パズル

湖城マコト

206

 木洩れ日の差し込む豪邸の庭先で、金髪碧眼の美しい兄妹がパズルに挑戦していた。


「お兄様。上手くいきません」

「どう考えても配置はそこじゃないだろう。もっと形をよく見ないと」

「私はお兄さまと違って感覚派ですから」

「感覚だけで全てのピースが繋がったら苦労しないよ。もっと頭を使わないと」


 兄のもっともな指摘を受け、妹は拗ねたように口を尖らせる。

 兄にとってパズルは脳トレを兼ねた知的なゲーム。妹にとっては暇潰しのお遊び。そもそも、パズルに向かう姿勢からして違っていた。


「全部で何ピースでしたっけ?」

「206だよ」


 パズルのピースはほとんど無地なので、一見すると難易度は高そうだが、このパズルは立体的でピースの形状も特徴的な物が多い。完成図さえしっかりとイメージ出来れていれば、そこまで難しくはないはずだ。


「見てくださいお兄さま。それっぽくなってきましたよ」

「いい感じだ。これで両端は完成だね」


 だんだんと形が出来上がっていく。中心近くはピースの数が多いので、配置していくのに少し手間取ったものの、完成図を頭の中に描いている兄の的確な指示もあり、確実に完全な形へと近づいてく。


「よし、置くよ」

「はい」


 一際大きな最後のピースを二人で抱え、一番上に配置する。


「完成だ」

「やりましたね」


 スタンスの違いから多少の衝突はあったものの、兄妹で力を合わせてパズルを完成させた喜びはとても大きい。

 仲の良い兄妹は、喜びを分かち合いハイタッチをした。


「一つ一つは小さいのに。こうして並べると、やっぱり大きいですね」

「180センチ越えの人だからね。骨格もそれなりさ」


 兄妹は完成したパズル――横たわる成人男性の骨格を嬉々として見下ろす。

 

 頭蓋骨、頸椎、肩甲骨、胸骨、肋骨、骨盤、大腿骨……etc


 全206本のピースからなるパズル。あえて呼称するならば「骨格パズル」とでも言ったところだろうか。

 普通のパズルには飽きてしまった兄妹が行き着いた刺激的なパズル。それが、本物の人骨を使ったこの「骨格パズル」であった。

 

「パズルも完成しましたし、中でお茶にしましょうよ」

「いや、お茶は庭で飲もう。もうしばらく換気しないと、中はまだ薬品臭いと思う」

「それもそうですね」


 当然ながら「骨格パズル」で遊ぶためには本物の骨が必要となる。肉を削いだり骨を薬剤で綺麗にしたり。事前の準備にも色々と手間がかかっていた。それだけにパズル完成の達成感も大きい。


「楽しいパズルでしたわ。骨のパズルには、また挑戦してみたいものです」

「もっとピース数を増やして、難易度を上げてみるのもいいかもしれないね」

「何ピースくらいがいいでしょうか?」

「そうだね。240ピースくらいが妥当かな。形状も今回とは大きく異なるし、手応えがあると思うんだ」

「いいですね。それをクリアしたらお次は?」

「320ピースくらいかな」

「楽しそう」


 320ピースくらいというのが何を指すのか、妹も理解しているようだ。


「そういえば」

「どうされましたか?」


 他にもパズルの候補がないかと考えていた兄が、何かを閃いたらしく得意気な顔をする。


「いやね。300ピース越えのパズルは、他にもあったなと思ってさ」

「何ですかそれは?」

「それはね――」


 兄妹の目には、狂気に満ちた好奇の色が浮かんでいた。

 一線を越え、命をピースの数で表現する彼らは完全に狂っている。

 

「明日になったら、早速新しいパズルを手に入れましょう」

「そうだね。しばらくは退屈しないで済みそうだ」


 だが彼らは、自分達の命運が間もなく尽きることを知らないでいる。


 一時間後。行方不明となっている男性を捜索していた警察が、兄妹の住まう屋敷を訪れたことで事態は急展開を迎える。警察とて甘くはない。行方不明になっている男性がこの屋敷に縁のある人物だったため、早期から兄妹に疑いの目を向けており、今日まで地道な捜査を続けていたのだ。

 男性の骨という決定的な証拠を警察が発見したことで、狂った兄妹はその場で現行犯逮捕されることとなった。

 犠牲者が出てしまったことは悔やまれるが、更なる事件、小さな命たちに危害が及ぶ前に兄妹が逮捕されたのが不幸中の幸いだ。

 

 こうして事件パズル解決かんせいした。




※骨の数

 人間       206本

 猫       約240本

 犬       約320本

 人間の赤ちゃん  300本以上

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パズル 湖城マコト @makoto3

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