コーヒーショップ殺人事件

 コーヒーショップには様々な人がいる。どの脳にも考えつかないような人がいて、全く似ていない双子が(アメリカでもこう言うのかは分からないが)ババ抜きをして、芋虫が水中花を食んで、マダムがその水を双子ごと飲んで、その間でコーヒーショップの店員が倒れている。


「聞いてんの、あんた」

 アダルトショップのショップ店員達が批判がましく批判する。

「良夫が死んだって本当なの?」

「本当だ、僕の辞書に『不可能』という文字は無い」

 ショップ店員達は黙ったままタバコをふかしはじめた。ちっぽけな快楽ほど人を小さくするものは無い、とでも言いたげにふかせるだけのタバコをふかし終えるとショップ店員達はトイレへ席を立った。


 コーヒーショップには様々な人がいる。どの遺伝子構造でも作れないような人がいて、ケチャップが握力自慢のジェシーに踏み潰されて、イケメンゴリラジェームズが隔離されて『弁論入門』が学生時代弁論部だったジェレミーに読まれて、その間でコーヒーショップの店員が倒れている。

 もうじき夜が来る。良夫無しで迎える初めての夜だ。しかし誰も良夫を責めることはできないだろう。すべての慰めは卑劣で、絶望だけが義務、という事実を慰めにする他は無さそうだった。ショップ店員達がトイレから目を白黒させながら帰ってくるころには、二度目の夜が来ていた。


「ねぇ」

 完全なる思い違いかもしれなかったが、確かに誰かが僕を呼んだ。顔をあげると、ショップ店員達だった。

「ここの会計を払ってくれたら、飛行機代は私達が出してもいいわ」

 僕は耳を疑った。この言葉は嘘だったと後で分かるのだが今は彼女らを信じたい。良夫を思う気持ちはショップ店員達だって同じはずなのだ。

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デスえもん ちるあうと @mogwai

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