『ほーちょー』ってなに?

奈名瀬

しんりんちほー

~じゃぱりとしょかん~


「また料理をつくってほしいのです」

「ラッキービーストが新しい『どうぐ』を増やしていたのです。料理に幅が出るのですよ」

「つまり、新作料理への期待が否が応でも高まるのです。我々は賢いので」


 再び『しんりんちほー』を訪れたボク達の前に、図書館のハカセさん達は興奮気味に詰め寄ってきました。


「どーする? カバンちゃん?」


 きょとっとした瞳の中に、どこか野性的なものを感じさせながらサーバルちゃんはボクを見つめます。


「えっと、ボクは料理してもいいですよ。ハカセさんとジョシュさんには、ボクが人であることを教えてもらいましたし……それに、料理をするのは少し楽しかったので」

「うみゃー! じゃあ、決まりだね!」


 ボクの返事を聞くなり、サーバルちゃんは爪を立てた腕を広げさっそく戦闘りょうりモードに入りました。


「わたしも『りょうり』は楽しかったし、また野菜をたくさん切ってあげるよ」



 そして、ボクは張り切るサーバルちゃんと一緒に、再びあの料理をした場所へ向かうのでした。

 すると――


「うわー!」

「なにこれー!」


 ――ボク達は、料理をする前に感嘆の声をあげてしまいます。

 ハカセさん達は、ラッキービーストが新しい道具を持って来たと言っていましたが、そこには本当にたくさんの、見たこともない道具が広がっていたのです。


「すごいねー! ねぇ、これ全部『りょうり』に使う『どうぐ』なのー?」


 棒の先に檻のような格子状の丸い何かがついた道具を、指の先でカシャカシャと触りながらサーバルちゃんは興味津々な様子。

 その時、ラッキーさんがしゃべり出しました。


『ソレハ『攪拌機』ダヨ。『料理』ヲスルトキニ『食材』ヲマゼアワセルタメニツカウンダ』


「へぇ『りょうり』をするのに、色んな『どうぐ』があるんだね」


 サーバルちゃんが料理をする道具に感心している、そんな時でした。

 ボクは、それを見つけてしまったのです。


「ラッキーさん、これは?」


 それは棒の先に薄くて硬い、でも銀色に光って綺麗な何かがくっついた道具でした。

 どことなく、サーバルちゃんや他のフレンズさん達の牙に似ていると感じます。

 テトテトと足音を立てながら、ラッキーさんはボクに解説をしてくれました。


『ソレハ『包丁』ダネ』


「ほーちょー? なんだかキラキラしてるねー」

「ちょっとサーバルちゃんの歯に似てるね」

「えー? そうかなー?」


 にぃっと口を開けて歯を見せてくるサーバルちゃん。

 彼女にボクが笑いそうになっていると、ラッキーさんは説明を続けました。


『タシカニ、ハニモニテイルネ。デモ『サーバルキャット』ノツメノヨウニ、トテモスルドインダ。『包丁』ハ『刃物』トイワレテイテ、『料理』ヲスルトキニ『食材』ヲ『切る』タメノ『道具』ナンダヨ』


「へぇ、これで野菜が切れるんだ。すごいね、サーバルちゃん。これがあれば料理をする時も便利ですよ」


 思わず、ボクは感心してしまいます。

 しかし、サーバルちゃんに振り返った時でした。


「うみゃみゃみゃみゃみゃー!」


 彼女はなぜか包丁に敵意むき出しで、まるでセルリアンを前にしているようです。


「ど、どうしたのサーバルちゃん! も、もしかして『火』と一緒で『包丁』も怖いのっ?」

「ううぅ~! そうじゃないけど! だって――」


 低く唸り声を上げた後、サーバルちゃんは吠えるように大きな声を出しました。


「――『ほーちょー』があったらわたし、カバンちゃんの料理のお手伝いできないじゃん!」


 それを聞いた瞬間、ボクも気付いたのです。


「わたし『じ』だって読めないし『ひ』もなんだか怖いし……なのに、野菜を切ることもできなくなったら、『りょうり』がぜんぜんできないよぉ」


 いつもはぴんっと立てているサーバルちゃんの耳が、しゅんっと下を向いていました。

 ボクは、そんなサーバルちゃんと包丁を交互に見比べて……そっと包丁を置きます。


「……やっぱり、これは使わないことにするよ」

「え? いいの?」


 じっとボクの顔をさみしげに覗き込んでくるサーバルちゃんにボクは頷きました。


「うん。確かに、包丁があったら料理をする時に便利かもしれません。でも、ボク気付いちゃったんです」

「何に?」

「料理は一人で作るより、誰かと一緒に作って、それから誰かと一緒に食べる方が楽しいって」

「カバンちゃん……」


 この時、ボクを呼ぶサーバルちゃんの声はとてもくすぐったく聞こえて、同時に胸があたたかくなりました。


「うん! うん! そうだね! わたしもそう思うよ! よぉし、いっぱい切るぞー!」

「はい! お願いしますね!」


 そして、ボク達は二人で料理を始めました。

 今日は、一緒においしいシチューを作るつもりです!


~おしまい~

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『ほーちょー』ってなに? 奈名瀬 @nanase-tomoya

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