第15話御伽噺とゴーズさん

「さて、じゃあまず何から話そうかな」


 俺は今、ゴーズさんとラーズさんに連れられて白亜の遺跡の手前のところまで来ていた。

 そこには、白を基調としたガゼボがあり、俺はここで話を聞くことになった。


 テーブルには見た感じ高級そうなティーセットがあり、カップの中にはいい香りがする紅茶が入っている。


「なら、まずは本当にここが『聖域』なのかを教えてくれますか?」


 俺がこの森に来た理由は、『聖域』の調査がメインだ。その『聖域』が本当にここだとするならば、ここに至るまでの道のりや入るときに潜った結界のことなどをできるだけ詳しく聞いておきたい。


「そうだね、まずはそれが一番大切なことだね」


 ゴーズさんは紅茶を一口飲んだ後に、にこやかな顔でこの場所の説明をしてくれた。


「始めに、ここが聖域なのかどうかと言われたら、ここは正真正銘聖域だよ」

「そうか、ここが……」


 俺は改めて周りを見渡す。


 目の前には巨大な白亜の遺跡があり、来た道にはこれまた同じ白亜の柱が等間隔で並んでいる。

 見るからに神秘的であり、この世界に転生してから様々な景色を見て来たが、ここまで神秘的な光景は見たことがない。

 それに、よくよく見てみると空気中に漂うファラの濃度が尋常じゃない程に濃い。色も爽やかな緑色でありながら何故か光り輝いている。


 他の危険区域にもここのようにファラの濃度が濃い場所はあったが、ここまで濃いのは初めてだし、色もこんなに光り輝いているのは初めて見る。


「ところでカイト君」

「はい?」


 空気中のファラに夢中になっていて、ゴーズさんとの話が途切れてしまった事を思い出し、慌てて話をする姿勢に戻る。


「君は、聖域がどのような場所なのか知っているかい?」


 ゴーズさんはさっきと変わらないにこやかな笑顔で俺に質問をしてくる。

 ただ、それは少しイタズラをする子供のようなどこか含みがある笑みだ。


 因みに、ラーズさんはさっきからずっとぼーっと遠くを見ている。


「聖域がどのような場所か、ですか……知っていることとすれば、御伽噺の話程度です」


 正直、聖域がどのような場所であるかは全然知らない。知っているとすれば御伽噺に出てくる程度のことだけだ。

 『聖域と泣き虫王』という御伽噺の中では、聖域は泣き虫王が訪れ、修行をした場所となっている。


「そうか、そうか。やっぱりあの御伽噺はまだまだ現役なんだね」


 ゴーズさんは嬉しそうに頷く。


「ゴーズさんもあの御伽噺を知ってるんですか?」

「知ってるも何も、あの話を作ったのはゴーズだぞ」


 今まで話に混ざらず遠くを見ていたラーズさんが、急にそんなとんでもないことを言い出した。


「へぇーゴーズさんがあの御伽噺の作者……作者⁉︎」

「実はそうなんだよね。あ、サインとか欲しい?」


 ゴーズさんは懐からペンを取り出してチラチラと俺を見る。


「いやいや⁉︎作者って……あの御伽噺はそれこそ何百年も前からあるものだったはずですよ⁉︎」


 俺はゴーズさんのサインアピールを無視して話す。

 ゴーズさんがあからさまにしょんぼりしているが気にしない。


 あの御伽噺は本当に大昔からあるもので、それこそこの国ができる前からあるものだと言われている。

 この世界に共通して伝わっているもので、どの国の言語でも翻訳がされているほどだ。


「正確には500年前からかな。僕がここの管理を任されてから作ったものだからね」

「ごひゃ⁉︎ゴーズさんって一体何者ですか⁉︎」


 500年前に作った物って、単純に考えてもゴーズさんが500年以上生きていることになる。それに、さらっとここの管理を任されてからって言ったってことはこの場所はそれよりも昔からあるってことになる。


「そうだなぁ。僕が何者かと問われれば、簡潔にいうとここの管理を任されてる者かな」

「聖域の管理?」

「そうだね。更に言うと、僕の役目は聖域を外界から切り離し心が悪しき者から守護すること。ついでに、ここに導かれた者に対して本当の聖域の役割を説明する説明役」

「守護?説明?」


 正直、ゴーズさんの言っていることがよく分からない。

 ゴーズさんは500年以上前からこの聖域にいて、聖域を守ってて、来た人に説明をする?


 うん、全くもってよく分からん。ぶっちゃけるとここに来てから驚きの連続でそろそろ頭が考えることをやめそうだ。


「カイト君」

「は、はい⁉︎」


 ゴーズさんは真面目な顔つきになり、俺の顔をじっと見つめる。


「今から話すことは君にとってとても重大なこととなる。混乱するのはわかるがしっかりと聞いて欲しい」


 さっきまでとは違い、ゴーズさんは真剣な表情で俺を見る。

 それはまるで、俺の心の中を覗き込むような、俺の真価を見定めるようなそんな感じだ。


 俺はカップに入った紅茶を勢いよく飲む。

 口の中に紅茶の程よい苦味とすっきりとした甘さが広がり、いい香りが鼻を抜ける


「バッチコイです」


 俺はどんな事を聞いてもしっかりと受け止める覚悟を決めて、ゴーズさんの話を聞く準備を済ませた。


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聖域観測譚 Nag @Nagss

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