第6話
寝て、起きて、又寝る。そういうことを何度か繰り返した。その間にも数回、女性は食事を持ってきてくれた、それらはいずれも元の世界にあった料理に酷似しており、やはり食生活にそれほどの違いは無いみたいだ。
それより問題なのが女性の態度が明らかによそよそしくなったことである。一度、名前を聞いたときなんかは誤魔化されてしまった。名前すらおしえてもらえないのだ。この世界の常識を教えて貰おうとしていたから、これにはすっかり参ってしまった。
しかし奇妙なことにそれでも俺を家に置いてくれている。これは全く幸運な事だけど、薄気味悪いといえばその通りだ。嵐の前の優しさという感じがしていた。
ある朝、俺が目覚めるとどうもとなりの部屋が喧しい。金属が当たるような奇妙なカチャカチャした音が聞こえる。これまで女性の他にこの家の住民の気配を感知したことは無いので、来客だろうか。
そうこうしてるうちに女性が部屋のドアをノックした。
「どうぞ」
何がどうぞだ、部屋を借りてる分際で偉そうに。
「おはよう、よく眠れた?」
女性が入ってきて言った。ここ数日聞いたことも無いような猫なで声だ。何か裏があるのだろうか。
「おはようございます、お陰様で。ご来客ですか?」
「そうよ。でも、あなたのお客様なの」
「僕の……ですか?」
もちろん、異世界に来てからこの女性以外の人間と知り合ってはいない。よって、来客の謂れはない。
「そう、よく聞いて。あなた異世界から来たって言ったわよね?」
「言いました」
「異世界から来た人間はね、この世界の学校に通わなきゃいけないの、貴方にはその義務があるわ。早速、これからクルマに乗って王立帝都魔法大学へ行ってもらうわ。表に迎えが来てるから、さあ行くわよ」
有無を言わさぬ口調に思わず立ち上がる。聞きたいことが山ほどあるがそれも大学とやらに行けば解決するのだろう、一先ず黙って従うことにする。
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