押したり引いたり、蹴ったりもしてみたが動くことはなかった。
刑事たちはとうにいなくなり、住職だけがじっと立っている。
「ほーい――はひへ――ふへぇぇぇ」
もう嗄れて声が出ない。爪も剥がれ肉が抉れて石板が血に滑る。腕にも力が入らなくなった。
とめどなく涙が流れ、うつむいて咽び泣いた。
澱んだ空気に気配を感じ、三好は頭を上げた。
「ひっ」
左に骸骨が座っていた。右にも座っている。斜め前にも。後ろにも――何体もの骸骨が三好を囲んでいた。狭い穴のはずなのに今は無限に広がる闇の中だった。
隙間の光だけが一縷の望みだ。
すすり泣きながら細い光に向かって目を近づける。向こうから住職の目が覗いていた。
奥から生臭い風が強く吹き込み、闇が渦巻く。
その渦に三好の体は呑み込まれていった。
「いらん時間を食ったな。あの塀の向こうに隠れてるように感じたんだが、俺も年かな」
「そんなこと言わないでくださいよっ、先輩。
でもさっきの話、やけに詳しく知ってるんですね、先輩のお祖母さん」
「もっと詳しく聞いたんだけどなあ、忘れちまった」
「そうなんですか」
「――子孫なんだよ」
「えっ」
「住職の家系なんだ、俺の祖母さん。住職の姉だか、妹だかの娘。いや孫だったかな。そんなことも忘れちまったよ」
「へええ。すごいですね」
「ははは、何がすごいんだか」
「塩見先輩。僕思ったんですけど、やっぱりバチって当たるんでしょうね。何もしていない住職を寄ってたかって殺した人たちが全滅したんでしょ。
まあ、恨みとか呪いとか祟りとかそういう言葉もあるけど、結局バチが当たったってことですよね。
そう考えると、今逃げてる犯人も絶対バチ当たると思います。
だって無抵抗な少女とお祖母さんを殺したんですよ。当たらないはずないっ」
「ははは、そう力むな。
なるほどバチが当たるか――そう思うお前はいいやつなんだな。
俺はな、悪いことした奴らは呼ばれていると思ってるんだ。恨み辛みでできた悪霊が自分の力をさらに強くするため、呪われた奴らを呼び寄せているとね」
「えっ、どういうこと?」
「ははは。お前にはわからんよ。俺みたいに性根がねじくれてないとな。
ところで倉田。今回の事件、長丁場になるぞ。そんな気がする。もしかしておみやになるかもな――
いや、そんなこと言ってちゃいけないな。ご遺族のためにも気を引き締めてかからないと」
「はいっ。頑張ります」
「ははは、やっぱりお前はいいやつだな」
※ かろうと・・・墓石の下に設けた石室。納骨室。
かろうと たんばたじかび @ominaesi
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