『ほーちょー』ってなに?
奈名瀬
しんりんちほー
~じゃぱりとしょかん~
「また料理をつくってほしいのです」
「ラッキービーストが新しい『どうぐ』を増やしていたのです。料理に幅が出るのですよ」
「つまり、新作料理への期待が否が応でも高まるのです。我々は賢いので」
再び『しんりんちほー』を訪れたボク達の前に、図書館のハカセさん達は興奮気味に詰め寄ってきました。
「どーする? カバンちゃん?」
きょとっとした瞳の中に、どこか野性的なものを感じさせながらサーバルちゃんはボクを見つめます。
「えっと、ボクは料理してもいいですよ。ハカセさんとジョシュさんには、ボクが人であることを教えてもらいましたし……それに、料理をするのは少し楽しかったので」
「うみゃー! じゃあ、決まりだね!」
ボクの返事を聞くなり、サーバルちゃんは爪を立てた腕を広げさっそく
「わたしも『りょうり』は楽しかったし、また野菜をたくさん切ってあげるよ」
◆
そして、ボクは張り切るサーバルちゃんと一緒に、再びあの料理をした場所へ向かうのでした。
すると――
「うわー!」
「なにこれー!」
――ボク達は、料理をする前に感嘆の声をあげてしまいます。
ハカセさん達は、ラッキービーストが新しい道具を持って来たと言っていましたが、そこには本当にたくさんの、見たこともない道具が広がっていたのです。
「すごいねー! ねぇ、これ全部『りょうり』に使う『どうぐ』なのー?」
棒の先に檻のような格子状の丸い何かがついた道具を、指の先でカシャカシャと触りながらサーバルちゃんは興味津々な様子。
その時、ラッキーさんがしゃべり出しました。
『ソレハ『攪拌機』ダヨ。『料理』ヲスルトキニ『食材』ヲマゼアワセルタメニツカウンダ』
「へぇ『りょうり』をするのに、色んな『どうぐ』があるんだね」
サーバルちゃんが料理をする道具に感心している、そんな時でした。
ボクは、それを見つけてしまったのです。
「ラッキーさん、これは?」
それは棒の先に薄くて硬い、でも銀色に光って綺麗な何かがくっついた道具でした。
どことなく、サーバルちゃんや他のフレンズさん達の牙に似ていると感じます。
テトテトと足音を立てながら、ラッキーさんはボクに解説をしてくれました。
『ソレハ『包丁』ダネ』
「ほーちょー? なんだかキラキラしてるねー」
「ちょっとサーバルちゃんの歯に似てるね」
「えー? そうかなー?」
にぃっと口を開けて歯を見せてくるサーバルちゃん。
彼女にボクが笑いそうになっていると、ラッキーさんは説明を続けました。
『タシカニ、ハニモニテイルネ。デモ『サーバルキャット』ノツメノヨウニ、トテモスルドインダ。『包丁』ハ『刃物』トイワレテイテ、『料理』ヲスルトキニ『食材』ヲ『切る』タメノ『道具』ナンダヨ』
「へぇ、これで野菜が切れるんだ。すごいね、サーバルちゃん。これがあれば料理をする時も便利ですよ」
思わず、ボクは感心してしまいます。
しかし、サーバルちゃんに振り返った時でした。
「うみゃみゃみゃみゃみゃー!」
彼女はなぜか包丁に敵意むき出しで、まるでセルリアンを前にしているようです。
「ど、どうしたのサーバルちゃん! も、もしかして『火』と一緒で『包丁』も怖いのっ?」
「ううぅ~! そうじゃないけど! だって――」
低く唸り声を上げた後、サーバルちゃんは吠えるように大きな声を出しました。
「――『ほーちょー』があったらわたし、カバンちゃんの料理のお手伝いできないじゃん!」
それを聞いた瞬間、ボクも気付いたのです。
「わたし『じ』だって読めないし『ひ』もなんだか怖いし……なのに、野菜を切ることもできなくなったら、『りょうり』がぜんぜんできないよぉ」
いつもはぴんっと立てているサーバルちゃんの耳が、しゅんっと下を向いていました。
ボクは、そんなサーバルちゃんと包丁を交互に見比べて……そっと包丁を置きます。
「……やっぱり、これは使わないことにするよ」
「え? いいの?」
じっとボクの顔をさみしげに覗き込んでくるサーバルちゃんにボクは頷きました。
「うん。確かに、包丁があったら料理をする時に便利かもしれません。でも、ボク気付いちゃったんです」
「何に?」
「料理は一人で作るより、誰かと一緒に作って、それから誰かと一緒に食べる方が楽しいって」
「カバンちゃん……」
この時、ボクを呼ぶサーバルちゃんの声はとてもくすぐったく聞こえて、同時に胸があたたかくなりました。
「うん! うん! そうだね! わたしもそう思うよ! よぉし、いっぱい切るぞー!」
「はい! お願いしますね!」
そして、ボク達は二人で料理を始めました。
今日は、一緒においしいシチューを作るつもりです!
~おしまい~
『ほーちょー』ってなに? 奈名瀬 @nanase-tomoya
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