鴨野川スイミングスクール!

@Ramen55

第1話 目覚め その一

 中学一年生、夏。7回目か八回目の水泳の授業を終えて……平田奈緒はピンチに陥っていた。

 「ちょっと奈緒さん!?さっきのリレー、敗因は誰にあるか分かってる!?」

 クラスメイトの仲野美希はそう問いただす。奈緒としては返す言葉がない。

 こうなった原因は全14人の女子を2チームに分けて行われたリレーでの奈緒の失態である。それまで好調に繋いでいた流れを奈緒が止め、相手チームに逆転を許してしまった。負けず嫌いの美希はもう大憤慨である。


 「ちょ、ちょっと美希ちゃん。言い過ぎだよ。奈緒ちゃんだって別に悪気があった訳じゃないんだし……。」

 「そうそう。それに、リレーってみんなの合計タイムで競うものなんだから一人に責任を押し付けるのは間違ってるよ。タイムを縮める必要があるのはみんな一緒。」

 と、チームだった他の人達は擁護してくれるが、奈緒としてはその優しさが逆に辛い。彼女たちはクラスの平均より高いタイムを出せている。奈緒が彼女達の足を引っ張っていることは本人が一番強く理解していた。


「そんなことは分かってるわよ!全員が上達しなきゃいけないのは当たり前。でも、今度リレーがあるのは次の月曜日……つまり三日後よ?既にそこそこのレベルの私達が、さらにタイムを縮められたとしてもそんなのは精々一秒あるかないか……。でも、今全然ダメな奈緒さんなら練習すれば五秒!あるいはもっと縮められるかもしれない。」

 と、美希が強く言うと先ほど庇ってくれた人達も「そりゃあ確かに……。」「まあねえ……。」などと口をつぐんでしまう。

 

 「というわけで春さん!奈緒さんの教育、よろしく頼むわね。私はあいにく塾があるから。」

 美希はそう言って桐山春を見据えた。彼女は地元のスイミングスクールに通っていて、水泳に本格的に取り組んでいるらしい。学校の授業でも、その技量をを遺憾なく発揮していた。突然名前を呼ばれた春は少し困ったような顔をしたが、ついには了承したようだ。

 「あー、うん。分かったよ。奈緒ちゃん、明日と明後日いいかな?」

 「う、うん……。」

 とてもNOとは言えない雰囲気である。美希のプレッシャーに場が支配されていた。


 「美希ちゃん、張り切りすぎだよ……。勝っても負けても特に何かあるわけじゃないのに……。」

 帰宅後、奈緒は自宅のベッドに寝転がりながら、そう呟いた。

 小学校時代にも一学期の終わり頃には水泳の授業でリレー形式の対決をすることはあった。その度に奈緒は皆の足を引っ張っていたわけだが、今回のようにその遅さをここまで咎められることはなかった。まして「練習してこい」などと言われることなんて……。

 

 美希が負けず嫌いな性格であることは前々から分かっていた。一学期の中間試験ではトップを取っていたし、学級代表にも名乗りを上げ、体育の授業でも勝負になるとやたら熱くなる。彼女が手を抜いているところを見たことがない。そんな彼女と同じチームになった時点でこうなることは必然だったかもしれない。


 もちろん奈緒にも自責の念はある。今回は自分のせいでチームのみんなに迷惑をかけてしまった。何が懸かった勝負というわけでなくてもやはり申し訳無いという気持ちは強い。次はなんとしても挽回しなければ。

 「いつまでもこのままじゃいけないよね。変わるチャンスをくれた美希ちゃんには、むしろ感謝しなきゃ。」

 そう考えるとむくむくとやる気が湧いてくる。

 「ようし、がんばるぞー!!」


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