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ガン・・・

ガンガン・・・

ガガッガッ・・・ガンガン・・・



窓の無い、灰色の狭い空間が、断続的に震える

その耳障りな音は、船体に当たった銃弾によるものだということは、私にもわかる。


船室にいるよりもいくらかは安全だから。


操舵席の東洋人はそう言ったが、はたしてどこまで信用してよいのだろう。

こんな小さな船では、きっとすぐに穴が開いて沈んでしまう。

そうすれば、どこに居たってお仕舞なのだ。



ガン・・・ガンガンガンガンガン・・・



銃声は、頭のすぐ上から容赦なく降り注いでいるというのに。

その一発一発が私の命を奪うための道具であるというのに。


どうして、こんなにも遠いのか。




私は今、どこにいるのだろう。




昨日。一昨日。先一昨日。

小五月蠅いランザムの目を掻い潜っては庭にかくれ、来月の誕生日、元服式に思いを巡らせながらニームの樹の下で居眠りをする。

そんな毎日が、どうして今日、ここには無いのだろう。


「元服式、か」


私は兄上の姿を思い返していた。

三年前の元服式、兄上はとても美しかった。


元服を迎えた王族のみが着ることを許される真紅の僧衣。

柔らかなに揺れる両の袂には、金糸で、大きく羽を広げた孔雀の刺繍が施されていた。

三十年前、同じように元服式を迎えた父上の僧衣を模したものである。


僧衣に劣らず、涼やかで優美な兄上と、そんな兄上を見守る父上の誇らしげな眼差し。



いつか。いつか、私もー・・・




三ヶ月前、私も、僧衣を仕立てに出した。

両の袂には、私の好きなニームの樹をあしらうように命じた。

兄上の歩く大地は私がお守りするのだと、そんな願いを込めて。



「そういえば今日だったな。私の僧衣が届くのは」


自嘲混じりにそう呟くと、背後から


「いいえ」


と、いやにキッパリとした返事があった。


「・・・今日ではなかったか?思い違いではないと思うのだが」


振り返り見上げると、ピッタリと私の後ろに立ったランザムの、刺すような視線と行き会った。


「僧衣が届く予定は無いのですよ、殿下。あなたは元服を迎えることは出来ません。十四歳と十一カ月と五日。あなたは今日、ここで死ぬのです」


刺すような視線。

冷たい視線。



まるで、先刻の眼帯の女の左眼のような。

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HAPPILY EVER AFTER 佐倉くも @sakurakumo

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