面影
@oiteke
面影
なにしろ、水棲の記憶が
抜けない連中だから
歩くところといえば
川べり、谷底、池っぷち
食うものといえば
水草、水ゴケ、タニシ、ドジョウ
そんなことでは力が出まい
昔はもっと
ぜいたくに食ってたはずだ
と言ってやっても
へらへら笑って
とても聞くものではない
ひとの親切なんか
うるさいだけで
いいから、爺さん、ほっといてくれ
と言われたら
こちらとしても陰険な目つきで見返して
しなびた干し肉をかじり続けるだけだが
そうはいっても、こちらにも
かすかな記憶はあって
な!
と逆に問われたら
うろたえないわけではない
帰ろうぜ!
と誘われたら
どうなることか
こいつらと一緒に
水棲にもどる道をたずねて
旅に出るのだろうか
落日に──ああ、血の色だよ──染まる海辺で
目を尖らせて睨み合うおれたちは
たがいに
鮫だった昔の面影を
読み取ろうと
いや、すでに
読み取ったのだが
面影 @oiteke
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