1-1 出逢い


授業が始まってもまだ少しざわついた教室。


みんなの話題や視線は1つのことに集中している。


もちろん、彼女だ。


俺の斜め前の席に座った彼女は、その横顔も綺麗だ。


集まる視線に少し照れながらも、髪をかきあげたり、ノートに文字を書く姿を見るだけでとてもドキドキする。


あぁ恋ってこんな感じなのか。


俺は意外と惚れっぽいのかもしれない。


普通、1日で人のことを好きになれるんだろうか。


俺は彼女のことを何も知らない。


彼女も俺のことを何も知らない。


この恋は叶うものではきっとない。


午前の授業はぼーっとしたまま過ぎて行ってしまった。


しかしそれも昼休みで終わる。


「藤、葵!」


昼休みのチャイムがなりいつも通り3人で昼食を取る予定だった。

だけど朝日が連れてきたのは…………彼女だった。


「あの、一緒に食べてもいいかな?」


「さっき仲良くなったんだ! どう?」


朝日は俺の方をちらっと見ながらそう言った。


感謝!!


「ここどうぞー」


藤がさりげなく席を作って彼女を座らせる。


本当、こういうやつがモテるんだろうな。

いつも周りに気を遣える。


「ありがとう」


彼女が座ったのは俺の前。


男2人、女2人で向かい合うような形だ。


「沙羅は趣味とかある?」


朝日とはもう名前で呼び合う仲のよう。


「私は絵を描いたり、写真を撮ったりするのが好き。あとは音楽を聞いたりしてるかな」


「見るからにそんな感じ! 絵とかすごく上手そう」


「上手いかどうかわからないけど、自分が描きたいものを見つけてイメージ通りにかけるとすごく嬉しいから好きなんだ。お父さんが芸術とかに興味がある人で水彩画を習ってたこともあったな」


「俺は水彩画好きだなぁ。淡い感じがなんかすごく好き」


俺がそういうと彼女は目を輝かせた。


「そうなの! あの淡くて透明感のある感じがいいの!」


彼女が描く絵か…すごく見てみたいな。


それから話しはどんどん移っていった。


彼女は食べることも好きらしい。

でも絵を描いていると食べることを忘れて後で落ち込むそう。

また、大人しく見られることが多いけれど、実はどっちかというと活発な方で昔、怪我とか沢山してたり、男の子とカブトムシ採ったりと俺の知らない彼女の一面を沢山知ることができた。


最終的にまた趣味の話に戻る。


「音楽ってどういう曲を聴くの?」


「これもお父さんの影響なんだけど、クラッシックを聴くことも多いかな」


「そうなんだ、クラッシックってオーケストラのやつ?」


確かにオーケストラだけど、それだけじゃないでしょ。

ピアノだったりバイオリンだったり色々ある。


「そうなんだけど、ピアノ曲が好きだったりする」


「そうなの?」


「ピアノの音って凄く落ち着くんだ、それに1つの楽器でいろんな音を出せて壮大な曲にも単調な曲にもできて、弾ける人は本当に凄いと思う」


「あ、弾けないんだ」


「うん。私は全く弾けないの!」


彼女は、はははっと笑う。

笑顔がキラキラしている。


ピアノを弾いたら彼女の笑顔が沢山見れるだろうか。


「ピアノ好き?」


「好きだよ、幸せになる」


「実は俺、ちょっとだけ弾けるんだ」


いつの間にかにか俺はそんなことを口走っていた。


「そうなの!?」


「そういえばそうだったな」


「っていうか出逢ったきっかけもピアノだったじゃんね?」


「そうだね」


藤と朝日に出逢ったのは、高校一年の始め。

誰もいないことを確認した上で音楽室のピアノをこっそり借りて弾いたはずなのに、引き終わるとなぜか2人がドアの前で立っていた。


その時は本当に驚いた。だけどそれで仲良くなれたんだから凄い。


ピアノで俺はたくさんのものと出逢った。


でもその中には良いことだけじゃなくて悪いこともあった。


でも今は幸せだからそれで良いんだ。










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またいつかその時まで。 葉紅ふじ @hon_hon_ABY

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