第7話

そうして、女性の後について隣の部屋へ行く。そこには見るからに重装備の鎧を着込んだ男がいた。奇妙なカチャカチャ音の正体はこれだったのか。

「ご苦労様です、後はよろしくお願いします」

「そちらこそご苦労様です、後のことは全て我々にお任せ下さい。おい、君。名前は?」

本名を名乗るべきだろうか?僕はこれまでの人生見知らぬ奴に本名を教えて得したことは一度もない。適当な偽名を名乗ることにする。

「佐藤です」

「なるほど……サトウっと」

鎧男はガントレットに包まれた手を器用に動かして、紙に何やら僕の偽名をメモした。ペンは万年筆、紙は薄い、やはりこの世界の技術レベルはそこそこ高そうだ。

その後も年齢や性別(見て分からんのか!)などパーソナルな情報を幾つか聞いてはメモした後、彼は大事そうにメモをしまって「ついてこい」と言って外に出て行ってしまった。

チラと女性の方を見ると「行ってらっしゃい」と手を振ってくれたので軽く一礼して「今までありがとうございました」と言って玄関ドアをくぐった。

外の景色は旅番組か何かで既視感のあるような西洋風の建物が連なっていた。地面は石畳で舗装されており、21世紀の田舎町と言われてもあまり違和感が無い。

その石畳の上に一台の馬車が停まっていた。

「なんだ、竜車とかじゃないんだ」

「バカ言ってんじゃねえよ、竜車なんて高級品お貴族様ぐらいしか乗れねえだろ」

どうやらこの世界には貴族制もあるらしい。

馬車には門のマークが描かれていた。これが学園のマークなんだな。

「良いからはやく乗れよ」

促されるように馬車に乗る。馬車のなかには鎧を来た男がもう一人いて、鎧男に挟まれるようなかたちだ。警備が過剰すぎる。お世辞にも広いとは言えない馬車なので、これで長時間の移動は嫌だなあ。

「出してくれ」

馬車がゆっくりと動き始める。

このとき俺がいくつかの見落としを回避ーーつまり過剰な警備が誰から何を守ってるのかちゃんと考えたり、学園の門のマークがよく見れば鉄格子のマークであることに気づいたりーーしていればあんなクソッタレな場所に行かなくて澄んだものを……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

浪人生が異世界の大学に進学する話 チャッピーマン @chappieman

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ