ある少女の思い出
蒼舵
『釣り人知らず。』平凡会社員のブログ
鱒皮 さんのプロフィール
性別:男性
お住まいの地域:大阪府
職業:会社員
自己紹介:30歳の会社員です。兵庫県出身大阪府在住。釣りと読書が好き。日々の徒然を綴っていきます。結婚一年目。第一子が生まれました!
同窓会 20XX-XX-XX 20:39:17
テーマ:日記
先日、高校の同窓会がありました。30歳の節目(?)ということで学年全体での結構大きな会だったのですが、成人式以来近況を知らなかった同級生のあれこれを知ることができ、とても楽しいひと時でした。変わらないもの、変わってしまうこと、それぞれあるんだなぁとしみじみとした気持ちになりつつ、顔なじみと久しぶりに腹を抱えて笑い合ったり、仕事やら結婚やらの話を聞いたりと時間はあっという間に過ぎていきました。懐かしい話に花が咲きつつ、しかし一番話題になったのはとある同級生についてでした。
実は私の高校の同級生には有名人がいます。今や世界的に知られている有名人です。名前は明かしませんがもしかしたらいつも読んでくださっている読者さん(いつもありがとうございます!)の中にはお気づきの方もいらっしゃるかと思います(気づいても黙っていてくださいネ)。その同級生(女性なので以下「彼女」とします)はその日不在でしたが、きっと多忙なのだと思います。彼女は在学中部活のようなものを自ら作り活動していたのですが、彼女を含め5人いたメンバーのうち、当日来ていたのは一人だけでした。一度も同じクラスになったことがなく本名はちょっとうろ覚えなのですが、基本的に誰からでもあだ名で呼ばれている男の子でした。
さて、まあなんで唐突にそんな話をし始めたかと言いますと、私はその、今や世界的な有名人となった彼女と、三年間の高校生活の中でたった一度だけ言葉を交わしたことがありまして、この度の同窓会でなんとなくそのことを思い出したので、今日のブログはそれについて書こうと思ったからなのです。早い話「俺あの有名人と同級生だったんだぜ」自慢…はい、完全に自己満足ですね(笑)。というわけで少しだけ、晩酌をしつつだらだらと書いていこうかなと思います。
あれは高校一年の春のことでした。もう15年も前の話です。15年も経ったなんてちょっと信じられない(笑)。…ですが今でも鮮明に、その時のことは思い出せます。私は元々あまり人付き合いが得意な方ではなく、僅かにいた中学の友人も違う高校に進学してしまったために入学当初は全く友達がいませんでした。そのために昼休みはいつも一人で過ごしていました。昼休みの教室の、仲いい人同士がグループになって昼食を取るあの空気に耐えられず、お昼時にちょうど日陰になる校舎裏で一人昼食を取って読書をしたりしていました。ある日のこと、持参のお弁当を食べ終えた私はなんとなくコンクリートに寝そべって、青い空を眺めていました。初夏に向かう風は涼しく気持ちよくて、日陰にいた私は昼食後もあってほとんど夢うつつな状態だったのですが、ふと視界に人影が現れたので視線を動かしました。その時自分がいた校舎裏と、数メートル先にある敷地を囲むフェンスの間には木々が生えていて、その木々の方に向かって一人の少女が歩いていたのです。こんなところに何の用だろうと思ってぼんやりと眺めていたら、その女の子は木々の前で立ち止まり、それらを見上げました。しばらくして彼女はこちらに気づき、私に声をかけました。「ねえアンタ」…今でもその声のトーンははっきりと耳に残っています。初対面の相手にアンタ、彼女の人柄が出ているような気もします。(これが彼女に読まれないことを祈る←読むわけがない)
「〇高七不思議のこと、なんか知ってたりする?」
…確かそんな風なことを、彼女は私に訊きました。(〇の部分は高校の略称です)
私は正直意味が分かりませんでした。いきなり話しかけてきてこの人は何を言っているんだろう、と思いました。ですが、日向に立つ彼女の佇まいは堂々としていて、とても力強くて、背景に広がる青空がすごく似合っていて、なんというかとても、魅力的でした。私は「知らない」と答えました。すると彼女はこちらに歩み寄ってきて、目の前で立ち止まり、私のことをじろりと観察し始めました。突然のことに情けなくも困惑していると、「そこの木。大学受験に失敗した男子高校生が首を吊って自殺して、それから幽霊が出るようになったって逸話があるの。詳しいこと知らない?」と彼女は言いました。私が「自分は新入生だしそんなこと知らない」と答えると、「新入生?新入生がなんでこんなところにいるの?もしかしてアンタ、実は幽霊だったりするんじゃないの?」と言い寄ってきて、私の手を掴みました。本当に訳が分からず狼狽えていると、彼女は何故か嬉しそうに言いました。「アンタが幽霊だったら私以外には見えないはずよ、今から一緒に校舎内一周するわよ」と、ものすごい力で私を引っ張り上げようとしました。私はちょっと待ってくれと抵抗して、どうにかこうにか手を離してもらいました。ポケットから学生証を取り出して、自分が幽霊ではないことを証明すると、顔をしかめた彼女はつまらなそうに「ふぅん」と漏らしました。
呆気に取られた私が黙り込んでいると、「アンタはなんでこんなところにいるの?」と彼女は言いました。「こんなジメジメした暗い場所にいるなんて、幽霊と間違えられてもおかしくないでしょう」と。わりとごもっともな意見だと思います。私は友達がいないからだ、クラスに居場所がないからだ、と答えました。すると彼女は言いました。「友達がいないなら作ればいいじゃない、居場所がないなら作ればいいじゃない」と、とても簡単なことのように、当たり前のことみたいに言いました。
「日陰になんかいたってつまらないわ」…どこか物憂げにそれだけを言い残し、彼女は私のいる日陰から、日向へと出ていきました。その後ろ姿はとても眩しく見えました。もう一度例の噂のあるらしい木々を眺めてから、彼女は足早に、どこか堂々と、歩き去っていきました。
……はい、これだけです(笑)。たったこれだけなんですけど、なんだか書き起こしておきたくなったので、文章にしてみました。この出来事からしばらくして、彼女とは全く関係のないところで、ふとしたきっかけで私には友人ができ、その友人とは今でも付き合いのある親友となっています(結婚式でもスピーチをしてもらいました)。まさに彼女の言う通りだったなぁと、思い返せばそんな風に感じます。
傍目から見ていても、彼女はとても面白く、行動力のある人でした。それこそ今では様々な人が彼女のエピソードを語ったりしていますが、文化祭で過激なコスチュームでライブをしたり(聞くところによれば出演はライブの直前に決まったとのこと)、自身の運営する部活への大胆な新入生勧誘を行ったり、その他にも何やらいろいろと、同級生から、上級生から、下級生から、教師から、学校中のありとあらゆる人から注目されるようなことをいつだって先陣を切って行っていました。彼女と一緒にいた部員(と呼ぶのが正しいのか、ちょっと分かりませんが…)の胆力も凄いものだったな、と記憶しています。彼女とはその一件以来二度と会話を交わすことはなく、もちろんクラスも同じになることもなく、高校を卒業しました。
…とまあ、唐突に思い出話なんかしちゃってちょっと感傷的になっていたりしていますが、彼女の益々のご活躍をひっそりと、祈念しておこうと思います。やっぱり同級生が有名人になるというのは不思議なものがありますね。彼女だけでなく、かつて同じ学び舎で過ごした人たちが、それぞれの人生を生きていて、それぞれに歴史というか、物語というか、積み重なってきたものがあるのだろうなあと、いろいろ世知辛い世の中だけど頑張ってほしいなあ、なんて思ったりする今日この頃です。
今日のブログはこの辺で。それではまた(^^)/
ある少女の思い出 蒼舵 @aokaji_soda
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