第14話 聖域と管理者

「ここが…『聖域』?というか、一体あんたは誰だ!?それにさっきの声は…‼」


 俺は後ろにいた男性に対して警戒をしつつ様々な事を考える。


 ここが『聖域』だって!?確かに人間離れした結界に守られていたが…それにしたとしてもなんで俺がこんな場所に連れて来られた?何かヤバいことをやったか?それに結界を通るときに受けた衝撃は何だったんだ?あーもー考えが纏まんねぇ‼


 俺はこのよくわからない状況に恐怖と若干の苛立ちを覚え、頭をガシガシと掻く。


「え~っと、確かにいきなりこんなところにお連れして、『聖域』だなんて言われても困るのは分かります。しかし、一旦落ち着いてもらえると私も助かるんですが…」


 そんな俺の状況を見て、若干あわあわした感じの表情で男性が話しかけてくる。


「落ち着けって言われたって…」


 そんなの出来る訳がない。そう言おうとした時、


「がぁ!?」

「いちいち煩い人間だな。少し黙っていろ」


 後頭部を何かに鷲掴みにされた。


「痛い痛い痛い‼」


 掴む力は凄まじく、後頭部がミシミシと音を立てているのが聞こえる。

 こんなの洒落にならない‼後頭部が割れちまう‼


「静かにしろと言って…」

「ラーズ‼大事なお客さんになんてことしてるんだい!?すぐにその手を離すんだ‼」

「わかった」


 男性が何かを言うと、潰される寸前だった後頭部の拘束が解けた。

 

「うおぉ…頭が…俺の頭がぁ…」

「だ、大丈夫かい!?」


 痛さのあまり蹲っていると、男性が俺の元にかけよって回復魔法をかけてくれた。


「あ、ありがとうございます」

「こちらこそ私の同僚がいきなりあんな真似をして本当にすまない。ラーズもちゃんと謝るんだ」

「む…すまなかった。まさかあんなに痛がるとは思わなかったんだ」


 男性は丁寧に頭を下げて謝罪をしてくる。

 それとは別に綺麗な女性の声の謝罪が俺の後ろから聞こる。

 いきなり頭を鷲掴みにした上に潰そうとするなんてどんなメスゴリラだと思い振り返る。


「すまないじゃな…い…」


 振り返るとそこには絶世の美女としか言いようがない美しい女性が、すまなそうな顔をして立っていた。

 ガラス細工の様な白く透き通る肌。見るからに柔らかいことが分かる淡いピンクの唇。威圧をするような鋭い眼光でありながらどこか見るものを引き付ける妖艶さをもつ目。大地につくほどの艶のある漆黒の髪は光を反射してまるで宝石のように輝いている。長身の体は出るところはしっかりと出ており、引っ込んでいる所は引っ込んでいる。その美しい体を強調するかのような刺激的な黒を基調とするドレスを身に纏っている。


 俺は目の前にいるラーズと呼ばれていた女性から目を離せなかった。

 それは女性があまりにも美しいからではなかった。(まぁ多少はそれもあるけど)

 目の前にいる女性は、あまりにも『それ』の姿の情報と酷似していたのだ。

 黒色のドレスに身に纏い、漆黒の髪をたなびかせ、戦場を蹂躙する絶世の美女。


 『それ』は曰く、龍の力を宿す化け物である。

 『それ』は曰く、人知を超えた神に等しき存在である。

 『それ』は曰く、聖域を守る守護者である。


「『聖域の守護者』」


 俺は無意識のうちにその言葉を口から漏らしていた。


「ん?私の事を知っているのか?」


 女性は小首をかしげて俺の目をじっと見つめる。


 目と目が合う。たったそれだけで俺は全身から脂汗が吹き出した。

 つい、いつもの癖で相手のバンの内容量を見てしまったのだ。

 そして、そのせいでこの女性があの『黒龍姫』であることが分かってしまった。


 見たこともない莫大なバン。それだけでも恐ろしいのに、そのバンは赤黒く悍ましいまでの威圧感を放っていた。


 目を見ているだけなのに全身を握り潰されているかのように錯覚するほどの圧倒的に戦力差。

 悪寒が全身に廻り、呼吸をするのも忘れる。

 こんな物がこの世に存在しているなんて…

 そりゃあこれが相手なら国の軍なんて一瞬で殲滅されるよな。


「こら、御客人を威圧するんじゃない」

「あだ」


 数秒後に男性に女性に対してチョップをすることで、女性の視線が俺から外れて解放された。


「怖い思いをさせてすまない。ラーズも謝るんだ」

「何だかさっきもこのような状況に…」

「どっちとも君が悪いんだよ!?」


 男は、はぁーっと深いため息をついて頭を抱える。


 俺はこの状況について行けず、考えることも忘れて呆然と突っ立っていることしか出来ない。


「取り敢えず、このまま立ちながら話すのもなんだから落ち着ける場所に行こうと思うんだけど、歩けそうかい?」

「え、あ、はい。大丈夫です」


 男性が俺の方に手を差し伸べてくれる。


「そうか、それならよかった。あ、そうだ。まだ僕らの名前すらいえてなかったね」

「私の名前はゴースが言っていたから知られているがな」

「それは君が失礼なことをするからだろ!?」


 そんなやり取りをしたのち、コホンと咳ばらいをする。


「改めまして、僕の名前はゴース、こっちの女性は、」

「ラーズだ」

「えっと、俺の名前はカイト=ラグナルドです。よろしくお願いします」

「うん、こちらこそよろしくね」


 ゴースは俺と笑顔で握手をした。

 

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