第14話 不思議な決戦!!これが私の親孝行

 ついに、待ちに待ったお母さんとの決闘です。

 相手はデレラ拳を知り尽くしているお母さん、という訳で奥義なんて小細工は使いません。どうもお母さんも同じ考えの様で。


「うおおおおおおおお」

 私達親子の戦いは純粋な力と力のぶつかり合い。お互いにデレラ状態全開フルパワーの衝突です。


 考えるより早く、息をする如くただ自然体で身を動かし、拳を脚を繰り出すのです。

 二人の身体は激しく火花を散らすかの様にぶつかり合い、大気を震わせますが…………。

 もちろん、この殺り盗りではまるで決着はつきません。


「強くなったねリンデレラ」

「だってお母さんの娘だから」

「でもね、お母さんの方がもっと強いのよ」


 あぁ、またお母さんの戦闘力があがってる。

「お母さん、そんなに戦闘力をあげると身体に悪いですよ」

「理由のない殺戮こそ健康の秘訣って言うじゃない」

「言わないし」

 私も負けずにオーラ全開、戦闘力をあげていきます。


 拳には拳を、脚には脚を、頭蓋には頭蓋を、私達の家庭は何度も激しくぶつかり、激しい音を立てて軋んでいました。

 でも、こんなんじゃ壊れない、そんな気がします。これって、なんだかとても懐かしい感覚。


「遅いッ」

「あっ」


 私が感傷に浸りながら戦っていると、お母さんは容赦なく私の背後をとってきてどつかれます。

 そのまま近くの手ごろな岩に激突、さらに私が起き上がった所に空かさずお母さんの強烈な蹴りが。


 あぁ……なんて懐かしい感覚。

 今、岩に頭をぶつけたショックで私は完全に思い出しました。

 幼い頃からお母さんに修行と称して崖から突き落とされたり、飢えた虎と闘わされたり、大量の砂糖水を飲まされたり。


 いろんな思い出が頭の中によみがえって来ます。

 そして、過酷な修行に倒れる前にお母さんは決まってこう言っていました。

「あなたはシンデレラの血を引く女の子なのよ」

 当時はその言葉の意味なんてまるでわかりませんでしたが、今になってみると何となく意味がわかりそうでやっぱり意味不明ですね。


 でも、こんなお母さんとの思い出でも私にとっては大切な思い出なのです。だから再び巡り会えた今日、この奇跡を私は大切にしたい!!お母さんに応えたい‼

 その思いが私をまた立ち上がらせました。


「続けましょう」

「見事、流石は私の娘ね」

 お母さんの突き、蹴り、肘、一連の流れのどの技も重く鋭く、私は耐えきれずにはじき飛ばされてしまいます。

 でも、それでも私は立ち上がります。


「まだ立てるんだね」

「お母さんの娘だから」

「だったら何度でも、返り討ちにしてくれる」

 私はもう逃げません。お母さんがどんなに強くても真っ正面からぶつかる。たとえかわされても、蹴飛ばされても、投げ飛ばされても、何度でも立ち向かいます。


 それから、何度倒されたのでしょう。

「まだ向かって来るのね」

 もう私に残されている体力は少ない。でも……

「デレラ拳は心の強さ、だから心が折れない限り立てるんです」

「それでこそデレラ拳継承者ッ」

 そして、それはお母さんも同じ。


 じゃあ、お母さんと私の違いはなにか。

「私は知っていますよ」

「あっ」

 闘志は私と同等かそれ以上のはず。

 でも、お母さんは年齢的にけっこうキツイはず。


 確実にお母さんの動きが鈍くなっています。経験や技で劣る私が見いだせる勝機、それこそが若さでした。

「私も年を取り過ぎたみたいね。まだまだ戦っていたいけど、そろそろ終わらせようか」

 お母さんの発言に嘘はなに一つないようで、お母さんの右腕にはとんでもない量の力が集まっています。それも空間が歪んで見えるほどの量です。

 もし、あの右腕から繰り出される強烈な一撃をかわす事が出来たなら、私はお母さんの背後だって取れるでしょう。


 でもお母さんは既に、戦闘による興奮と破壊の衝動を纏って私の眼前に迫っていました。その時、私の頭にはあの右腕をかわすなんて考えは消え失せ、ただぶつかってどちらかが壊れるのみです。


「うおおおおおおおおおおおお」

 私達親子の拳はぶつかり合い、その波動は遥か千里を駆け巡るかのようで。

 それでも私もお母さんも倒れはしません。ここまで来ればお互い言葉も思考も投げ捨て、身体の反射だけで拳を繰り出し続けていました。


 激しくぶつかり続けて、どちらが先に倒れたのかもわからないほど消耗した私達親子は大地に横たわっていました。

「私の思った通りに強くなっていてくれたね。最高の親孝行だよ」

「今回は引き分けだけど、次はお母さんにだって勝ってみせます」

「あらっ、私はまだ勝ってるつもりだけどね」

「えっ」


 不穏な発言と同時にお母さんの身体は黒いオーラに包まれ、再び立ち上がってしまいました。

「これはデレラ拳にはない技。異次元で身に付けた技でね、どんな消耗状態でも強制的に自分を戦闘させるわ」

「そんな、こんなのって」

「世界を知りなさいリンデレラ」


 お母さんの左腕を誰かが掴んだのはその時でした。

「誰っ?」

「近隣から騒音の苦情が来ています。ちょっと駐屯所まで来てください」

 お母さんは民兵に連行されて行きました。



 あれから一ヶ月。私の店はすっかり雀荘になっていました。この日の営業は午前中でおしまい。常連客達を追い出して城下町の河原に向かいます。

 河原では既にクマーさんとランマールさんが喧嘩を初めていました。

「ちょっとなんでもう喧嘩してるんですか」

「なんでってみんなで集まって喧嘩する会だろ」

「私もそのように聞いておるが」

「いや、今日はお母さんの復帰祝いのバーベキューパーティーなんですけど」

「じゃあ一緒だろ」

 まったくこの人達はどんな思考をしているのでしょうか。とりあえずクマーさんは相変わらずその辺で喧嘩ばかりして、たまに私の店まで喧嘩しに来たりするどうしようもない人です。


 バーベキューパーティーが始まるまで格闘を続けていると共に戦った人々が続々と集まって来ます。

「諸君、元気でやってるんかな。今日は楽しんでくれたまえ」

 なんとあの宇宙的人気ヒーローのキャプテンオーガキもスペシャルゲストで来てくれました。

 それからノブナーガ様に魔女のおばさん、そしてお母さんの姿もそこにはありました。

 こうやって戦闘以外でお母さんと向き合うというのも少し変な感じがします。


「リンデレラには夢ってある」

 バーベキューの最中、お母さんはこんなことを聞いてきました。

「今はまだ、よくわかりませんね」

 自分の店を持って、お母さんとも再会して、これからなんて何もわかりません。

「お母さんはね、国を作らないといけなくなったの。だってね異次元にいる私の部下達にね、こっちの世界を征服して領地を与えるって言っちゃったのよね」

「えっ……あっうん、そっうですよね」

「そういう訳だからオミシアとノブナーガにもいろいろ手伝ってもらうよ」

「えっ!?」

「であるかッ……」

 近隣の紛争地帯に小国が誕生したのはそう遠くない未来の事でした。



 戦いは何も生まないという人もいるけれど。

 今日、この場所に集う沢山の人々を見て、やはりそれは少し違うと私は思います。

 人間なんて誰もがお互いに分かり合えないし、理解出来ない気持ち悪いものだと思います。

 でも、ここにいるみんなはぶつかり合う事でお互い真剣に向き合い、認め合っていく事が出来たのだと思います。だからこそ、これまでの戦いには何一つ意味のないものなんて本当はないのかもしれません。


 そして、これからもきっと私達は戦い続けるのでしょう。

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弱気シンデレラと不思議物語 コウベヤ @KOBEYA

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