エピローグ

 有真知実は今、普通に高校生をやっている。

 ごく平凡な中の上のような進学校で、ごく当たり前の高校生活を送っている。

 これが、元々の彼女の姿だった。

 だが、あれ以来、変わったことがいくつかある。

 ひとつ目は、彼女は第三新聞部と名乗り、ゲリラ的に勝手に校内各所に自作の新聞を貼っていること。

 教師には目をつけられ、新聞を見た生徒にはその突拍子のなさを笑われているが、それでも、彼女の活動は少しずつ実を結び、この学校の学園の七不思議について話をする生徒が増え始めている。

 そしてふたつ目は、それに合わせて校内で不思議な目撃談が現れ始めたこと。

 曰く、『屋上に続く怪談が一段多かった』『鏡の中に知らない少女が映っていた』『特別棟のトイレで花子さんの声を聞いた』等々……。

 今はまだ些細な噂だが、やがて本物の【怪】になるかも知れない。

 そしてみっつ目は、彼女の学校に一人生徒が増えていたこと。

 彼の名は七白空。

 なにも自分のことを語らない謎多き生徒であり、実際のところ、実在の生徒かどうかも怪しいとさえされている。

 彼を見た生徒は少なからずいて、彼と話したという生徒も何人かはいるのだが、彼がどこのクラスで、どこから通っていて、なんの部活に入っているのかは誰も知らないのだ。

 もちろん、きっちりとした調査をすればすぐにでもわかることなのだろうが、誰もそこまで彼についての興味はない。

 彼はただ、噂の中にしか存在しない生徒なのだ。


 元の彼女の世界に戻ったと思われたが、どうやら少しばかり別物であるらしい。

 屋上に続く階段に腰掛けながら、俺は今日も彼女が来るのを待つ。

 第三新聞部の部室もないため、俺たちはここで有真を待っているのだ。


「よかったんですかね、これで」

 一番上の段に腰掛けた少年がそう尋ねてくる。

 彼の名は遠見昇。存在しない十三段目の怪談を登ってしまい、どこか別の世界に消えてしまったと言われている少年だ。

「さあな。まあ、少しずつ【怪】として語られることが増えれば、また状況も変わっていくだろうさ」

 彼女はミラ。鏡の中にだけ映る少女がそう呼ばれているらしい。

「私たちに関していえば、ほとんど状況は変わっていませんしね」

 彼女はハセガワハナコ。トイレの花子さんの本名は、そういう名前だったらしい。

 彼らこそが、この学園で新たに語られるようになった【学園の怪】。

 元の有真自身の世界に戻った後でも、彼らはこうして存在し続けているのである。

 語られ続ければ、やがて殻田や室居も復活するかもしれない。いや、そもそも今の学校に人体模型とかあるのか?


 そして俺は七白空。

 噂を聞き、噂をされるだけの生徒。

 こうして俺たちは【怪】として、この学園のどこかに存在している。

 ここが俺の世界。

 俺の願いは、いくらか勝ち取れたらしい。

 そして今日も、彼女はここへやってくる。

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七不思議では多すぎる シャル青井 @aotetsu

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