後日譚 その二

 僕は初代みーちゃんとして猫生を終えた時に神様に会って以来、神様に会っていない。


 会っていないが、あの優しい神様が意図してこの体に生まれ変わらせてくれたのだと思っている。僕の最後の強い想い、風香にもう一度会いたいという気持ちを汲んでくれたに違いない。


 だけど、これが最後の慈悲だと思う。今生こそ天寿を全うして、胸を張って精一杯生きたと神さまに会って話をしたい。



 学校が終わって急いで家に戻る。


「ただいま!」


「お帰り、瑞樹」


『お帰り~』


 みーちゃんが走ってきて足にスリスリしてくる。


「姉さん、二丁目のきち子が赤ちゃん生んだみたい。なんか弱ってた。連れてきていい?」


「肥立ちが悪いのかしら? 早く行って連れてきなさい」


 よし! 姉さんの言質を頂いた。うちのヒエラルキーのトップは風香姉さんだから、姉さんがいいと言えばそれで問題ない。


 急いで自転車にバスタオルを入れた段ボールを括り付け、猫キャリーバッグをカゴに入れ出発。きち子は二丁目の空き家の縁側の踏み台下に住んでるはず。


 行ってみると、はくがいた。


『みずき、ここ』


 踏み台近づくとみ~み~と合唱が聞こえてくる。


 残念ながら、僕は一部の猫としか会話ができない。すべての猫とおしゃべりできないのだ。できたら楽しかったのにね。


 踏み台を覗くと痩せたきち子と子猫四匹がいる。産まれて十日くらいらしい。目はもう開いているね。きち子ははくに渡したご飯を食べていない。そこまで弱っているのかも。子猫たちをキャリーバッグに入れ、きち子を段ボールに入れる。


「きち子は当分家で面倒見るよ。さっきのご飯は食べていいよ。それから、学校のトイレの件、もう少し調べてほしい。」


『わかった。きち子、お願い』


 家に戻ると七月が学校から帰ってきていた。


「可愛い~、可愛い~、可愛い! うちで飼うの!」


「飼わない。いつもどおり、少しの間面倒を見て里親を探すの」


「えぇー」


 子猫たちは七月に預けてミルクを与えてもらう。


「きち子お母さんはだいぶ弱っているわね。汚れも酷いから綺麗にしましょうか」


 風香姉さんがきち子をお風呂に連れて行き綺麗にしてくれた。抵抗する体力もないようで、タオルで乾かしてやっていると恨めしそうな目で僕を見てくる。


 皿に水を入れてあげるとペロペロと飲み始める。カリカリには口を付ける気配がない。まあ、水を飲んだだけよしとしよう。


 七月の所に行くと母さんも一緒になって子猫にミルクを与えていた。


「母さん、絵本のほうはもういいの?」


「みーちゃん、お母さんにはねぇ、癒しが必要なのよ?」


 現実逃避ってやつだね。あの姉さん母さんも見紛うことなき肝っ玉母さんになっている。スタイルは変わってないけど、歳を経て貫禄がついた。今の母さんより、風香姉さんの方があの時の姉さん母さんに似ている。十七年の歳月が過ぎているのだから当然か。


 それと、母さんは姉さんを風香、妹を七月と呼ぶのにぜか僕だけみーちゃんと呼ぶ。前々世と前世の僕のことを引きずっているのだろうか? 僕はここにいるよ、姉さん母さん


「にゃ~?(呼んだ~?)」


 みーちゃんと声が聞こえたので白猫のみーちゃんが寄ってきて母さんにスリスリ。そして、ミルクを飲む子猫に興味津々。


「みーちゃん、可愛いでしょう~。ミーちゃんもこんな小さい時があたんだよ~」


 今のは白猫のみーちゃんに対して言ったのね。紛らわしいよねぇ。


 お腹いっぱいになった子猫たちを綺麗になったきち子もとに連れていくと、みんな丸くなって寝てしまった、そんな子猫たちをきち子母は愛おしそうにペロペロと毛づくろいをしている。


「きち子も早くよくなれよ」


 きち子は何も言わずじっと俺を見つめてから、子猫たちの毛づくろいに戻った。


 夕方になり父さんが帰ってくると、子猫たちがみ~、み~と大合唱でお出迎え。


「今日は賑やかだね」


 着替えてきた父さんによちよち歩きの子猫たちが集まってくる。そんな子猫たちを抱き上げて膝の上に乗せて、一匹ずつ確認。猫飼い歴も長いのでお手の物。


「みんな里子に出すのかい?」


「トイレのしつけと予防注射くらいはうちでしたいけど、一番可愛い時期に欲しがる人もいると思うんだ」


「私が里親募集の紙をつくるわ。大学で探すけど、瑞葵とななも里親を探してね」


「うん、任せて~」


 俺も頷く。NNN調査員に探してもらおう。きち子も一緒に飼ってくれる所がいいなぁ。NNN調査員の頑張りに期待だ。


 報酬は奮発してかつお節の載った猫まんまにしよう。


 きっと、やる気を出してくれるに違いない。





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僕が猫になった理由 にゃんたろう @nyantarou

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