21 聖女、救済する
それから千年後の歴史書には聖女アンナ・アッカーマンがリンダリアという国を創造したと記されている。荒野の彼方から現れた神の使いは、初代皇帝にしてローギル教の預言者であった。
伝承では、アンナはかつて大いなる業の数々を用い、人々は繁栄を享受したが、やがて聖女の力を求めて争いを起こし、彼女は神罰を下し、すべてを吹き飛ばしたとのことだ。
万物が滅んだあとで彼女は灰から新たなる王国を築いた。
自らが支配する、永遠の聖地を作り上げたのち、彼女は彼方へと消えたとされているが、その後どうなったのかは定かではない。
一説には彼女は自らの故郷へ帰還し、そこで神の教えを広げたとされている。
「今でもわからないことがある。パンダは生まれたばかりのころはものすごく小さいだろう。それがどれだけ巨大に成長したら、パンダではなくなるのだ? 上限はいくつだ? この世界でもっとも大きいパンダがいて、そいつの二倍のサイズのパンダはパンダなのか? あるいはパンダをモチーフにした怪獣なのか? 分からないな」
アンナが答えのない問いを口にしながら弄ぶのは、両方が表のコインだ。それはもとは二枚だったが、完全にひとつになっている。
海辺の都市に、彼女を見るものはいない。ただ巨大な建造物の数々が聳え立っている。世界中の人々は消えうせ、物言わぬ無機物だけが彼女とともにある。
眼下に街を仰いで、聖女が佇んでいるのは巨大な女神の像が掲げる松明の上だ。
「ここは聖堂だ。私の声を聞く伽藍だ。次の世界も同じようにして、ただ我が声が響くだけにしよう。そののちに混沌が生まれる。世界群は接続され、単一の聖堂となるのだ」
聖女は最後に、自らの故郷であった世界を一瞥すると、次なる世界へ旅立った。
晴天の空から落ちた一筋の稲妻のあと、世界は完全に静寂に満ちる。
ANNA 異世界よりの聖女 END
ANNA 異世界よりの聖女 澁谷晴 @00999
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