えぴろーぐ
その心臓に飾るまで(続)
ミミズクの朝は早い。
……ごめん、夜行性なので遅い。
ようよう昼も随分回ってから起き出して、なんとか夕食を作りはじめる。
水汲みも、素材集めも、すっかり夜の仕事と化していた。
変わったことは、他にはない。
森の輝きは絶えないし、ウンディーネはいつも通り言葉少なだし、妖精たちはお菓子が好きで。
ペストの治療法も、まだ確立できていない。
それでも、頑張り続ける者がいる。
「あ~ちゃ~ん~」
情けのない声をあげて、そいつはやってくる。
煤だらけの身体、鳥の巣のようになっている銀の髪の毛、いったいどんな爆発物を扱っていたのか、その顔にはいつか見た、カラスのくちばしのようなマスクがくっついている。
「また失敗だよ~! 癒して、そのもっふもふであたしを癒して~!」
マスクをかなぐり捨て、泣き付いてくる彼女を、俺は邪険に蹴飛ばしながら、夕食作りを続行する。
「うぇぇぇ……そんなぁ……もふもふさせてよ~、かりもふ~~」
なんだ、その、かりもふって。
俺は齧られるのか、なにそれ怖い。
そのあとも、しばらく弱音を吐き続ける彼女から訳の解らないことを吐きかけられつつ、それでも俺は夕食作成を完遂した。
湯気の立つポトフを、足に持ったおたまで器用によそってやると、彼女はスイッチが切り替わったように元気になり
「いっただきまーす!」
と威勢がいい声をあげ、食事をとりはじめた。
俺も自分用の食事をつつきながら、その様子を見守る。
「ねー、あーちゃん」
なんだよイリスティア。
「あたしたち、ずーっと、一緒だよねっ!」
弾けるような笑顔とともに投げかけられたその問いかけに、俺はまだ答えることができない。
幼馴染の魔女に殺されて、スライムになって、ミミズクになって、それでも続く、この眩しい日々が。
変わらない、いつか変わる日々が。
終わるその時、どう答えればいいのかと。
俺はいつまでも絶叫し問い続ける、この胸に再び、人間としての鼓動が戻るまで。
真実の銀剣が飾られる、その日まで。
なんだかんだと、使い魔ライフをエンジョイし、
『ホーウルー!』
そんな風に、誰にも理解されない、理解されても困る声を上げながら。
俺たちはただ、生きていくのだ。
幼馴染の魔女に殺されたけど、いまは使い魔ライフをエンジョイしています。
終わり
幼馴染の魔女に殺されたけど、いまは使い魔ライフをエンジョイしています。 雪車町地蔵@カクヨムコン9特別賞受賞 @aoi-ringo
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