第16話 敵襲

――最初の合格者が出てから数時間。


あれから全員は力をしっかりと発揮したおかげで、無事試験は終わった。

まあ最後の方に合格した奴は自分に合ってない武器を手に入れて悲しんでいたが、周りの奴らがフォローしていたし、問題ないだろう。


そして今、合格者全員は国王の間で国王が来るまで人集まりで待っている状況だ。

みんな合格してからの安心感か、無駄口ばかり立てているが問題ないだ‥‥


「あ、あんなところにきれいなメイドさんが!」


「お、おい!待てよ!」


‥‥これはこれで問題があるのかもしれない。

俺はそっとため息をついた。


と、そのとき王座側の扉が開いた。

生徒たちはすぐにまとまり、その場でひれ伏す。

俺はいつも通り後ろの方で立っているが。


国王は王座の前まで来て、俺の方を見た。

相変わらず苦笑していたが、まあいいだろう。


「試験にみな合格したこと、とても光栄なことだ」


国王はそう一声かける。


「「「「「「「「「「は!ありがたき幸せ!」」」」」」」」」」


おいおい、さっきまで騒いでた時と雰囲気変わりすぎだろう。

まるで国の軍隊みたいだぞ‥‥

いや、これからなるから間違いではないか。


「これでみなは今日から立派な魔法士だ、精一杯この国のために頑張っていただきたい」


国王が手を一つ叩いた。

すると、そばに控えていたメイドさんたちが生徒たちに魔法士としての国のシンボルが入った紋章を配った。


「これはこの国の魔法士であることを認めるものだ、それを貰ったものから横の扉から隣の部屋に行ってほしい」


生徒たちは受け取ったあと、バラバラに部屋へと移っていく。

俺は全員が行ったのを確認して、国王のそばに行った。


「国王、あいつらを国の防衛に回すつもりで?」


「ああ、もちろんあの偵察の情報をもとに攻撃より防衛の方を最優先した結果だがな」


「そうですか‥‥まああまり外に行かせるよりかは内側で持っといたほうがいいでしょう、他の国に取られでもしたら面倒ですからね」


「そう言ってもらえると助かる」


いや、まあ俺の楽しみが増えるからいいけど。

国王は一人の騎士を呼ぶ。

呼ばれた騎士はすぐに国王の前でひれ伏した。


「は、なんでしょう国王」


「騎士団長グリード、本日より魔法士を含めた新しい団を作ってもらう、異論はないな?」


「は、おまかせください。私が責任をもって指揮いたします」


「ああ、頼む」


グリードはそのまま国王に一礼して生徒たちが入っていった部屋へと向かって行った。


「では俺も」


そう言って俺とクロエもその部屋に向かった。


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「えー今回から君たちを引っ張っていくことになった、騎士団長改め魔法騎士団長のグリードだ、よろしく頼む」


グリードは大声で言った。

生徒達にはしっかりと届いたらしく、頷いていた。

部屋の中は全員分の椅子が用意してあり、みんなが円になって座っている状態だ。俺は壁の方で見ている。


「それではこれより、魔法士諸君らに防衛の概要を説明する」


その一言で生徒、いや魔法士たちに緊張が走った。

グリードが手をたたくと、後ろに待機していた大賢者リドールが出てきた。


「この方はみんなが知っている通り、我が国最高の大賢者リードル様だ。この国の防衛戦略の中心にいる人でもある」


「えー紹介に上がったリードルだ、よろしく頼む」


「今回は皆には防衛に回っていただくため、来てもらった」


魔法士たちはずっとリードルたちの方を見ていた。

リードルが手を前に出して空間投影魔法を使用する。

一瞬にしてその場に国を上から見た簡略図が出てくる。


「これは見てもらっての通り、この国の簡略図だ。今回はこの国を囲んでいる壁を守ってもらいたい」


リードルはそう言って手をたたく。

すると、簡略図に赤い点が五個できる。


「今回君たちには十人一組になってもらって、十組の班を作ってもらう。199人しかいないからひとつの班だけ九人になってしまうがそこは了承してくれ。そしてこの図の上に示されている赤い点の場所にて防衛をしてもらう。点が五個しかないように二班交代制でやってもらおうと思っている。概要は以上だ。質問があるやつは手を上げて言ってくれ」


すると早速リフィアが手を上げた。


「質問いいですか?」


「ああ、いいぞ」


「たしか私たちは全員で二百人いたはずですがどうして一人少ないんですか?」


グリードは言葉が止まる。

そして俺の方を見た。確か俺のことは国の最重要秘密情報だから言えないのだったな。

まあばらすつもりはないが。

俺はそっと首を横に振った。


「‥‥そのことに関しては国の最重要秘密情報に指定されているので言えない。が、国王に直接聞いたのならいけるだろう」


お、うまいこと避けたな。

国王に聞くには結構な役職についていないと会うことができないので、聞けないと言うところを使うとは、流石は騎士団長だ。


「ほかに質問は?」


誰も手が上がらなかった。

グリードはそれを見て頷き、解散を班を作ってもらおうと言おうとした。



―――その時だった。



「団長!緊急連絡です!」


「どうした?」


「国の北側に、大勢の魔物が現れました!種族はスライムで総勢三万!」


「なに!?三万だと!?」


「はい!現在北側を防衛していた第三騎士団が応戦をしていますが、物理攻撃が通らないので、進行を止められていません!」


ほう、スライムか。

確かにあれには物理攻撃は無効だが神速で切れば問題ないだろうに。


「わかった。今すぐ第二騎士団も向かわせろ」


「は!」


報告に来た騎士は走ってその場を後にした。


その直後だ。



『ズガァァァァァァァァァァァァァン!!!!!!!』



ここまで響いてくるような大きな爆発音がした。

何事かと騎士団長が外に出ようとすると、また報告に騎士が来た。


「団長!報告です!」


「どうした!何があった!」


「北側のスライムより強力な爆炎魔法により、防壁に穴が開きました!それと同時に南側からスケルトン軍団。東側から吸血鬼がきています。総勢敵側戦力百五十万!」


「な!なんだと!!!!」


その場に緊張が走った。

スライムならまだしも吸血鬼とスケルトンまで出てきたのだ、流石に驚くしかない。

しかも吸血鬼一人でそこらにある村を滅ぼせるほどの戦力だ。

その上、倒しても倒しても魔力がある限り復活するスケルトンときた。

これでは圧倒的不利だった。


「くそ!このままじゃ負ける!」


グリードが机をたたいた。

その衝撃で机が真っ二つに折れる。


「仕方がない、まずは王宮に国民を避難させるのだ!騎士団は全軍対抗しに行け!魔法士たちに避難行動を手伝わせろ!」


リドールが言った。

その命を受けた騎士が飛び出していく。

魔法士となった卒業生たちはあまりにも早すぎる展開に追いつけていなかった。


「何をしている!早く避難活動を開始しろ!」


リードルが大声を上げた。

その声で我に返った魔法士たちは近くにいたやつらで即席の班を作り、街へと飛び出していった。

まあ、流石に卒業したばかりの魔法士に戦えなんて無理な話だ。


「ジン君!一緒に組まない?」


俺は声のかけられた方を向くと、リフィアとマイがいた。


「いや、俺はやることがある」


「え?でも班にまだ入っていないよね?」


「ああ、別に邪魔なだけだしな」


俺はそう言ってなお、呼びかけてくるリフィア達を無視して、他のメイドたちと避難してきた街のひとを手当てしていたクロエに近づく。


「クロエ」


「はい、なんでしょう主様」


「ここに即席の防御結界を張れないか?」


「ここに、ってことは王宮にですか?」


「そうだ、できるか?」


クロエは少し考えてから「できます」と答えた。


「でも、流石にでは魔力が足りないかと」


「そうか、だったらリミッターを一段階外すことを許可する」


「わかりました、いいのですね?」


「ああ、流石にこんな状況では隠す隠さないなんて言ってられないしな」


「了解いたしました」


クロエは王宮の方へと走り出した。

多分、屋上で魔法を発動させるためだろう。

俺はそのまま王宮を後にした。


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「さすがに呑気に見ているわけにはいけないかな」


俺は国の周りを囲っていた城壁の上で念話石を使いながらそうつぶやいた。


「と言っても、流石にあんなに大量の魔物相手ぐらいならどうとでもなるんだけどね」


こんなこと誰かに聞かれたら不謹慎だが、俺からしたら真実そのものだ。


「まあ、多分今回の襲撃は魔物だけじゃなくて魔族が関係しているだろうね‥‥まあそう言うなって、もとはお前が起こした問題でだろう?」


相手は少しひるんでいた。


「それに魔王が復活してからに立て直しが早すぎるからね」


吸血鬼にスライム、スケルトンなんて、普通はもっと魔大陸の方で出てくる奴らだ。

なのにこんな辺境の地にある国を狙ってくるなんて、だ。

もっと他に国にでも戦力を分散した方が人間側を不利にするにはもってこいのはずだ。

と言うことはこれは魔王が下した命令ではなく、ただ単に魔族が暴走して引き起こしたもの。

しかしそんなことは魔王が直接止めればいいだけの話、つまりは前代の魔王は復活していないか、もしくはそれができない状況にあると言うこと。


「それに、お前がこんなこと起こすわけがないと知っているしな」


相手は何やら満足したようにうんうんと言っている。


「‥‥そうか、なら俺がやってもいいのだな?‥‥‥‥わかった、多分そう遠くないうちに会えるだろうからその時にじっくり話をしようか。あのときお前が生み出したことも気になるしね」


俺はニヤッと笑った。


「じゃあ、また近いうちに」


俺はそう言って念話石から魔力を切る。


「さて始めるか」


俺は城壁を飛び越えて、避難が終了したであろう王宮へと向かった。

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