気になる内容






「人間の女子おなごは何とも恐ろしい……」






そうぶつぶつと独り言を唱えながら食べかけのメロンパンを袋に戻す凌。

その様子を訝しげに見ていた沙希は時計を見ながらこの状況をいかにして終わらせるかを考えていた。






「……私、百鬼夜行音楽隊に入るつもりないからね」






取り敢えずは、という形で今の気持ちを言葉にすると凌は目を丸くして沙希にしがみついてきた。






「なっ、何でじゃ?!」

「ちょっと!暑いからくっついてこないで!」

「まずは話だけでも聞くというのが筋というもの!ここに来るまで我がどれだけ苦労したと思っているのじゃ!!」

「そんなの知らないもん」

「なんと薄情な娘!このっ、人でなし!」

「それを天狗の貴方から言われても複雑な気分よ…」

「せめて詳細だけでも聞いてくれ!お願いじゃから……」






そんなやり取りをしていると、教室の外からバタバタと慌てたような足音が聞こえてきた。






「やばっ!由梨先生だ!ちょっと、隠れて!」






その音に嫌な予感のした沙希は凌を両手で掴んだ。






「ん?何で隠れる必要がある?それに神の使いである神聖な我をこんな持ち方するなど無礼極まりないぞ!」

「今はそれどころじゃな……」






―――ガラッ






「大神ー!練習の調子はどうだ?そろそろ終わりに…」






楽譜を片手に元気よく教室に入ってきた由梨は沙希の様子を見て首を傾げると、沙希の手を指さした。






「お前それ……」

「えっと、これは!」






やばい、と思った瞬間…。






「パントマイムの練習か?」

「へ……?」






そう言うと沙希の近くに寄ってくると凌を掴んでいる手をまじまじと見つめてきた。






「……先生、何も見えないんですか?」

「何って?」

「えっと……」






ちらっと、凌を見る。すると今まで不思議そうにしていた彼は納得したように沙希の手を抜け出した。






「成る程。納得したぞ」






机に座って乱れた服を直して沙希を見る凌に、慌てた様子で口を抑えようとする。






「喋っちゃ……」

「……案ずることはない」






凌はどこから出したのか、鏡に自身の姿を映して余裕の表情をしている。






「大神~、練習のし過ぎなんじゃないか?」

「なっ、何でですか?!」

「何で……って、一人でぶつぶつ言ってるからだ」






心配そうに、かつ怪しそうに沙希を見つめてくる由梨。






「……」






(もしかして見えてない?)






「あんま無理しすぎるなよ?」






そう言うと沙希の横を通り、凌が座る机に楽譜を置いた。






「次に大神に練習してもらいたい楽譜を持って来たんだが音源忘れてきたから取ってくる。もう今日は練習出来ないから片付けしておけよ~」






そう言ってすぐさま教室からいなくなった由梨。






「……どういうこと?」






不思議そうな顔をする沙希に、凌は続けた。






「我々妖怪はな、誰にでも見えるわけではない」

「私には見えてるじゃない」

「見えている?そうではない。見せているのだ」

「どういうこと?」

「ほほう、我々に興味が出てきたようじゃな」

「……そういうわけじゃないけど」






沙希はそう言うと先程由梨が持ってきた楽譜に手を伸ばした。

すると、凌はその楽譜を見て指さした。






「この曲は我が音楽隊で候補に挙がっているぞ。いい曲じゃな」

「……」

「ここは雪女がいい音を出しておった」






「お、ここは…」と次から次へと楽しそうに妖怪の名前を出す凌に、沙希は少しの興味を抱いてきた。






「ここは走らないように気をつけなきゃよ」

「そうなんじゃ!なのに河童たちは勢いが良すぎてな?」






そう話す二人は種族こそ違えど音楽を通じて楽しそうにしている。






「話……」

「ん?」

「少しなら聞いてあげなくも…ない…けど」






そんな様子を見た凌は、






「本当か?!」






嬉しそうに沙希を見つめた。






「聞くだけだからね!」






そう言うと、






「音源、貰ってくる……」






沙希はどこか嬉しそうに教室から出ていった。






「まったく素直じゃない女子おなごじゃ…」






そう呟いた凌の声は夏の風に攫われた。








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真夏の妖怪音楽隊 くるみ @yume_koi

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