第4話 お前とは、潜った修羅場の数が違う④

『噂は聞いてるよ。中学のとき、全国にいけるレベルなのに大会出場を辞退したんだろう?』

『そんな素晴らしい腕の持ち主なら是非と言いたいんだけどね……』

『わかるよね? 賀茂さんが君の入った部活は徹底的に粛清するって言ってるんだよ』

『迷惑なんだ……』


 私は自分の手を見てぼんやりと過去にかけられた言葉を思い出していた。


 本当は、高校でも竹刀を振るうはずだった。

 目立てないから、大会には出場するつもりはなかったけれど。

 それでも、私は竹刀が握りたかった。


「………」


 黙ったまま、自分の手を見つめている私に影井さんは首をかしげる。


「清村?」

「わかんないね。私が一番使える武器」


 そこで、思わずはぐらかしてしまった。

 竹刀が、剣が握りたい。

 でも、迷惑だって言葉が頭に強く残って言葉にできなかった。


「私ほら、何でもできちゃいますし」

「……見つけていくしかなさそうだな」


 影井さんはその言葉にどこか、納得はいかない表情だった。

 でも、それ以上にいくら言っても私が自分の扱える武器を言葉に出さないことを察したようだった。


「ごめんね……」


 何に対しては、とは言わなかったが私はぽつりと影井さんに謝った。

 影井さんは首を横に振った。


「人の心などそう簡単なものではない。無理をするな」

「うん。それでも、ちゃんと影井さんの役には立てるようにするから」


 無理矢理笑って見せると、影井さんは小さく笑ってみせる。


「期待しておる」

「まかしてちょ」



 去っていく影井さんの背中を見送って私はずるっと地面に座り込んだ。


「くっそ、悔しい……」


 こんなに完膚なきまでに負けたのは初めてだった。

 だから、余計に悔しくて涙が止まらなかった。

 私は強者だったはずなのに、初めて弱者の地位に転落した。


 そんな私の鳴き声を閉まった扉の前で立ち止まり、影井さんが聞いているなんて知らなかった。

 その影井さんがその後、スマホでどこかに電話をかけたことにも気づいていなかった。


「もしもし俺だ。陵牙と蒐牙を呼び出せ。場所は緑ヶ丘の西園寺高校だ。手続きは俺のほうで済ませる」


 その影井さんの電話が、また、波乱の第一歩だったなんて知る由もなかった。

 私の運命はこうして、私の持ち主になった影井さんによって、大きく大きく変えられていくことになるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

陰陽士の刃 die介 @elen_c

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ