月下のお茶会

 ルコちゃんとやらを迎えに行った双子と、お菓子を用意しに行ったヒルベルトさんを、私達は二階のテラスで待つ事になった。


 アンティークのテーブルとイスが置いてある。私のような人間が座れるサイズと、人猫族やぬい族がちゃんとテーブルに手が届くような高いサイズの二種類がある。


 ミハルとソラとクーニャは自分でよぢよぢと登ったが、キリスとヴァレンティッサちゃんはじっと私を見上げてきた。


 まさか。


「如何したの?」


 何となく、二人の言いたい事は予想が付いていた。けど、一応聞いてみる。


「乗せてにゃ」


「私はレディなの。だから、乗せるのよぅ」


 ああうん、やっぱりなぁと思いながら、私は二人を椅子に座らせる。


「改めて見ると、綺麗なお庭だね」


 直前までマカイカズラが暴れていたり、水浸しになったなんて思えないくらいに、中庭は美しかった。


 電気でライトアップしなくても……蒼い満月が、蒼い薔薇の花を静かに照らしている。人間界ではまず見る事の出来ない、幻想的な光景だ。


「にゃ、じまんのお庭なんにゃ!」


 誇らしげに、ミハルが胸を張った。


「ミハル、あの薔薇を世話してるんにゃよ」


 小さな体で薔薇の樹木を手入れするミハルを想像してみる。結構広い範囲に咲いてるし、そうでなくても手間が掛かるんじゃないかな。マカイカズラみたいなのもいる訳だし、危険もあるのかもしれない。


「大変じゃない?」


 しかし、ミハルはふるりと首を横に振った。


「おれ、おはにゃ好きにゃの」


 如何やらミハルは植物に愛されているから、マカイカズラみたいな危険な植物もミハルを襲う事はないそうだ。


 ミハルって凄いなぁと感心していると、楽しそうな声と共にヤナ達がやって来た。

 一緒に、白と黒のぬい族らしき子がいる。多分、どっちかがルコちゃんなのだろう。


「あいにゃん、紹介しにゃす」


「白ぬいがルコで、黒ぬいがスルト、にゃ」


 双子が私に教えてくれた。ルコちゃんは私におててを上げ、スルト君は頭を下げた。私も名前を告げて、宜しくねと返す。


「ルコちゃん達は喋るの苦手なんにゃ」


 らしいが、椅子に登って双子とはしゃいでいる様子を見るに、ルコちゃんは表現力豊かそうだ。多分、喋れなくても感情は伝わると思う。


 スルト君の方は……何だかルコちゃんに振り回されて疲れたみたいな顔してる。こっちも何か、感情伝わってくるよ、うん。


「お待たせしました」


 そこにヒルベルトさんがワゴンを押して来た。そして、音を立てずに皆の前に食器を置く。人猫族やぬい族にはクリームソーダ、私には紅茶のカップだった。


「ワッフルと、ルコ様の好きなレモンカードです」


 何このお洒落なプレート。代官山のカフェ? 


 いや、秋葉原だな。執事のコスプレするやつ。多分女子は、ぼったくられても本望だろう。


「いただきます」


「いただきにゃす!」


 訂正……外はカリッ、中はふわふわな、焼き立てのワッフル。そこに冷やされていたクリームとで、暖かさと冷たさが絶妙に交じり合っている。


 更に、甘みと酸味のバランスが絶妙なレモンカード。ミントの香りと相まって、爽やかな後味を残してくれる。


 ああ私もぼったくられても本望です。

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