勝ったよ
「!! にゃ、にゃんじゃね――――っ! デレるな紗姫っ! 見てるっ! すぐそこで、枝穂ちゃ……じゃなく古池さんが見て――」
「わたくし、強い人が……好きなんです」
「む……おれも、強い女は好きだ」
視線の先では、枝穂と隣にいたはずの仁摩が寄り添い、枝穂の頬を染めた酌を仁摩が口元に手を当て、受けていた。
どー見ても、E(イー)雰囲気。
「う、うわあああああああああああああああああああああああ!!」
「む、なんだ正信?」
「どうしたの? 尾木戸くん」
雄たけびを上げ突進する正信に、仁摩と枝穂は驚き顔をあげ――その足を、紗姫が掴んだ。
両手で。
「あべしっ!?」
それにより正信は、テーブルの上にまともに頭から突っ伏す。角に額を強打し、悶絶する。
「ん、んごごごごごごぉぉぉぉぉぉぉ!? さ、さささささ紗姫お前いったいなにしてくれてんだ!?」
「まさのぶがー、さきをー、むししてどっかいくからー」
そういって紗姫は、正信の両脚をぶんぶん上下する。それにより正信の体は波打ち、連続して畳みの上に叩きつけられる。
「んがっ!? んごっ!? んぎっ!? んぐっ!? ちょ、ちょっやめ紗姫、悪かった悪かった悪かったからそれやめれ――――――――っ!!」
「にゃはははははは――――――――っ!」
大笑いしながら叩きつける紗姫と、叫び許しを請う正信。なんだか異常な事態なのだが、微妙に緊張感のない構図だった。それを仁摩と枝穂は呆然と見ていたが、しばらくして視線を外しお酌の続きを再開した。
「にゃは、にゃは、にゃは……にゃぁ」
二人が酌を完了して談笑しひと息ついたところで、ようやく紗姫の気が済んだのか振り回すのをやめた。正信はそのまま、煎餅のように平べったく、沈黙する。
「ぅ……ぐぅ、紗姫……お前は、毎回毎回いったいなにがしたいのかわっかんねんだよ……」
「だいじょーぶ?」
そこに、今度は可愛らしい女の子の声。今日はよく声から登場人物が現れる日だと正信らしい分析をする。
「ん? ……る、琉果?」
「うんっ、琉果だよおにーちゃんっ」
顔を上げた正信の先には、目はくりくりと丸く、ほっぺもぷにぷで、髪は二つ結びにした、ぴんくのヒラヒラしたワンピースを着たミスおにいちゃんキラーが、満面の笑顔で覗き込んでいた。
「ど、どうした? っていうか、誰に連れてこられた?」
酒の席に小学生連れてくるなんて……
「アぁ、オレがぁ、連れてきたァ」
左の方の席で、芳武が真っ赤な顔で陽気にぶんぶん手を振っていた。その手前には日本酒の徳利が――十数本。うぉ!? 兄き酒弱いくせに、あんなに飲んで……!
「あ、兄き酒弱いくせにまたそんなに飲んで……じゃなくて! なに小学生こんな酒の席に連れてきてんだよ!?」
凄い剣幕で怒る正信に、芳武は設楽と肩を組んで一昔前のビジュアル系ロックバンドのバラードなんか歌いながら、
「WOO~♪ ……いやさ、お兄ちゃんとこ行くーってしがみついて来るんだから、仕方ねージャン?」
兄きはもうすっかり砕けた喋り方に戻り、出来上がってしまっていた。ワー、なんて言って設楽先生と抱き合っている。てか設楽先生の方もホンット酒弱いなー!
「……で。もう過ぎたことはしょーがないけど、なんで琉果はお兄ちゃんに会いたかったのかな?」
ため息混じりに尋ねると、琉果はすごい勢いで、
「おにーちゃん! 今日のお試合、勝ったぁ?」
どきん、とした。
――そっかぁ。そういえば、今朝言ってから家を出たっけな。
それで正信はニヤと笑い、
「どーだったっけ? 仁摩」
枝穂の隣にいる仁摩に、肩を回した。琉果は目をくりくりさせて、
「にまちゃんもお試合だったんだー。どーだったー?」
仁摩は少し躊躇し、
「あぁ……勝ったよ」
「おめでとーっ!」
その妹の祝福に、仁摩は笑った。
にこりと、優しげに。
喧拳囂go!(けんけんごうごー)~本格格闘技学園青春成長中二病ラブコメ~ 青貴空羽 @aokikuu
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