チンパンジー

 錆びたブランコが鳴らす夕暮、それは良夫の脳みそが燃えていることを教えていた。

 我らが良夫とその祖母は球体から出てきたドラえもん型ロボットに確実に吹っ飛ばされてしまった。祖母はテニス部だったのであれだったが良夫が死んでしまった、とこういうわけだった。

 雨が降ってきた。苦しみは変わらない、変わるのは希望だけ。80になってまもないダイナマイト・バディは、そのデンジャラス・バディを持て余していた。


 ドラえもん型ロボット(以後デスえもん)は祖母(以後ダイナマイト・デンジャラス)にぶち壊され、二度と大学に姿を顕すことはなかったが、それはある意味でバイトに明け暮れている学生達の唯一の光を閉ざすことに変わりはなかった。人生に真の魅力はひとつしかない、賭博の魅力である。たらたらと清掃バイトは糞をすまし、合羽を着て鉄くずを拾いに成城石井から消えた。今日も良夫の棺桶は釘付けされない。


 人々は日々の糧を得た。良夫は走馬灯を見続けていた。彼は最後まで彼自身の証人であり続けようとした。旅行客を片っ端から撃ち殺したり、旅客機を片っ端から撃ち落としたり、良心が疼くような仕事も確かにした。ドラマーに憧れてドラム缶に入ったり、水戸黄門に憧れて肛門を鍛えたりもした。そしてその度に、のび太さんに近づいた気がした。スマホを無くして孤独になって乾いて死んだ。

 それが後に天才博士と呼ばれる良夫の短くて短い、そしてちょっぴり短い生涯だった。


 ところで良夫には妹がいることを知っているだろうか、別に知らなくても恥ずかしくはないことだが、僕らの業界では割と常識になっていたりするのでここで補足しておく。いない。


 「チンパンジ~!!」

 大山のぶ代の裏声が試験中の大教室に響き渡る。注目がそこに集まる。

 良夫のライフラインであるスマホが鳴っているのだ、なにを食べて排泄したらこんな着信音に設定する?電話はアダルトショップのショップ店員達からであった、僕は吐き捨てるように事の詳細を伝えると、彼らの到着をデトロイトのコーヒーショップで待ったのであった。やれやれ、何で僕がこんなことに巻き込まれてしまったんだろう。一筋の涙が頬を熱く伝っていたのであった。

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