第5話「内容はまだ秘密」

 銀髪の少女に引っ張られるがままに大通りの中でも大きな店に入った。


 中に入ると肉を焼いたような芳ばしい香りが俺を包む。


 本当は見ず知らずの少女に奢ってもらうのは良くないとはわかっていたのだが、食べることに対する本能には逆らえなかった。


 ここまで来たら後には引けずに、店の物を片っ端から、頼みだす。


「ここからここまで全部お願いします」


 店員はお辞儀をすると厨房の中に入っていった。


「じゃんじゃん頼んでくださいね」


 ニヤニヤしながらこっちを見ているのがわかったが、そんなことも気にしてられず、食って食って食いまくった。


* * * * * * * * *


 店についてからおおよそ1時間が経過していた。

 机の上は空の皿でいっぱいで何人前か、分からないほど食べてしまった。


 今は無料のお茶を飲みながら銀髪の少女と話をしている。


「美味しかったですか?」


 ニッコリと笑ってこっちを見てくる。

 てか、近い。

 とっても顔が近い。


 ハーレム状態で告白されまくっていたが全て断ってきた俺は付き合ったことが一度もない。

 つまり、彼女いない歴=年齢なのだ。

 それにキスもまだだ。

 このシチュエーションは俺にとってはめちゃくちゃ恥ずかしい。

 それに少しシャンプーの良い匂いもする。


「美味しかったけど……少し近いような……」


「えっと、近いってなにがですか?」

 彼女は頬杖をつきながらキョトンとした顔で聞いてきて、さらに顔を近づけてくる。


「いや、だから……」

 目と鼻の先とはこのことをいうのだろう。もはや、俺と彼女の距離は、ほぼゼロ距離だった。


「聞こえないですよ。もっと物事ははっきり言わないと」

 彼女がそういうと近くなっていくにつれて頬が少し赤くなっているのがわかった。

 いやというより、彼女の顔がみるみる朱色に染まっていく。


 ——ああ。そういうことか。彼女はどうやらわざとやっているらしい。

 理由は全くわからないが。

 

 俺はひとつ咳払いをし、冷静に…


 「少し顔が近いと思って」


 彼女は意表を突かれたような顔をしていた。

 どうやら彼女は俺が慌てめく姿を期待していたらしい。

 彼女もまた咳払いし、今度は普通に座って真顔になる。

 少しだけ体に緊張感が走った。


「それじゃあ本題にはいりましょう。仕事のことです」

 彼女の顔はすでに朱色が抜け去っていて、先程までとはとてもじゃないくらい真剣だった。


「あぁ、どんな仕事なんだ?」

 俺はまだドキドキしている。


「内容はまだ秘密です。ですが安全な仕事ですよ。それに一日で終わる仕事です」

 ウインクを2回くり返して

「それに新しい自分になることができる……かもです」


「いや、内容を聞かないと判断のしようが……」

 俺は困った顔でそう言うと、唐突に彼女は無言のまま立ち上がった。


「じゃあ、ここの飲食代は自分で……」

そう言うと彼女は出口の方に向かおうとする。


 それを黙ってみているわけにもいかず、彼女の腕を引っ張った。

「わかった! わかったから! やります。やればいいんでしょ」


 ——半強制的じゃないか。

 てか、脅しだし。


「ありがとうございます。では、夕方にこの地図にマークがついてるところに待ち合わせということで」

 彼女はそう言うと自分の財布からお金を取り出し店の人と話をしていた。


 俺の頭には逃げるということばかりを考えていた。


「言っときますがけど逃げようとしても無駄ですよ。あ、あとそんな服じゃ変な人に見られますのでこの服をどうぞ」


 そう言うと、どこから取り出したのか分からないが、綺麗に折りたたまれた服を渡してきた。


「あ、ありがとう」

 力なく、苦笑いし頬を少し引きずって俺はお礼を言った。


「どういたしまして、代金のお釣りはもらっておいてください」


 満面の笑みで銀髪の少女はそう言うと、地図と飲食代をテーブルの上に置いて店を出ていった。

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俺はハーレムなんて望まない! @hiiragimukuro

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