忘れてたけど此処は魔界で彼等は魔族

 温かく香りの良い紅茶も頂いて和んでいる私の向かいでは、王子やルコちゃん達が和気藹々とワッフルを食べている。非常に微笑ましい。


 だが、それを微笑ましいと思ったのは……如何やら、私だけだったようだ。


「王子? 何の為にナイフとフォークがあると思っているのですか?」


「にゃっ⁉」


「にゃぁ⁉」


 さっきまで優しそうに笑ってたヒルベルトさんが、ワッフルを手掴みで食べようとしたキリスとマティの首根っこを掴んだ。そして、自分の顔の目の前に持っていく。


 蛇に睨まれた蛙もとい、人魚に睨まれた猫。

 ヒルベルトさん、顔が端整なだけに凄味も増している。人間の大人の私でもちょっと怖かった。


 でもキリスとマティは数秒固まっただけで、暴れ始めた。ヒルベルトさんを引っ掻こうと爪を出し、おててをバタバタする。勿論届かないけど。


「王子、マナーが悪いと何度言ったら分かるんですか?」


「そんにゃの知らないにゃー!」


「降ろすにゃよぅ!」


 二人って強いなぁでもぢたばたするの可愛いなぁと思っていたら、更にもう一人勇者が現れた。


 テーブルの上に乗っかり、フォークを片手にヒルベルトさんへと突進していく、ルコちゃんだった。


 多分ルコちゃんとしては、二人を放せ、的な感じで助けようとしてるんだろう。


 しかしヒルベルトさんは一瞬で、片手に一人ずつキリスとマティを掴んでいたのを、片手に二人をまとめて持ち換えた。


 そして、マカイカズラに一撃加えた時みたいにサーベルを抜刀、テーブルへと振り下ろす。


「テーブルに乗らない……これも、何時も言っていますよね? もしかして、何時も聞こえてないんですか?」


 ほぼ向かいくらいの位置に座っていた私には、突風に襲われた感覚がしただけで何ともなかった。けど風圧でテーブルクロスは真っ二つに切れている。


 これって、ちょっとでも力加減間違えたら私も真っ二つだったのではないんですかね?


 そして切られたらしいルコちゃんの片耳がゆっくりと私の上に落ちてきた。血は出ていないし、中身は綿だった。

 グロテスクではないけど、色々と怖すぎる。


 スルト君もヒルベルトさんに抗議をするかのように身振り手振りで怒りを表していた。


 でも、ルコちゃんて本当に動くぬいぐるみなんだなーと私の頭は妙に冷静な感想を出した。多分一種の防衛本能だと思う。


「ヒルベルト様素敵!」


 そして今のやりとりを見ても、全くぶれないヴァレンティッサちゃんは凄い。


 ヤナとミハルとソラは身を寄せあい、お互いを抱き締めながらガクガクと震えていた。

 可哀想なので私はそっと席を立ち、三匹を抱き締めて少し距離を取った。危ないかもしれないからね。


「にゅ、にゅぇぇ……」


 三匹はすっかり怯え、目尻に涙を浮かべながら私にすがってくる。なのでずっと撫でてやった。


 そしてちょっとだけ不安になった。


 マナーの教育も私がやるんだよね……ヒルベルトさんに対しても反抗的なんだし、私が教えられるのかな。


 いやその前に、私此処で生きていけるのかな?

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魔界に召喚されたら身長約30センチの魔王候補生の教育係りをする事になった 璃羽 @siren-plm

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