第13話聖域
「ん~…」
暑い。何だこれは。
「んん~…」
それに重いし息苦しい。
まるで何かが体に乗っかっているような感覚だ。
俺は重くて動きずらい体をよじりながら、手で辺りを探る。
もふ。
「うわ~凄いもふもふでやわらか…柔らかい!?」
「なぁ!?」
俺はよくわからない感触に驚いて、思いっ切り体を持ち上げた。
そして、俺に今何が起こっているのかを確認する為に辺りを見渡すと、
「な、なんじゃこりゃ!?」
俺を中心に多くの動物が寄り添って眠っていた。
「なぁ~」
「あ、うーぴょんおはよう。そしてこの状況は君のせいかい?」
起きた俺の頭の上に登ってきたうーぴょんに挨拶をしてから尋ねてみる。
「なぁ~?」
うーぴょんは頭を傾げた後に、欠伸をして知らん顔をしている。
いや、実際はそん感じの雰囲気を出しているだけでウサギの顔なんて分かんないけどさ。
その顔がウザ可愛いので、うりゃうりゃとほっぺをもみもみして遊ぶ。
「さて、うーぴょんで遊ぶのは終わりにしてこの状況を整理しないとな」
周りを見渡すと、先ほどと変わらずに俺の周りには小動物から鹿などの少し大きめの草食動物がすやすやと眠っている。
「一体何なんだよこの状況は…」
異様な光景に溜め息をつきながらも、寝る前にしたことを思い出す。
確か、怪我した鹿を治療して…
「そういえば、あの鹿はどこだ?」
結構な深い傷だったので、応急処置をしたとはいえ一晩で動けるほどになるとは思えない。
しかし、周りを見渡しても治療をした鹿は見つけることができなかった。
「鹿はいったん置いとくか」
次に治療をやり終えた後の急激な眠気について考える。
いくら観測での疲れが溜まっているとはいえ、簡単な治療魔法を使っただけで意識を失うとは考えにくい。
「他の生物からの攻撃?それなら眠った後に何もしてこないのはおかしい。なら、霧と同じでこの森の特殊な現象か?それならこの一週間の間に一度もなかったのはなんでだ?それに、あの時は異様なファラは見えなかった」
うーんっと考えるも候補が増えていく一方で答えらしき解答が思い浮かばない。
「なぅ~」
「どうしたうーぴょん。また寝るのか?」
そんな俺を見るのが飽きたのか、うーぴょんは再び俺の膝の上で丸くなる。
いつもながら不思議な鳴き声…
「声…そういえば、眠る直前に声が聞こえたような。確か声は『ありがとう、今は休みなさい』って言ってたな」
聞こえた声が俺の幻聴でなければ、俺が眠ってしまった理由がはっきりと分かる。
そして、それが本当ならば、今の俺の状況は少し不味いと感じた。
「何時から監視されてたのやら…」
声の意味から誰かが俺が牡鹿を治療していたことに関しての事だろう。と言う事は治療をしていたところを見られていたことになる。
すぐにここから離れなければと思いここから離れようとするが、俺の周りには動物たちが気持ちよさそうに寝ているので、無理に動くことができない。
いや、動いてもいいんだがその代わり、気持ちよさそうに寝てる動物たちを起こしてしまう。それは流石に気が引ける。
「まぁ今更俺がどうこうしたって意味がないか」
誰かに監視されていることはほぼ確定だが、俺に危害を加えるような真似をしてくるつもりは無いようなので緊張を解いてうーぴょんを撫でる。
「この子たちが起きるまで俺ももうひと眠りしますかね」
そう決めて二度寝をかまそうとしたとき、
「な、なんだ?」
いきなり動物たちが一斉に目を覚まし、俺の元から離れていった。
「一体何なんだよ…」
困惑と少しの寂しさを心に抱きつつ辺りを見渡す。
すると、少し離れたところに立派な角をした鹿を見つけた。
体には綺麗な金色の毛が混じっており、見方によっては何かの模様のようにも見える。後ろ左後ろ足には包帯が巻かれている。
「あの鹿だよな」
間違えなくそれは、昨日俺が治療した牡鹿だった。
牡鹿は俺の事をじっと見つめたのち、ゆっくりと森の奥に入っていく。
「あ、ちょっと待てよ」
「なぁ!?」
俺は牡鹿を追いかけるために慌てて立ち上がった。そのせいで膝で寝ていたうーぴょんが地面に放り出され、何事かと声をあげている。
てか、他の動物が一斉に起きたのに眠り続けていたのですかうーぴょんさん。
荷物を持って牡鹿の後を追う、牡鹿は俺との距離を一定に保ちながらどんどん森の奥に進んでいく。
「これは、ついて来いって事なのか?」
奥に進むことに少し戸惑いを感じながらも、牡鹿の行動の方が気になり後を追う。
何故あの牡鹿が来た瞬間に動物たちが一斉に起きた?
何故あの牡鹿はあのような深手を負っていた?
何故あの牡鹿はあの深手で動ける?
様々な疑問が湧き起こるがついて行けば知ることができる気がするので黙って牡鹿の後をついて行く。
因みにうーぴょんは俺の背中にへばりついている。
しばらく牡鹿の後について行くと、急に牡鹿が立ち止まる。
「ここに何が…ってあれ!?」
牡鹿が立ち止まったので何かあるのかと思い辺りを見渡した途端、目の前にいた牡鹿が消えた。
「一体どこにって、成る程そう言う訳か」
牡鹿がいた方を見てみると、少し先の方にファラが複雑に組み合わさっている場所を発見することができた。
一見すると何もない場所だが、ファラを見ることができる俺には空中に凄まじく複雑な模様が描かれているように見える。
「ここまで複雑に組まれてるってことは、人為的に作られた視覚できない結界の類ってところか。しかしまた何で俺をこんなところに連れてきたんだ?」
牡鹿はこの結界の先に行ったのだろう。しかし、この結界がどの様なものなのか分からないので、一旦立ち止まって考える。
「怪我を治療した恩返し?ならこの先があの牡鹿の住処なのか?と言う事はあの結界はあの牡鹿が張ったもの…そしたらとんでもない発見だぞ」
見るからに人間でも行うことが難しいであろう結界を、鹿が張ることができるなんて聞いたことも見たこともない。
それにこの結界はバンではなくファラで構成されている。魔法を使う動物は数多く発見されているが、ファラを魔法として使う動物は見たことも聞いたこともない。
「あの鹿は普通の鹿ではなく新種…しかもファラで魔法を扱える…」
ブツブツと独り言を言いながら考える。
「なぁ~」
そんな俺に対してうーぴょんは、ズボンの裾を引っ張って先に進ませようとする。
「いや、先に進むのは流石に危険…」
そう思ってうーぴょんを拾い上げようとしたとき、
『いいからさっさと入りなさい』
「へ?ってどわぁ‼」
そんな声と同時に誰かに背中を突き飛ばされ、結界の中に放り込まれた。
「いてぇ…一体何が…」
結界の抵抗は何もなく、すんなりと結界の中に入ることができた。
まぁ、後ろから突き飛ばされたおかげで顔面から地面にダイブしたけどな。
「結界の中に入ったのはいいが…一体ここは何なんだ…」
顔に付いた土を払い、周りを見渡す。
するとそこはさっきまでの大樹に囲まれた森とは違い、巨大な白亜の柱が何十本と等間隔に並んでいた。更に、奥にはこれまた巨大な白亜の遺跡がある。
その異様なそれでいて神秘的ともいえる光景に目を奪われる。
『ここはこの森の中心にあたるところ』
「誰だ!?」
後ろから声が聞こえたので振り返る。すると、銀色の長髪をした高身長の男性が立っている。
そしてその男性はやわらかな笑みを浮かべながら、
『貴方達人間が【聖域】と呼ぶ場所です』
そんなとんでもないことを口にした。
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