第4話 パーティメンバー
僕は村で頼られる存在だった。
町に来るモンスターや盗賊をタンタラとともに返り討ちにした。
聞いてみると、僕はそこそこの実力があるらしかった。
それならばと僕らは、僕らを見捨てた両親を見つけるための旅に出ることにした。
◇◆◇◆◇
バラダの朝は早い。皆がまだ眠っている早朝に起き、厨房に行って食材の仕込みをすることから始まる。食材を寝かせている間に食堂や廊下の掃除を行い、それを手早く掃除を済ませた頃、他の給仕のメンバーも起きてくる。
他のメンバーと共に朝食の準備をし、起きてきた冒険者にお水を持っていく。朝食を頼まれた
冒険者がダンジョンや組合に出て行ったあとは部屋の掃除だ。シーツやまくらカバーを布団と枕からそれぞれ引っぺがし、洗濯して天日干しにする。
日が傾く前にシーツと枕カバーを回収し、それぞれの部屋に戻す。
すべての作業を終えるとちょうど、冒険者たちがまた帰ってくる。部屋に案内したり、夕食の手配をしたりと、慌ただしく働く。最後の冒険者が部屋に向かった後、給仕と共に夕食を摂る。食堂の後片付けをして、厨房を片す。全てが終わると、一日の日記をつけ、眠る。
「あれ、今日冒険者として活動してない……」
翌朝。
客として朝食をとるバラダは、そろそろゴブリン討伐に出ようかと思っていた。無論、攻撃力も防御力も足りないため、誰かとパーティーを組むことになるのだが。
「誰か僕と組んでくれるかなぁ?」
そんな疑問が、頭の中をさっきからずっと渦巻いて離れないでいるのだった。バラダの名前は組合内には知られている。一つは能無しとして。もう一つは受付嬢に唾を付けている生意気な野郎として。
「不名誉だ……。そんなつもりじゃないのに」
そんなことを呟くバラダの箸は、案の定あまり進んでいなかった。
普段から儚げな表情が、さらに儚げに、危うく見える。それは憂鬱から来るものだということをなんとなく察しているからか――溜息を一口毎についていればそのぐらいは分かるというものだ――他の冒険者はそっとしておこうと思って話しかけることはしなかった。まあ、普段からそう話をしているわけではないのだが。
「バラダくん、悩み?」
組合に所属している給仕のメンバーの一人、バリダナがバラダに声をかけた。バリダナはバラダと同じ十六歳で、赤髪のポニーテールが特徴的な女の子だ。先日給仕の手伝いをした時に少し仲良くなった。バラダとしては周りの目線が怖いから、あまり話しかけないでほしいと思っていたりするのだが、そんなことを気にしていない様子のバリダナは向かいの席に座ってしまう。
「いやぁ、僕、ゴブリンの討伐に出ようと思うんだけどさ」
「駄目だよ! 一人じゃ危ないよ!」
「うん、分かってる。だからさ、パーティメンバーを募集しようと思ってるんだけど、憂鬱でさぁ」
「何で?」
何でって、ねえ?
バラダはそう思わずにはいられなかった。
バリダナは何も知らない。でもそれでいいとバラダは考えていた。だからこそそんなことを聞かれたら曖昧に返す。
「まあ、組合の中には僕をあんまり良く思わない人がいるってことだよ」
それを聞くと、バリダナは心底驚いたような顔をして、
「え、本当? 心当たりないけどなあ。少なくとも私の知り合いにはいないと思うよ」
と言い、心当たりを探して真剣な顔つきになる。
さすがにバリダナの言う通り、彼女の知り合いにはいない、なんてことはないと思うけれど、真剣にこちらのことを考えてくれているようでバラダは少し嬉しかった。
そんなバリダナの顔を見ているうちに、バラダは何かもうどうでもいいような気がしてきた。別に組合内で何を言われようがどうでもいい。僕は前に進もうとしている。それはきっと、間違ったことではないはずだ。
残っていた朝食を一気に平らげると、バラダはバリダナに声をかける。
「ありがとう。でも、もう大丈夫だよ」
「え、何、どうなったの? 私何にも出来てないよ?」
そう慌て出すバリダナに向かって、バラダは控えめな笑みを送った。バリダナが目を真ん丸にしながら紅潮し、その一瞬で周囲からの視線が棘から剣に変わったかのような錯覚を覚えたバラダは早足で宿を出て組合に向かった。
そうしてパーティメンバー募集の件を受付嬢に伝えると、先程のバリダナとはまた違う不安そうな顔をした。まあそういう顔をされるよなぁ、とバラダは溜息をつく。懸念材料なのはやはり、
「「メンバー集まりますかね……」」
見事にハモった。ちゃんと双方同じことを考えていたらしい。
そこからは、受付嬢による説得と、バラダの抵抗でちょっとした議論が巻き起こった。バラダ自身も不安は拭えていないが、それでもやりたいということ、自分の評価を想像ではなくしっかりと判断できることなど、パーティメンバーの募集をかけることによるお得な点を並べることによって、何とかパーティメンバー募集の紙を張ってもらえることになった。
もともとバラダが組もうと思っていたパーティは四人だったため、三人集めればいいだけだったのだが、バラダにしてみれば本当に意外で、思いの外早く人が集まった。
一人は緑髪の短髪の少女で、名前はティラ。弓を得物としていて、基本は一人でやっていた。そろそろパーティが組んでみたかったらしく、そこにちょうど合ったパーティメンバー募集の紙が貼ってあったので乗ったという。その事情を聴いてバラダは『僕みたいのが募集してたので申し訳ない』という気持ちに駆られてしまい、平謝りすることとなったのだが、逆に彼女が困惑してしまう結果となり、隣のバリダナに止められるまでずっと「ごめん、ごめん、ごめん」と謝っていた。
もう一人は今言ったようにバリダナだ。募集の紙を出したすぐ後に組合に来たと思ったら、張り紙を見るや否や「私このパーティに入る!」と言って周りの冒険者に殺意を
最後の一人は男でリヴァルサといい、年齢はバラダやバリダナ同じぐらい。容姿はそこそこ整っていて、青色の髪が特徴的だ。短く切り揃えられた髪は清潔感を感じられるが、不貞腐れたような表情をしているため、少々もったいない。盾職であり、敵のヘイトを引き付けることを得意とするらしい。盾職ができるということは攻撃力も高いはずなのだが、性根が良すぎて生き物を殺すことができないため、守りに徹しているのだそう。
そんな即席のパーティは早速、ゴブリン狩りへと挑む。
バリダナが受けた依頼――ゴブリン五体の討伐を達成せんと草原を超えた先の森へ。
ティラが木の上を移動しながら、ゴブリンを探す。見つけたという合図があってから、ゴブリン三体を下の三人が視認するのにそこまで時間はかからなかった。
「ティラさん、先制攻撃を」
バラダの言うとおりにティラが矢による先制攻撃を仕掛け、一体の頭に矢が突き刺さる。一本目は簡単に行ったが、警戒されている二本目、三本目はそうはいかない。あっさりとかわされ、だんだんとこちらへとにじり寄ってきていた。
「リヴァルサさん!」
「ああ」
バラダの指示通りにリヴァルサが大盾を持って突っ込んでいき、ゴブリンたちの進撃を止める。
「バリダナ、躍り込んで。援護する」
「分かった」
バリダナが自身の大剣を構え、切り込む。バラダの小さな魔法攻撃に気を取られたゴブリンはバリダナの攻撃を中途半端な体制で受けてしまい、地面を転がる。その頭部にティラの放った矢が突き刺さり二体目を葬った。
残りの一体が大剣を振って隙を見せたバリダナに飛びかかったが、リヴァルサがその間に入り、しっかりと受け止めた。そして最後の一体はバラダの魔法とティラの矢によって体勢を崩し、バリダナの攻撃をまともに食らって息絶えた。
「よしっ! あと二体だね!」
威勢よくバリダナが言い、他の三人が頷く。案外パーティとして様になっているようだった。
暫く歩きまわって、少々休憩を
「バラダ。さっきの戦いで思ったけど、お前は案外司令塔に向いているかもしれない。的確な指示を出していたと思う。これからもよろしく」
そう言いながら手を伸ばす。
握手を求められているのだと分かり、バラダは少し感激しつつもその手を握る。お互い笑顔で握手を交わしていると、
「あー、手ぇ繋いでる。ここは戦場だよー。そういうのは帰ってからにしようよー」
バリダナが茶化すように口を挟む。
これにはバラダもティラも顔を赤くし、手を引っこめると、
「「そんなんじゃない!」」
二人仲良く言い放った。全く以て説得力がない。
「よくわからないが、バラダが司令塔に向いているっていうのは俺も思ったことだ。このパーティのリーダーはやはりバラダだろうな」
リヴァルサがそんなことを真顔で言った。
バラダもこれには首を振り、
「さすがに僕にパーティのリーダーっていうのは無理なんじゃないかな? というか、みんなこのパーティでやっていくつもり?」
と問うた。バラダはこの点がよく分かっていなかった。今回の募集に応じたこの三人が一時的にこのパーティに入ってなんやかんやしようと思っているのか、はたまた永続的のこのパーティで組み続けようと思っているのか分からず、これからどうしようかまだ悩んでいたところなのである。
「私はこのパーティに居続けるつもり。連携もうまく取れているようだし」
ティラが残留を表明する。
「私も残るかなぁ。なによりバラダくんが心配だし」
バリダナも残留を決めてくれた。残るはリヴァルサだけだが、先程の発言からして、おそらく残るという発言をするだろう。
「俺もこのパーティでやっていきたいと思っている。バラダは個人としては弱いかもしれないが、司令塔としてはおそらく他ではここまでの人材に出会えないと思うからな。そういうお前はどうなんだ、バラダ?」
「え、僕?」
聞かれるとは思っていなかったバラダは、返答に困ってしまう。しかし、すぐに迷いなど吹き飛んだ。ここで断れば、また一人寂しいギリギリの生活に逆戻りだろう。しかも、今の目の前にいる三人は自分がここにいてもいいと言ってくれている。最初から、迷う必要などなかったのだ。
「僕は、このパーティで頑張りたい……かな。折角出会ったんだし、この縁を切っちゃうのはもったいないような気がするし。でも、本当に僕はこのパーティにいていいの? あんまり――というか全然活躍なんかはできないと思うけど」
「「「もちろん!」」」
即答だった。バラダは思わず笑ってしまう。こんなにあっさりと認められてしまっていいのだろうか、と。仲間に認めてもらえたことが嬉しく、そして、幸せだった。
そんなことがあって気が緩みきっていたからだろう。あんな悲劇が起こることなど、一人として思い付きもしなかったのである。
いつも、どこかで 衣花実樹夜 @sekaihahiroiyo
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