第17話 勇者の行動
「国王様!どうか私たちをお救いください!」
王宮に避難した人たちは王宮の門の裏手にある庭へと集まっていた。
幸い死人はいなかったが、たくさんのけが人が出たらしい。
「しかし、今の騎士団では攻撃が通らないのだ‥‥」
国王は難しい顔をしながら言った。
もちろんそれは嘘である、なぜならスライム以外の魔物なら攻撃が効くからだ。
まあ、数で押されたら意味がないのだが。
「それでは私たち民衆はどうしたら!!」
「それは‥‥」
おっと、そろそろ国王が押され始めたか。
流石に隠れたまま盗み聞きみたいのことは終わるか。
俺はそう思い、国王の真ん前に転移魔法で現れる。
「うお!?」
国王が突然のことで驚いたが、俺だと気づいたのかすぐに体制を立て直す。
と、同時に宮殿の一番上にいたはずのクロエが降りてきた。
「主様、準備完了しました。しかしもって二分かと」
「それだけ持てば十分だ」
俺はそう言って国王の耳元で囁いた。
「国王、今からこの宮殿に防御魔法を展開します、その間一歩も外へ出ないでください。それと、被害が大きくなるかもしれませんがお許しを」
国王は少しだけうなると、あきらめが着いたのか「ああ、いいだろう」と言って許可を出した。
俺はすぐに移動する。
「ジン!無事だったんだね!」
俺が民衆の合間を縫って宮殿の周りを囲むようにある城壁に近づいたとき、後ろから声がかかった。
「ああ、大丈夫だ」
「よかったー、途中から姿が見えなかったから心配していたんだよ?」
心配‥‥ね。
そんなことされるのは一体何年振ぶりだろうか。
俺が少なくとも魔王を倒しに行く直前だっただろうか。
「どこに行ってたの?」
「ああ、ちょっとな‥‥」
流石に魔物を見にちょっと外側の城壁に上っていたなんていえない。
「?‥‥まあいいか、それよりグリードさんが呼んでたよ。早く行こうよ!」
リフィアがそう言ってマイと一緒に人混みに紛れようとする。
多分さっき国王に言ったことを実行しているのだろう。
「ごめん、俺はいけない」
俺はよることがあるのでな。
「どうして?グリードさんの指示だよ?」
「俺は関係ないからな」
「関係ないって‥‥まさか、あの時言っていた一人抜けるっていう話は‥‥」
「そう、俺だよ」
俺はそう言って魔導書と剣を装備する。
「どうして‥‥みんなで一緒に魔法士になるために学校に入ったんじゃないの?」
リフィアはなぜか俺を引き留めたいようだ。
しかし、俺はふいにも笑ってしまった。
「どうして笑っているの?」
隣にいたマイが腰に付けていた短剣を抜こうとしていた。
「いや、だってな。最初リフィアは魔法をもっと詳しく学びたくて学校に入ったはずだろ?なのに今となっては魔法士になるためって変わっていてさ。それがおかしくてね」
「そんなのどう変わろうが人の勝手じゃない!」
マイが短剣を抜刀して俺に切りかかって来た。
俺はそれを特に何もせずに棒立ちになる。
リフィアはそれを抑えようと慌ててマイを抑えようとするが遅かった。
「はあぁぁぁ!!」
マイは短剣の先を向けながら接近してくる。
確か暗殺術を持っていたから結構な威力になるはずだ。
構えといい、技の切れといい、どちらも完璧だ。
まあ、しかし‥‥
「俺に向かってくるならまだまだ甘いな」
俺はそうつぶやき向かってきたマイの手首をつかみ、そのまま足を引っかけてその場でこけた。
短剣は勢い余ってマイの手元を離れ、地面に転がる。
「ど、どうして‥‥」
マイは動揺していた。
自分にはなぜかわからないが得物を扱う才能がある。
それを最大限発揮してやったはずだ‥‥なのにあいつはそれを軽々と退けた‥‥
一体なぜ‥‥
「どうして‥‥か」
俺はそう言って落ちていた短剣を拾う。
マイはすぐに俺から距離を取った。
賢明な判断だな。
「それはな、簡単な話だ」
「簡単な話?」
「そう、とても簡単な話」
そう言って俺はその短剣を人差し指と中指で挟んだ。
「お前じゃまだまだ自分が使いこなせていないってことだよ」
俺はそのままリフィアの方に向けて放つ。
リフィアは突然のことで当然反応できない。
「リフィア!」
マイが叫んだ。
あのナイフの速さに追いつけなかった。
しかしその短剣がリフィアに届くことは無かった。
「あ、あれ?」
リフィアは恐怖のあまり瞑っていた目を恐る恐る開けた。
すると飛び込んできたのはメイド服を着たよく知っている人物だった。
「ク、クロエ先生!」
「リフィア、マイ、どうして早く来ないのです?」
クロエはその短剣をマイに返しながらそう言った。
「クロエ先生!どうしてジン君は私達から別れるのですか?」
「それは‥‥」
クロエは回答に困る。
主様にはあらかじめ言わないようにと釘を刺されている。
しかもそれを主様の目の前で破るわけには行かなかった。
「飽きたから」
俺はクロエの代わりにそう言った。
リフィアとマイは驚きの表情をしていた。
クロエは苦渋な顔をしている。
「飽きたって‥‥一体何に?」
リフィアが聞き返した。
「ん?このお遊び生活に」
「お遊び‥‥生活?」
「そう、お遊び、所詮君たちを見ていた俺からしたらそんな感じだったのさ。だからそれにわざと混ざって生活してみたけど、流石に飽きた。それが出て行く理由」
俺はそう言いながら笑った。
マイは顔を下に向けて表情を見せないようにしていた。
リフィアはそのまま真顔だった。
クロエは何か可哀想な目でこちらを見ているが‥‥
「リフィア、行きましょう」
マイがそう言って背中を向けて歩き始めた。
リフィアは「え、ま、待ってよ!」と言って後ろを着いて行った。
クロエは俺に「わかりました」と言って後を追いかけて行った。
なぜか周りにいたやつらが俺のことを冷たい目線で見てくるがまあ作戦通りだからいいか。
何が作戦通りだって?
そりゃあ、『俺に対して悪意を向けること』だ。
その理由は後々わかるだろう。
それより今の現状の方が大事だ。
「さて行くか」
俺はそう言って再び内側の外壁の上へと向かった。
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「主様、そんなやり方を選んでよかったのですか?」
クロエは心の中でつぶやいた。
主様はもともとからあの二人、いや、クラス全員を離れることを決めていた。
理由は簡単で、単に『連れていけないから』。
主様はこの後魔大陸に向かうつもりだろう。
当然クラスの数人はついてくるように言うかもしれない、しかしそれは望む結果ではない。
この国の防衛にかかわるからだ。
この国は代々王家の人間が国王として勤めてきた。
もちろん国の方針はその時々に変わるが、根本は同じ。
自分の国を反映させ人間たちの最後の王国としてのちの世代に残すこと。
それが根本だ。
はたから聞けば、誰もが思うことだが、重要はそこではない。
人間たちが住み、残っている国はこの大陸にはここしか残っていないと言うことを意味しているから。
むろんほかの大陸に行けばほかの人間たちが住んでいる国があるだろう。
しかし、それはできない。
大陸同士を渡ることが不可能だから。
それだけの理由。
ならば海だから、船を作っていけばいいと言うだろう。
しかし、それは簡単にはいかなかった。
海にはこの世界の創造神が作ったとされる『境界』と呼ばれるものがある。
勇者などの規格外、いや、世界の深淵を知る者なら、それを超えることができるが、並大抵の人にはそれを通り抜けることはできない。
だからほかの大陸にはいけないのだ。
「しかし、それはこの国が沈めば、人間は生きられないことを意味する」
「ん?先生何か言った?」
私のつぶやきを拾ったのか、リフィアが反応して聞き返してきた。
リフィアに何でもないと言って、私たちは騎士団長のところに向かった。
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「これはまたすごいな」
俺はそう言いながら魔物達と戦ってる騎士団の方を見た。
騎士団たちは苦戦しつつも、王宮に入れさせまいと奮闘していた。
しかし、その後ろには動けなくなった騎士たちや、担架に運ばれている奴もいた。
一方、魔物の方も被害は大きかった。
物理攻撃の通らないスライムたちは無傷同然だが、スケルトンや吸血鬼の眷属などは全体の半数くらいまでやられていたからだ。
相手の魔族たちはまだ見えていないが、後ろの方で指示を出しているのだろう。
普段統率を持たない魔物たちがしっかりと己の意思で動いていた。
「だが、このままでいずれ押されるな」
俺はそう言って念話石に魔力を流す。
相手はクロエだ。
『主様、そろそろ発動したらいいのですか?』
「ああ、頼む‥‥あいつらの反応はどうだった?」
『マイの方はすごく怒っていました、リフィアは何か考えている様子でしたが』
まさかリフィアの方は気づいたのでは無いだろうな?
クロエに聞いても仕方のないことだが。
「現在の様子は?」
『国王はしっかりと作戦を実行するようです。騎士団長は魔法士たちに回復魔法での負傷者の手当を命じています。国民は王宮の中へと入り、集まりを成しています』
「漏れはないな?」
『はい、探知魔法で確認しましたが、反応はありませんでした』
「よし、なら早速作戦行動に移るとしよう」
『了解しました、では私は防御魔法の方でリミッターを解除して行います』
「ああ、頼んだ。あまり力は使うなよ」
『はい』
念話石を切る。
俺は軽く屈伸をして体をほぐした。
「さて、今回の戦いは少しでも骨があるといいな」
そう言って、城壁から飛び降り、戦っている騎士たちの方へと向かって行く。
「おい!誰かは知らないが、ここに来るのは危険だ!」
気づいた騎士の一人が俺に忠告を発してきた。
しかし、俺はそのまま歩いて行く。
「おい!待て!」
騎士は俺を追いかけようとしたが、向かってきた魔物に木を取られ追いかけられなかった。
俺は門の外へと出る。
魔物たちは俺を見て動きを止めた。
騎士たちも来なくなった魔物たちを見て、好機だと思い、騎士たちの態勢を立て直した。
俺は右手を上にあげ、俺の剣を召喚する。
魔導書は使わなくても大丈夫だからそのまま直しておく。
さらに自分にかけておいた姿を解き放った。
髪が銀髪になり、魔力のオーラが出て行き、魔物たちは危険を感じたのか俺に近かった奴が遠のいた。
俺は笑いながら、剣を前方に振った。
ただたんの素振りである。
しかし、それは俺からの視点であり、魔物からするとただたんの素振りではなかった。
剣を振り切った後に謎の衝撃波ができ、その直線状にいた魔物たちはスライムだろうがスケルトンだろうが、全部を飲み込んで存在を消し飛ばした。
「ガ!オ、オマエハ!」
スケルトンの一人が気づいたらしい。
そいつはほかのスケルトンと違い、ローブを被っていることから、多分上位魔物だろう。
俺は口を開く。
人間たちからしたら救いの言葉、魔物からしたら地獄の言葉だ。
「さて、骨のあるやつはいるかな?」
「グ、グガァァァァァァァァァァァァァァ!!!ナメルナ!ニンゲン!」
魔物達と勇者の戦いの口火が今切って落とされた。
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