最終話 愛しても愛しても手に入らない

 2人とも時が止まったように一歩も動かない。あの時以来、10ヶ月ぶりくらいに話す。少し緊張して声が震える。

「これ…落ちました……」

「ありがとう…」

「あ、あの…お久しぶり…です」

「久しぶり…」

「お、お元気でしたか!?」

 緊張しすぎて変な言い方になった。

「うん、今日…卒業式だったの?」

「へ?」

「いや…制服に花がついてるから」

「あ、はい。卒業式でした…」

「おめでとう」

「あ、ありがとうございます…」

 うまく喋れない。

「少し…時間ある?」

「はい、少しなら…」



 2人で公園のブランコに座った。ブランコなんて何年ぶりだろう。

「ブランコなんて久しぶりに乗りました」

「俺もだ。25年ぶりくらいに乗ったわ」

「かなり前ですね。わたしまだ生まれてない」

「マジか!俺もおっさんだなー」

「高峰さんは見た目が若いので28までくらいなら通じます」

「えー?25が良かったなー」

 少し緊張が解けてきた。

「そうだ。俺、離婚したの」

 突然その話題になったからビックリした。

「友達から聞きました…」

「そっか。俺、バツイチになっちゃったー」

「バツイチって自分から…」

 しまった、余計な事を言ってしまった。どうしよう。なんか言われるかな…。

「そう。君の言う通り、自分から離婚言い出したんだけどね」

 何て返せばいいか分からない。

「ちなみに離婚した理由は…」

「大丈夫です!話さなくて」

 今のキツイ言い方だった?そこでわたしの名前が出てしまったらと思うと怖くなった。

「あ、もう15分経った。あっという間だったなー」

「ほんとだ。時間って早いな…」


「今日、君と話ができて良かった。俺、来週から東京に移動することになったんだ」

「東京…?」

「うん。東京には良い女たくさんいるだろうなー」

 なんて無神経な人だ。そうだ、この人天然入ってるんだった。

「頑張ってください。婚活」

「ハハハ!婚活なんて俺は嫌だね。ちゃんと出会って結婚したいんだよ」

「婚活も出会いじゃないですか」

「違うんだよ!お子ちゃまには分からないよなー」

「お子ちゃまじゃありません」

「ハハハ!」


 帰るとなった時、家まで送ると言ってくれた。

「じゃあな」

「はい、東京でも頑張って下さい」

「おう。そっちも頑張れよ!」

「はい!」

 

「あ…そうだ」

 わたしは急に思い出して、数メートル歩いていたあの人のところまで追いかけた。

「あの!」

「どうした?」

「あの、最後に一つ質問していいですか?」「うん」


「どうしてあの最後の日、追いかけて来なかったんですか?」


 思い切って聞いてみた。多分、この人と会うのはこれで最後だから。


「それは…言わねえよ」


 そう言ってわたしにでこぴんした。

「痛い!」

「ハハハ!そんなの言うかよ!」

「なんでですか!教えてくれたって…」

 ビックリした。突然、おデコにキスされた。


「じゃあな」

 そう言って、どこか遠くに消えてしまいそうな声で歩いて行った。

 わたしは自然と涙が出た。

 楽しかった。楽しかった思い出しかない。

 この人と出会った2年間、わたしの人生の中で一番濃かった。


 わたしが1番に愛した人

 もう2度と会わない人



 愛しても愛しても手に入らなかった人



 さようなら



 高峰彰さん。



 お元気で








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愛しても愛しても手に入らない 麻矢子 @my4pon6

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