第5話


 それから二日後、花空と水月の結婚式が行われた。

 花空は自分で編んだヴェールを頭にかぶり、里に昔から伝わる花嫁衣裳を身に纏い、水月の隣に立った。

 水月はと言うと、同じく里に昔から伝わる花婿の衣装を身に纏っている。

 男女の違いはあれど、衣装の柄や色合いは二人ともお揃いである。

 ずっと里を見守って来た水月からすれば、出来ればこの衣装を着て式を挙げたいと思っていた。

 だが、衣装について話をした時に「水月様にこんなお古を着せるわけには!」と長や里人々が猛反対をしたのだ。 

 普段は否定的な意見を出さない里の人々に苦笑しつつ、彼らを説得するのが一番大変だったと水月は言う。

 そんな彼らも、花空と水月を見ながら笑い、涙ぐみ、ふわりと祝いの花を投げている。

 その中に雪葉の姿もあった。


 あの後、花空と水月はもう一度雪葉に会いに行った。

 雪葉は長からこってりと絞られていたが、それでも最初の内は不機嫌そうな態度を崩さなかった。


「…………俺は、兄貴として心配なんだ」


 花空と水月が時間をかけて自分達の事を話している内に、雪葉はぽつりとそう言った。

 確かに婚姻話は出ていたが、そもそもにとって花空は妹分であり、そう言った感情は持ってはいない。

 雪葉はそう言って首を振った。


「では、あの時何故ああいったのですか?」

「妹として大事に想っているってのには、違いないじゃないですか」


 そう言って雪葉はフンと鼻を鳴らした。

 あの雰囲気では何となく素直にそう言うのは憚られたのだ。

 もしも花空が自分の意志で水月と一緒になる事を望んでいなかった時は、それを理由に守ってやれる。

 だから雪葉はそう言った。


「まったく、お前は紛らわしいんじゃ! 水月様に何と失礼な事を……」


 長が疲れたように息を吐いた。

 恐らく水月と雪葉の遣り取りを見ていて、一番生きた心地がしなかったのは長だろう。

 じろりと横目でにらまれて雪葉は視線を逸らした。


「……いえ、雪葉の言っていた事は、私自身も思っていた事です」


 そんな二人に水月は正直に話した。

 雪葉が言っていたように、花空を強引に自分の花嫁にしようとしていたというのも、確かにあると。


「花空と雪葉の縁談の話が出ていた時、正直に言うと私は焦りました。焦って、焦って、そうして気がついたら、長に話をしていたのです」

「……ああ、そう言えば、あの時の水月様はいつもよりも、こう……」


 思い当たる節があるのか、長は髭を手で撫でながら頷いた。

 水月の言葉に雪葉は目を丸くして、ぽかんと口を開けた。


「え? いや、あれって、酒の席で酔っぱらって出ただけの話だけど……」

「そ、そうですよ、水月様! それにわたし、あの時にはっきりと」


 雪葉の言葉に頷きながら花空が何かを言いかけて、はっとして口を押さえた。

 その様子に水月は不思議そうに首を傾げる。


「はっきりと、何ですか?」

「な、何でもないです! 何でも! うん! ええ!」

「あー、何だっけ、お前。確か……」

「わー! わー!」


 どうやら雪葉は覚えているらしい。

 続けようとした雪葉の前で、両手をぶんぶん振りながら、花空はその言葉を阻止した。


「隠されると余計気になるのですが」

「そ、そ、それより! 雪葉! ……は、水月様とわたしの事、認めてくれますか?」


 呼吸を落ちつけながら居住まいを正し、花空は雪葉に尋ねた。


「………………ちゃんと花空が選んだんなら、それでいい」


 雪葉はたっぷりと時間をかけてそう言うと、真面目な顔になって水月の目を見た。

 自然と水月の背も伸びる。


「水月様」


 雪葉はそのまま、両手を床につけて深く、深く頭を下げた。


「今までの数々のご無礼、申し訳ございませんでした。……花空の事を、よろしくお願いします。幸せにしてやってください」


 その姿が、長のそれに重なって水月には見えた。

 水月は頷くと、同じように床に手を突き、頭を下げる。

 花空もそれに習った。


「はい。――――必ず」






 式を終えた二人は、その姿で村の中を歩いていた。

 お祝いの声があちこちから聞こえる中で水月は、気になっていた事を花空に尋ねる。


「そう言えば、花空」

「何ですか水月様」

「数日前に長の家で言い掛けた言葉なのですが」


 水月がそう言うと、花空はうっと詰まって困ったように眉をひそめた。


「うう、覚えてらっしゃったんですか……」

「気になりましたから」


 そう言って水月は花空の顔を見た。

 花空は話そうかどうしようか散々悩んだ末に、えいと背伸びをして水月の耳元に唇を寄せた。


「――――――」


 聞こえてきた言葉に水月は目を張ると、嬉しそうに笑う。

 そうして花空を横抱きにすると、その場をぐるりぐるりと回り出した。


「うわ、わ!」


 花空が慌てて水月にしがみつくと、お祝いに来た人々から歓声が聞こえる。

 その声に花空は顔を真っ赤にして水月を見る。

 にこりと笑い返す水月につられて花空も笑った。

 青空にふわりと花と花が舞い、花空が被ったヴェールが揺れる。 


「幸せにしますからね」

「違いますよ」

「うん?」

「わたしも幸せにしますから、一緒に幸せになりましょうね!」


 花空がそう言うと、水月は満面の笑みを浮かべた。










『どうだい花空、うちの雪葉と結婚しないかい?』

『オイコラ、花空は妹だって言ってんだろ』

『ばっかお前、その感情がいつか……ってあるだろ』

『やめろアホ親父』

『雪葉とは結婚しないよ?』

『ほら見ろ』

『ははは、残念。花空は誰か好きな人でもいるのかい?』

『うん! あのね、えっとね、わたし――――――水月様のお嫁さんになりたいの!』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

竜の花嫁 石動なつめ @natsume_isurugi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ