第2話
ここは何処だ?
やけに暑い。ひぐらしが鳴いてる。深い緑の匂い。安っぽいビニールのシートが汗をかいた剥き出しの肩に当り気持ち悪い。
「ぷっぷー!発車おーらーい!」
子供の声だ。女の子。それもまだ小さい。幼い甲高い響きは、暑さなどお構いなしに楽しそうだ。
私は怠い瞼を持ち上げる。
夏の夕暮れ独特の、濃い赤に染められた風景が汗が入ってしみる眼の奥に飛び込んできた。
古いバスの車内だ。正面のフロントガラスは薄汚れ夕陽が乱反射し、狭く埃っぽい車内の隅々まで赤に染めている。影の部分は真っ黒でそこに何があるのかわからない程だ。
運転席から白く細い腕がのぞき、めちゃくちゃにハンドルの横の幾つものボタンを押したりレバーを乱暴に動かしている。
「おきゃくさまーどこまでいきますかー?」
たぶんタクシーと混同してるのだろう。
渇いた喉からフフフと笑いが漏れた。
「おきゃくさまー!行き先はどこですかー?」
私に言っているのか?
「はーい!わかりましたー!」
どうやら彼女の頭の中の乗客に向かってらしい。
「しゅっぱーつしんこー!」
何処に行くんだ?かわいい運転手さん。何処に連れていってくれるんだい?
私はグルグル回る赤いハンドルを見つめながら頭の中で呟いた。
「行く筈だった未来よ。」
真っ赤に染まった半分しか無い顔が、運転席から私を見ていた。
そこで私は目を覚ました。春先なのにビッショリ汗をかいて喉はカラカラだ。
ベッドから起き出し水をゴクゴク飲んだ。音をたててゴクゴク何杯も何杯も。
耳の奥で鳴り響くひぐらしが鳴き止むのを期待しながら。
― 同化 ― 紅子 @roten_mondes
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