第21話 偽勇者-2-
『はじめ!!!!!!!!!』
アナウンスが言ったと同時に大きな爆発がなる。
勇者とギルドマスターが剣を掲げて同時に前に出た。
剣と剣がぶつかり合い大きな音が鳴り響く。
それだけなのに観客たちは歓声を上げていた。
「なかなかやるようだな」
俺は戦闘真っ只中の2人の動きを見る。
ギルマスは巨体な身体に見合った大剣を大きく振りかぶり、遠心力を加え攻撃力を増していた。
勇者側は先程からギルマスに何か言いながら剣撃だけで交わしていた。
お得意の魔法攻撃は使わないのだろうか。
「主人様、ただいま戻りました」
俺の耳元でクロエが囁いた。
ここまで全く気配を感じさせないことから相変わらずすごいやつに育ったものだ。
この前まで何もできなかった子供のように感じていたのにな、50年前だが。
「どうだった?」
俺はクロエから話を聞く。
ふむ、あの偽勇者と村長が繋がっているか。
全く、予想どうりに進んでいくから驚かせてくれる。
あれがまともな奴なら勇者の候補にしても良かったのだが、期待は裏切ってくれるか。
「わかった、ご苦労様、良かったら見ていくか?」
「主人様の御命令とあらば」
・・・・なんだか最近クロエの態度がおかしい。
普段ならもう少し俺に砕けた態度を取ってくるのだが、なぜだかおかしい。
別に忠誠心を誓っているわけではないのでそこまで堅苦しくなる必要はない。
裏切られてりするよりかはましだが。
「ぐはぁ!!」
お?どうやら先に進んだようだ。
俺は戦いへと意識を戻す。
どうやらギルドマスターが壁に飛ばされたようで口から血を吐いていた。
勇者と言うと平然とした態度で闘技場の真ん中に立っており、雷を帯びた剣を前に突き出していた。
そうか、それであれだけ余裕をかましていたのか。
「クロエ、あの剣を見たことあるか?」
「はい、確か雷の聖霊が所持していた雷剣だと」
雷剣とは世界の平和を守るために聖霊が用いた剣のことで、特に雷に特化していたことからその名が付いた。
さらに言えば火に特化した炎剣や風に特化した風剣、水に特化した水剣などがある。
ちなみに剣の素材は何処で手に入れたかというと、結局俺につながるのだがそこは毎回のことなのでいいだろう。
つまり、あの勇者は何らかの方法で雷剣を手に入れたという事になる。
「あれを持っているという事は雷の聖霊が認めたか、奪ったという事になるな」
奪うなんてことはできると言えばできるが、それでも結構な実力が必要だ。
なんせ何処からともなく降ってくる雷を避けながら聖霊本体にダメージを与え、そのまま剣だけを引き抜いて行かないといけないのだから。
基本魔法攻撃も聞かないから完全に腕だけで戦わないといけない。
しかし鉄の剣は電気を通してしまうので意味がない、さらには自分がダメージをくらうと言うデメリットしかない。
だからと言って木の剣で行けば、一瞬にして粉砕され使い物にならなくなる。
これほどにも攻略が難しい。
「主様、どうしますか?」
クロエが偽の勇者の方を睨みつけながら腰に手を当て暗器である投げナイフを取り出そうとする。
俺はそれを止めて、指示を出す。
「クロエ、お前はあのギルドマスターが負けた瞬間あの場に出て高らかに宣言しろ。自分は勇者のメイドだとな」
「し、しかし、それでは逆に私たちが偽物として疑われる可能性が‥‥」
「それで戦えと言われれば簡単に証明できるし、そのまま逃げるならそいつの首を召し上げるまでだ。ちょうどそこにどこかの国の王様がきているようだからな」
闘技場の司会者がいる席の後ろ、そこには阻害魔法が付与された布が掛けられていた。
だいたいああいうのは国の代表者なのが見に来ているときに使われるものだ。
国王や帝王、族長や村長、団長や班長などいろいろな奴が来る。
そして今回布の前に護衛がいることからどこかの国の国王だろうと予測できる。
はっきり言って間抜けだ、相手に情報を漏らしているようなものなのだから。
クロエはその話を聞き、頷いてその場を離れた。
離れていくクロエの姿に何人かの人が顔を赤くして見つめ居ていたが、さらっと何処からともなく鉄拳が飛んできていたので大丈夫だろう。
ギルドマスターが剣を振るう、その衝撃で大きな風圧ができ竜巻のように周りの砂を巻き上げる。
勇者はそれを避けながら雷剣に魔力を流し、力を出し始める。
雷剣の周りに青白い電気が走り、勇者の周りに小さな雷が起きる。
直感でそれを危険だと判断したのかギルドマスターが後ろの方へとステップで下がり剣を両手で構える。
「貴様、その剣はなんだ?」
相手が勇者なのにもかかわらず貴様呼ばわりするギルドマスターに俺は少しだけ面白く感じた。
勇者の方は何も思ってないのか顔は平然としていたが、周りの雷が増えているので内心では怒っているのだろう。
「僕にそんな態度を取ってもいいのかな?」
勇者が雷剣をその場で軽く振った。
ギルドマスターは剣を防御の構えで持ち、あたりを警戒する。
雷が数個飛んで行き、ギルドマスターの剣へとぶつかった。
先ほど言った通り、電気は鉄を通る、結果ギルドマスターは全身にしびれを感じることになり剣を手から落としてしまった。
「しま‥‥!」
ギルドマスターは急いで剣を取りに行こうとする、しかし遅かった。
すでに攻撃を始めていた勇者の一撃が入ったのだった。
その場を雷と爆炎が包み、あたりは粉塵に巻き込まれる。
この大会は殺してはならないルールだったのでもしこれで死んでいたら勇者の負けなのだが形式上は負けであっても結局は生きているので試合的には勝ちだ。
しかも下がるのは勇者の評判なので結局俺の方へと被害がくる。
「やはり起きてきてもいいことないな」
俺は独り言をつぶやいた。
―――『それは困るな』
何かが脳内で話しかけるように言葉が響いた。
そして空には大きな黄色い二重魔法陣が展開する。
俺は魔法陣を見て即座にどういうものなのかを解析し、確認する。
どうやら中心で回転している小さな魔法陣の方が転移魔法陣で、大きな方は巨大なライトを出す物だった。
「また無駄な魔法を使うな」
俺はため息を吐く。
魔法陣は光を強めてやがて明るい空をも超える明るさへと達する。
『我は雷を司り者』
そんな言葉が響き魔法陣が崩れものすごい光の粒が会場、いや村ごと巻き込む。
魔力放出の残骸なので別に何か効果があるわけではないのだが、それでも村にいた人たちからすればめったに見れないような魔力量なので驚きだろう。
『我の剣を貸し与えた者よ、主の命により返してもらうぞ』
魔法陣が無くなったその先には、金髪で胸にさらしを巻き、武闘家みたいな恰好をした活発な女性が出てきた。
一見すると完全にはしゃいでいる子供なのだが、あれは雷の聖霊だ。
「ど、どうしてここが‥‥」
青年は冷静になろうとしているのか動揺が隠し切れずに声が途切れてしまっている。
どうやら彼にとっても予想外の展開だったのだろう、それは彼だけに言えるわけではなく俺もなのだが。
「私が呼んだのですよ」
そんな声が会場に響き、闘技場にいた全員が声の主を見る。
その声の主は司会者席の後ろ、つまり何処かの貴族が観戦している場所の上に立っていた。
「何者だ!僕を勇者だと知っての行動か!」
青年は雷の剣を向ける。
しかし、魔法は発動せず微動だにしなかった。
その焦りからか直接攻撃へと行動に出た。
「知っていますよ?だから呼んだのです」
クロエはそう言って右手を軽く横に振った。
青年が向けてきた剣を雷の聖霊が弾き飛ばした。
壁に打ち付けられた青年は服にあらかじめ仕掛けていた防御魔法を発動し自分へのダメージを少なくする。
それでも聖霊の攻撃の反動は凄まじかったのか反動を逃せず口から血を吐いていた。
流石は聖霊だと言ったところだ。
「き、貴様!一体何者だ!」
青年はさっきの攻撃によって骨が多少骨折しているものの激しい殺気を出していた。
どうやら自分より強いものがいるなど許されないといった感じだ。
「私ですか?人に尋ねるときはまずは自分からでは?」
青年はそいつを睨み殺すほどの眼光を光らせながら口を開く。
「っく‥‥俺は勇者の『グリム』だよ、貴様は!」
「私は貴方ではない本物の勇者に従えているメイドです」
「な!」
青年は全身の身体から熱が無くなっていくのを感じていた。
このままでは自分が勇者を語っている偽物とばれてしまうから。
観客たちが今の発言により動揺を隠しきれずこそこそと話しているのがうかがえる。
これは俺は出なくても押し切れそうだな。
「それで?私の剣は返してもらえるのかな?」
雷の聖霊が威圧しながらグリムを睨む。
グリムは立ち上がり剣を手に取った、それは返すためでなく攻撃をするために。
クロエは闘技場へと降り立ち手を前に出す。
雷の聖霊がもう一本の雷の剣を抜き取り構える。
先に動いたのはグリムだった。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
力を入れて上段から剣を振りかぶる。
聖霊はそれを受け止め後ろに爆風が飛ぶ。
クロエはその爆風を風魔法で上の方へと吹き飛ばし自分に来る方を流す。
聖霊・クロエとグリムとの戦いが始まった。
青年は再び世界を救う……のか? 瑜嵐 @yuyami_y
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