第18話 内容が薄い戦い

「さあ、楽しませろ!!」


俺はそう言って魔物の群れの中に突っ込む。

もしこの場面を周りの人間が見ていれば狂人に見えただろうが、生憎いない。

魔物たちは武器を構え、俺の攻撃を凌ごうとする。


「そんなの無駄だ!」


俺はその武器ごと叩き斬った。

二つに切られた武器はそのまま地面へと飛んで行き、切られた魔物の方もきれいに真っ二つになる。


「グガァァァ!イクゾ!オマエタチ!」


上級スケルトンが自分の周りにいるスケルトンたちに指示を出し、即座に俺の周りを取り囲むように動く。

俺はそれを避けるために近づいてきて奴から切り裂いていく。

血は出ないが切られた骨から灰が飛ぶのでそれっぽく見える。

しかし、切り裂くだけでは当然間に合うはずがなく囲まれてしまった。

そして手を前に向けて魔法を一斉に放ってくる。

火や水、土魔法などが撃たれて俺の周りは粉塵が舞った。


「ヤッタカ?」


上級スケルトンが禁句を言いながら粉塵の方を見ていた。


「残念、生きているんだなそれが」


魔法攻撃による爆発の後、おれはすぐに自分の周りに障壁魔法を張ったのだ。

それにより相手の魔法は俺に届くことがなく終わった。

スケルトンたちはすぐに立て直そうと魔法を詠唱する。

そんなことはさせるはずもなく、俺は剣に魔力を込めてを振る。

魔力によってできた衝撃波はそのまま飛んで行き、魔物達を巻き込んだ。


「ツ、ツヨスギル!」


上級スケルトンはそう言って部下に前線を後ろに下げるように命じた。

しかし、それは許されなかった。


後ろに下がったはずのスケルトンたちが切られて飛んで行くのだから。


「ナ!ナンダ!」


上級スケルトンは後ろを向くと自分たちの部下は一人の騎士によってやられていた。

しかもそれは騎士のトップ、騎士団長だった。


「キ、キサマ!ナニモ‥‥」


上級スケルトンがその騎士の名前を聞こうとした。

しかし、それは叶わず、そのまま切り捨てられた。


「魔物ごときに名乗る名など、あいにく持ち合わせていない」


団長は剣を軽く振って鞘に戻した。

俺は剣を持ったまま話をする。


「どうしてここに?王宮の方はどうなったのです?」


「大丈夫だ、クロエ殿が防御結界を張ってくれたおかげで、ほとんどの騎士や国民を入れることができた」


よし、しっかりと起動したようだな。

一度死んだとはいえしっかりと魔法は行使できる。

俺は剣を空間魔法に仕舞う。


「では作戦通りに行きますよ」


「わかった、どうか頼む」


騎士団長はそう言って王宮への帰り道をふさぐようにいる魔物を切り捨てながら「お前たち!王宮に引き返せ!」とほかの騎士たちにそう言いながら戻っていった。


「さてやるか」


俺はそう言って転移魔法で王宮の上へと飛んだ。

そこではクロエが魔法陣に魔法を流したまま防御魔法を必死に保っていた。


「主様!早く!」


「ああ、分かった」


俺はそのまま空へと飛ぶ。

国民たちや魔法士、騎士たちがその様子を見ていた。

魔物たちは障害物がなくなったおかげか、王宮の方へと進行を開始していた。


「さて、最後の土産だ、受け取ってくれよ」


俺はそうつぶやき空に右手を掲げた。

右手にはすでにたくさんの魔力が流れていた。

その魔力量は普通に魔法士の最大の量だった。

まあ、俺からしたらこれでも全体の約二割だが。


俺はめったにしない詠唱を開始する。

自分で作った魔法でも、大きい魔法になると詠唱がどうしても必要になるからだ。


「我、魔法を行使し、あだ名すものを打ち払わん。

 すべてを恐怖の底へと陥れよ。世界究極凍結魔法〈アブソリュートゼロ〉」


そう言い放った俺の手から王都全土を覆うぐらいの魔法陣が浮かび上がる。

複雑な模様をたくさん作りだしており、理解することなど不可能だ。

じっくり見たのなら、50年前の魔法士なら解けるかもしれないがそれでも世界中から優れた魔法士を呼ばないと無理だろう。


「師匠‥‥あなたは一体どこまで追い求めればいいのですか‥‥」


リドールはそう言ってそれを見続けた。

それはあまりにもきれいで、幻想的で、目が離せないほど美しいのだった。

魔法士と言ってもこれだけの魔法を見たことがない。


「魔物ども、永遠の恐怖と凍結を知るがいい」


俺は手を振り下ろした。

魔法陣から無数の氷の塊が落ちていく。

それは太陽に照らされてきれいに輝き、まるで流れ星、いや、流星群のようだった。

その無数の氷の塊は魔物に当たるとその場で弾け、周りの空間ごと凍らせてしまった。


「ナ!ナンダコレハ!」


最初の上級スケルトンが死んだあと出てきた次の上級スケルトンはすぐに撤退の指示を出した。

しかしそれは遅すぎた、スケルトンをはじめスライムから吸血鬼までもが凍っていたからだ。


「グ!オレタチハ!‥‥」


上級スケルトンは最後まで言葉を言えずに凍った。

俺は探知魔法を使って魔物たちがすべて凍ったのを確認する。

魔族たちは逃げたのか範囲にはいなかったがいいだろう。


俺は手を握った。

すると、魔法陣は砕け散り、効力を停止した。

そして魔物たちが捕まっていた氷の結晶も同時に消滅する。

もちろん魔物ごと。


「これで終わりだな」


俺はそう言って国王の前まで飛び降りた。

途中国民たちが俺のことを冷ややかな目で見てきた。

俺はこの国を救ったはずなんだがな。


「国王、終わりましたよ」


しかし、俺がそう言っても、国王は反応しなかった。

国王はあれだけの大きな魔法陣を見たことが無いのか、驚きのあまり固まっていたのだった。

クロエが防御魔法を解いて降りてきた。


「主様、お疲れさまでした」


「ああ、お前もな」


俺はそう言って騎士団長のところへと向かった。

団長はいち早く状況を認識すると急いでほかの騎士に対して指示を飛ばしていた。


「騎士団長」


俺がそう言うと騎士団長グリードはその場でひれ伏した。

周りにいた魔法士たちが驚きの視線を向けていた。


「お疲れさまでした」


俺は少したじろぎながら答える。


「ああ、まあそう畏まってくれないでくれ、それは国王の前だけでいい」


「はい、わかりました」


グリードは立ち上がり、話を続ける。

国民などから「騎士団長をあれだけさせるなんて、一体あの子は何者なんだ?」と言っているのが聞こえた。


「しかし、流石ですね。あれだけの魔法を操るなんて」


「まあ、あれでも本気ではないがな」


「あれで本気ではないとは‥‥勇者様は言うことが違うな」


あ、おい!勇者って言ったら‥‥


「「え!?勇者!!」」


マイとリフィアがその言葉に反応した。

しかも大きな声で。

俺はため息をついた。


「ねえ!ジン君!勇者様って本当なの!?」


リフィアが俺に聞いてくる。

俺はそれを無言で突き返す。

すると、それを肯定とみなしたのか、リフィアが「本当だった!!」と言ってはしゃぎ始めた。

国民たちは驚いてその場でひれ伏す。

だから俺はそんな立場じゃないんだけどな‥‥


「‥‥おい、リドール」


俺は呟く程度の音量でリドールを呼んだ。


「はい、なんでしょう師匠」


俺の後ろ側でひれ伏したまま出てくる。


「俺は今から旅に出る、その間この国をしっかりと守っておけ」


「わかりました」


リドールは即座にその場から消えた。

俺は念話でクロエに話しかける。


『クロエ、旅に出るぞ』


『‥‥やはりそうなるんですね』


『ああ、やっぱりこいつらは連れていけない』


『‥‥そうですか‥‥国王様に報告しておきます』


『ああ、なるべく早くな、門で待っておく』


俺はそう言って移動を開始した。

国民たちはいつの間にかひれ伏すのを止め、至るどころで騒いでいた。

気づかれないように転移で行くことにするか。


「転移」


俺はそう言ってその場から門へと場所を変えた。


-----------------------------------------------------


「主様、本当にあれでよかったのですか?」


さてこの言葉を聞くのは何度目だろうか。

俺はいい加減苛立ちを覚えながら答える。


「クロエ、その質問は何回目だ?俺はいいと言っているぞ?」


「しかし‥‥」


クロエは何か懐かしい顔をしていた。

多分、学園で過ごしていたことを思い出していたのだろう。


「しつこいぞクロエ」


「‥‥申し訳ございません」


「分かったならいい」


俺たちはあの後、国から逃げるようにして旅をしている。

魔大陸に向かうためだ。

目的はいろいろとあるが、まずは魔王にあってみないとわからないと言うのが俺が出した結論だった。

そのため、学生の中から使えそうなやつを探していたのだが、残念なら匹敵する奴はいなかった。


「まあ、学生に求めても仕方がないか」


俺はそう言って魔法によって近くの街を探す。

国を出てきたときはもう日が傾き始めていたのでそろそろ夜になってしまうからだ。

野宿でもいいのだが、流石に疲れてそんな用意もしたくない。

なので街に言って宿でも取ろうと思っていたのだ。

しかし、魔法には村しか引っかからなかった。


「主様、どうです?」


「ああ、一応村は見つかった」


「村ですか‥‥泊めてくれますかね」


「さあな」


俺とクロエには村で過ごした時のいい記憶がない。

何かといわれたり、料理がまずかったり、そんなのばかりだったからだ。

何か困っていたりしてくれていると助かるのだが‥‥

俺はそれを願って村の方へと移動した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る