第19話 勇者?

「これはまた騒がしいな、珍しい」


 俺とクロエは見つけた村を視界に入れた。

 村は遠くからでもわかるぐらいにぎわっており、商人やら冒険者やらがたくさんいる。

 何やら祭りをやっている感じだ。


「主様、あれを」


 クロエが村の近くに立っていた看板を示す。

 そこには『勇者様復活!ぜひ闘技場にて!』と書かれていた。

 おかしいな、俺が復活したことなんてあの国ぐらいにしか知れ渡っていないはず‥‥いや、あの後国民にも知れ渡っているか‥‥それにしては情報の伝達が早すぎるな‥‥


「とりあえず行ってみるか」


「はい」


 俺とクロエはそのまま村に入った。


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 村は案の定祭りをやっていて、何やら大声で叫んでいた。人々の往来もすごい。

 この賑わいなら村じゃなくて、町としてもやっていけそうだ。

 この人混みだ村の長を見つけるのも一苦労だろう。

 まあ、勇者なんて情報がどこから出てきたのかも気になる。


「クロエ、少し調べてきてくれ」


 俺はクロエに命じる。


「了解しました」


 クロエはその命令を受けて、その場から煙のように姿を消した。

 もちろんほかの人々はそこに最初からいなかったかのように気づかない。


「さて、俺も情報を集めるとしますかね」


 俺は近くにあった村の地図を見る。

 地図によるとそこまで大きい村ではないらしい。

 何故、こんなところに地図なんて作ったのか不明だが、まああると言うことは必要なのだろう。

 地図上には鍛冶屋や雑貨屋、魔道具店に宿屋など、そんな情報が丁寧に書かれていた。

 もちろん目的地の闘技場も。

 どうやら闘技場はこの村の村長宅の後ろにあるらしい、地図を見ているときに後ろを通っていった村の人々が言ってたのを聞いた。

 絶対うるさいだろ、なんせ昼間なんてこの賑わいようだからな。


「この地図、一応取っておくか」


 もしも迷ったときに便利だからな。

 俺は空間収納から転写用の魔道具を取り出した。

 流石に張ってあるのを剥がして持っていくなんて言うことはしない。


 魔道具に転写する紙を入れて、魔力を流す。

 魔力により動いた魔道具はついている魔核で対象物を読み取る。

 カチッという音がして魔道具から紙が出てきた。

 紙にはしっかりと転写されており、問題なく使用できる。


 俺は魔道具と地図を無造作に空間収納の中へと放り込む。


「さて、行くか」


 俺はそう言って闘技場へと歩みを始める。

 道のりはさっきの地図とこの人だかりで分かる。

 先ほどからあちらこちらで「勇者様の戦いが見られるぞ!」と言って、人だかりがある一定の方向へと進んでいるからだ。

 あとはそれに乗っていくだけ。

 俺は情報を少しでももらうために周りに聞き耳を立てる。

 情報は生きていく上で重要だ。

 すると、近くの酒屋で冒険者同士の話が聞こえた。


「なあ、勇者様ってどんな奴なんだ?」


 お、早速勇者に関する情報か。


「確かな、白いローブを着ていて、白髪の若い男だってよ」


「伝承にそっくりだな」


「ああ、だから勇者で間違いないんだろうな」


 ほう、白髪の白いローブか。覚えておこう。

 俺はあいにく白髪でなく銀髪だからな、それは勇者ではないのだろう。

 つまりは勇者と名乗る偽物だ。

 一体何がしたくて勇者の振りをしているのかわからないが。


 お、あっちの中年の冒険者からも勇者の話だな。


「そういえば、お前、闘技場で勇者様と戦ったんだろ?」


 こっちは戦ったのか。


「ああ、あの時の体の興奮は今でも覚えているぜ」


「どうだった?」


「あれはなんというか‥‥そこらの魔物とかとは比べ物にならない強さだったぜ。俺でも太刀打ちできなかったからな」


 魔物と比べられる勇者様って‥‥

 俺じゃないからいいけど。


「そういえば、あの時お前一方的に殴られてきたんだっけか?」


「‥‥それを言うなよ‥‥あれは結構精神的にまいってんだぜ、戦いの途中に魔力が抜けるなんてよ。今までエンチャントしていても問題なかったのにな」


 ん?力が抜ける?どういことだ?エンチャントによる力抜けか?


「あの時も同じぐらいのエンチャント量だったんだろ?」


「ああ、いつも通りの量だぜ、普通なら力抜けなんてありえねえ」


 違うのか。

 それならどうしていきなり力が抜けるなど‥‥。

 まあ、いい。

 後々調べればいいことだ。

 クロエも何か情報を掴んでくるだろうしな。


「お前‥‥勇者相手によく生きてたな‥‥」


「‥‥あの時はさすがに死んだと思ったぜ‥‥」


 しかし、‥‥この試合、なんだか怪しいな。

 何か裏がありそうだ。

 俺はそのまま闘技場へと先を急いだ。


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 国王視点


「さすがにあれを使わないといけない‥‥か‥‥」


 国王は自室で1人呟く。

 何を考えているのかというと、もちろん勇者のことである。

 あの時は流れで国民に広がってしまったが、あれからすぐに国王命令を出しすぐに沈静化させた。

 とはいえ、情報が伝わるのは早く、あっという間に知らなかった国民にまで広がってしまった。


「あれを使うしかないか‥‥」


 国王はそう言って立ち上がり自室にある本棚の前に移動した。

 そして、上から2段目の右から3番目の古びた本を手前に引く。

 すると、本棚が壁から出てきて横にずれた。

 その先には少しのたいまつと階段があった。

 いわゆる隠し部屋と言うやつだ。

 国王はその階段を降り、奥へと進む。

 奥には、無駄に広い部屋がありたくさんの武器や魔道書、スクロールなどがあった。

 そう、ここは王家しか入れない宝物庫である。


「確かここにあったはず」


 国王はそう言って、小物が入っている箱を漁る。

 黄色や青色、赤色などに光っている宝石がぶつかり合って音がなる。


「お、あった」


 国王はそう言って箱の中から水色のクリスタルを取り出す。

 そのクリスタルは中に魔法陣が刻まれており、割って発動するタイプのものだ。


「俺がばれそうな時に使えとは‥‥勇者様が考えることはわからない。どうして自分の記憶を残しておきたくないのだろうか」


 そう、そのクリスタルの効果は『記憶消去』

 割った瞬間に発動圏内を決めて発動するというものだった。

 しかし、勇者であるジンによってとっくに圏内は決めてあるのであとは割るだけというところだ。

 もちろん圏内は王国全域。


「まあ、何かしら私たちにはわからない考えを持っているのだろう」


 国王はそう言ってそれを強く地面に叩きつけた。

 クリスタルは衝撃により弾け割れ、水色の魔法陣をその場に展開する。

 魔力は要らないのでこのまま待つだけである。

 出てきた魔法陣はその場で高速回転し、弾けた。

 これにより魔法を行使し終わったのだ。

 クリスタルの割れた欠片は光を出して消えた。


「何か変わったのか?」


 国王は思い出す。

 魔法学校にいたものすごい使を。


 そう、この魔法。消すのはジンそのものの記憶ではない。

 消したのはジンがと言う点で、ジンが魔法学校に居たという記憶はあるのだ。

 しかし、頭の中から完全に消し去ったならともかく、一部だけ消してしまうとその情報を埋めようと頭の中から別の単語へと変わってしまうのだ。

 つまりは、勇者から魔法使いへと変わったのだ。


「いつ帰ってくるだろうか、は」


 そう言って国王は隠し部屋もとい宝物庫から出た。




 しかし、このクリスタルの影響をものがいるとは‥‥


 この時は知る由もない。


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