第20話 偽勇者-1-

 ???視点


「しかし、うまくいくもんだな」


 男は呟く。

 その部屋で一際大きい椅子に座り、上等な酒を飲みながら。

 酒を飲むその顔はとても優越感に浸っている。


「それはそうでしょう、私とあなたでこうなるようにしているのですから」


 男の目の前にある応接用の長椅子に座っている白いローブを羽織り、頭だけを出している青年がそのつぶやきに答える。

 そう、まさしく本人が勇者を語っている者だ。


「それを言ってしまったらそうだが、これもそれもあなたの考えだろう?」


 男はそう言う。

 つまりはこれは何か仕掛けがあると。


「ですがそれは貴方の依頼があったからで来たことですよ」


 青年はそう言って大きい設計図を出す。

 それはこの村長の家の裏手にある闘技場の詳細図だった。

 しかし、それには怪しさ満点の魔法陣が椅子や闘技場内通路に刻んであり、闘技場を囲むように大きな魔法陣が一個ある。


「この魔法陣の実験がこのようにできるとはね」


 青年はそう言って懐から手帳を出してさらに書き進める。

 そこには現在の魔法陣が書いてあり、さらに詳しい説明が載っていた。

 いわゆる、魔導書に近い物だ。


「これでさらに人が集まるでしょうね」


 青年は手帳を懐に戻し、その設計図を燃やした。

 几帳面な奴である。


「まあ、このままいけば順調に金が集まるだろうな」


 そう言って男は酒のお代わりを注いでいた。

 瓶から出てきたお酒はグラスにきれいな放物線を描きながら入っていく。

 瓶の中身を全部入れると男はさらに酒を飲み進める。


「でもまだ足りないんでしょう?」


「ああ、そうだな」


 すると青年は一本の剣を空間から取り出した。


「これは?」


 男は聞き返す。


「これはあの魔法陣が刻まれた剣ですよ。さすがに相手がすぐ倒れてしまっては観客も楽しくないでしょう?」


 そう言って二人はにやりと笑う。


「「お互いの利益のために」」


 そう言って二人の話題は平凡な物へと変わっていく。





 ―――それを聞いていた者なんて気づかずに。




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 ジン視点


「さて、ここか」


 俺は目の前にある円型闘技場を見る。

 どうやら話は本当らしく配られていた対戦者カードに「勇者vsギルマス」と書いてあった。

 こんな森の中にある村にギルドなんてものがあったほうがびっくりだが、それよりもこの戦いで勇者の正体が本当にあの話通りなのか確認するほうが優先だ。

 俺は受付で金を払って、観戦の券を手に入れて中に入る。

 中は戦うこと以外のことを考えていないのか石で作ってある壁や天井など以外特に何もなかった。

 券で指定されている席に行くと、すでに多くの人々が座って今か今かと待ちわびていた。


「おい、そこの兄ちゃん、ここは初めてか?」


 俺が周りを見渡していると1人のがっちりとした冒険者の男が話しかけてきた。

 どうやら俺がここにきたのが初めてだと気付いたらしい。


「ああ、そうだ」


 俺は肯定の返事をする。

 すると男は二本の剣を差し出してきた。

 それぞれの剣には青と赤の魔石がはめられていた。


「お前はどっちが勝つと思う?」


 どっちが勝つかね。

 そうか、この剣はそのための奴だと言うわけだな。

 よく見ればほかの所でも配られているのが見えた。


「そうだな、ギルマスじゃないのか?」


 俺はあえて勝てない方を選ぶ。


「そうか‥‥お前で五人目だよ、勇者じゃない方に賭けるのは」


 男は意外そうな口調でそう言って、赤色の魔石が入って剣を渡してきた。

 魔石には何らかの魔法陣が刻まれている。


「これは?」


 俺は聞いてみる。

 しかし男も知らないようで


「ああ、この剣はな勇者様が特別に作った奴なんだけど、どんな奴はわからないんだ、村長が配れって言ってたから配ってるんだ」


 と言った。


「わかった、ありがとう」


 俺はそう言ってとりあえず自分の席に座る。

 すると自分の中から魔力が引っ張られるような感じがした。

 どうやらこの椅子には魔力吸収の魔法陣が刻まれているらしく、座った観客から魔力を吸い取っているらしい。

 俺は魔眼を展開する。

 すると、吸い取られて魔力は勇者側の戦闘待機エリアへと吸い込まれているようだ。


「やれやれ、そんなことか」


 勇者と聞いていたから少なくともこの時代で強いやつかと思っていたのに、そうではなかったか。

 人の魔力で戦いに挑むとは。


 身の程を知らないな。


「さて、この戦い。面白くなりそうだな」


 俺はそう言って魔力の吸収量を抑えた。

 流石に無くなることは無いが、だからと言ってそうやすやすとくれてやるものでもない。

 魔力がなくなると人間は生命活動に大きな支障をきたす。

 流石に死にはしないが、生活にそれなりのやりづらさが出てくるだろう。

 まあ、自然に回復するから、一日経てば普段の生活に戻れるが‥‥


「ん?」


 俺は突然何か違和感を抱いた。

 人間ではありえない魔力を探知したのだ。

 探知能力はいまはこの闘技場内に範囲特定しているので、この観客の中にいるのは確定だろう。


「あいつか?」


 俺は反対側にいる一人を見る。

 そいつは顔を見られないためか黒いローブを深々と被って、認識阻害魔法をかけていた。

 俺にはバレバレだが。


「あの魔力量は‥‥魔族か?」


 ローブを深く被っているので、しっかりとはわからないが魔力量的には魔族に匹敵するものだった。

 大体、周りの冒険者たちと変わらない身長でぱっと見にはわからない。


「あの背丈‥‥どこかで‥‥」


 俺は50年前の記憶を掘り起こす。

 しかし、思い出せなかった。



『ただいまより、勇者様とギルドマスターの試合を開催いたします!」


 俺が思い出そうと唸っていると、突然アナウンスが鳴り試合開催の合図を出した。

 どうやら司会は女性がやるらしい。

 観客たちが大声を出して叫ぶ。

 何か戦争前の人間たちの雄たけびのようなものに似ている。

 俺はさっきまで考えていたことを一旦置いといて、試合に集中することにする。


「さて、楽しませてくれよ」


 俺は席にしっかりと座る。

 魔力が吸い取られる感じがしつつもアナウンスの方へと耳を向ける。


『青コーナー!50年の伝承よりよみがえった伝説の勇者様!一体今回はどんな戦い方を見せてくれるのか!』


 アナウンスがそう言うと、青い扉の方から白いローブを着て、白髪の青年が出てきた。

 歓声が一層強くなる。

 どうやら彼が勇者で間違いないらしい。


『赤コーナー!この村の小さいながらの冒険者ギルドのギルドマスター!しかし、その強さは王国の騎士とも並ぶと言われている!」


 そう言って赤い扉からがっちりとした男が出てくる。


「ギルマスー!頑張ってくださーい!」


「俺たち応援してますよー!」


 どうやらギルマスの方には応援がきているようだな。

 ああ、だからほかにもギルマスの方を選んだ人がいたのか。


 闘技場の戦闘エリアに出た二人は中央まで歩く。

 青年からは何も感じないが、ギルドマスターの方からはものすごい覇気を感じる。

 どうやらやる気らしいな。


『ルールはいたってシンプル!

 相手を殺さずに降参させた方の勝ち!骨折などはありだけど、相手の身体を切り落とすことなどは禁止だよ!

 制限時間は無制限!どちらかが戦闘不能になるか降参するまで試合は続くよ!』


 どうやら殺さずのルールはあるらしい。

 まあ、それはそうだろうな。

 じゃないと勇者が有利すぎる。


『お互いこのルールでいいかな?』


 アナウンスが二人に確認する。

 流石に試合前にルールぐらいは確認しているだろうから、直前になってルールに異議を立てることもないだろう。

 二人は頷いた。


『了承を頂きましたので、ただいまより試合を開始したいと思いまーす!』


 観客たちが静かになる。

 全員が唾を呑んで、戦闘エリアの二人に釘付けになっていた。


『それでは!』


 そう言って、闘技場の真上が小さい魔法陣が展開する。

 どうやら爆発魔法で花火みたいなのを起こし戦闘合図になっているようだ。

 そして闘技場内が完全に静かになる。


『はじめ!!!!!!!!!』


 アナウンスがそう言った。と同時に大きな爆発がなる。

 勇者とギルドマスターが剣を掲げて同時に前に出た。

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