第14話 ノーマン
「断固却下する」
「まあまあ、そう言うなってば」
やはり頑固さで有名な志部谷正だ。こちらの話に一切乗ってくれない。
そもそも、こいつは慎重で冷静な人物と言われて、十人中七、八人が指さす程度で有名なやつだってのに、オレは何やってんだか・・・。
「言い争っているみたいだけど、何の話をしているわけ?」
「「げっ・・・、上野・・・」」
仏頂面だった志部谷の顔が、さらに険しくなった。
普段志部谷が何を考えているかオレにはよくわからないが、今の状況で上野楓が来るとなったら、流石のオレでも分かる。
上野楓。彼女が何かしらの出来事に首を突っ込んだら、その出来事が重要なものであればあるほど碌な結果にならない。
そして、それが彼女の意思に関係なく起こる事態なのだから尚更たちが悪い。
例えば体育祭では、彼女の弁当だけ悪くなっており、食あたりで救急車を呼ぶ大惨事が起こった。
例えば文化祭では、クラスの喫茶店が大繁盛したのだが、終わりがけになって売上金をひったくられそうになり、警察沙汰となった。
入学式でも、卒業式でも、クラスマッチでも、修学旅行でも、彼女の周りでは何かしらの嫌な出来事がどうしても発生してしまう。
だから上野は学校中から『不幸の体現』『ムードブレイカー』などといった不名誉な陰口で呼ばれている。
そして、オレはこの学校で彼女のことを知ることとなったのだが、志部谷は運悪く(?)小中高と、ずっと前からの腐れ縁だった。
昔から『ムードブレイカー』と同じ学校に通っていたのだ、彼女が近づいた時に表情が険しくなるのも無理はないと思う。
・・・が、オレには関係ないことだ。
「そうだなぁ・・・。聞きたい?」
「そりゃあ聞きたいわよ」
上野は腕を組みつつ、オレの顔を覗き込む。
それにしても、『不幸の体現』と言われている割に、スタイルや美貌には恵まれているよなぁ。悪くない顔立ちに、豊満なム・・・。
「俺に、次に書くデッサンのモデルになれってこいつは言ってきたんだよ」
「デッサン・・・」
志部谷の声に反応した上野は、オレの向かいに座っている志部谷の方へと体の向きを変えた。
ちっ!なかなかの絶景だったというのに、邪魔しやがって・・・。
「素描とも言う。簡単に言うなら線画の模写さ」
まあ、正確に言えばもう少し違うのだが、絵に関する知識などこの二人には興味が無いだろうから、詳しく話さなくてもいいか。
「巣鴨って美術部だったっけ?」
「ああ、美術部だぞ。何でも、人物デッサンの課題が出て、絵になってくれるモデルを探しているんだとさ」
・・・説明どうも。
まあ、それだけが目的ではないんだがな。
「何それ、別にモデルになってあげてもいいじゃんか!なんで断ってるの!」
「絶対嫌だ。こいつが考えてることは大体碌なことじゃないからな」
「心外だなぁ・・・」
まあ、志部谷にはこんな感じで何度も話しかけているから、不信感も募るのは当たり前だろうな。
「どうせただのモデルなんだからさ、やってあげてもいいじゃん」
「そうしてくれたら嬉しいんだけれどねぇ・・・」
今回は、珍しいことに上野が近くにいるというのに全く問題が起きない。
寧ろオレの味方となってくれている。
これはチャンスだ・・・!
「それなら上野、もしお前がモデルになってくれって言われたら、モデルをやるのか?」
「まあ、今は手も空いてるからやってもいい・・・けど」
「本当かい!?」
「う、うん。本当だよ」
おっと!急にいい流れになったぞ!!
作戦変更、モデルを志部谷から上野に変更だ!
「じゃあ、やってもらうことにするよ。セ ミ ヌ ー ド の モ デ ル を」
「えっ・・・!」
「はぁ!?」
二人は戸惑っているようだが、志部谷は明らかにオレへと敵意の視線を向けていた。
おお、怖い怖い。だけど、言わせるきっかけとなったのはお前の言葉だからな?
「え?モデルをやってくれるって言わなかったっけ?」
「せ、セミヌードなんて、聞いてないし!」
「いやぁ、最初っからセミヌードの話で通してきたつもりだったんだけどね?志部谷君が渋って、君がやるって言ったもんだからさぁ」
「お、お断りしますっ!」
先ほどまでの態度とは打って変わり、上野は顔を真っ赤にして体を抱き半歩下がる。
ああ、いい。凄く、いい!
1706文字
一時間執筆 篠野涙 @sasanolui
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