水の民から選ばれた年下の『夫』エレニアと、砂の民から選ばれた年上の『妻』アゼルの夫婦生活を描いた、ほのぼの短編連作です。
宣託によって選ばれた少女エレニアは『夫』として、同じく選ばれた青年アゼルは『妻』として生きることを自然と受容して結婚をします。
あくまで予言によって義務付けられた結婚です。
けれどそこに悲壮感はありません。
二人は何か難しいことを考えているわけではないでしょう。壮大な宿命を背負っているという意識はまったくありません。
ただ、寄り添う。さだめのままに。
そしてそれを、幸福なことと考える。
読者はその様子に、結婚とは何かを考えさせられるのです。
恋ではない。愛ではない。
でもきっとこれから芽生える。二人の間にあるのは確かに家族としての絆で、それはいつしか愛になる。そして、もしかしたら、遅咲きの恋になるのかもしれない。
二人の生活は手探りです。水の価値、布の価値、砂糖の価値――異なる社会で育った二人にとって、生活のすべてのものの存在意義が違います。その差異は時に切なく苦しく、もどかしいものでもあります。
でも、二人は自然と乗り越えていく。そして、互いへの理解を深めていく。すれ違いは少しずつ解消され、距離はじわじわと縮まっていく。
同調する必要はないんです。ただ、あるがままを受け入れる。
その世界の優しさを、私はこの作品を拝読しながら感じるのです。
二人の生活はいつかきっと大きな転機を迎えることでしょう。何せ、エレニアは夫でありながら少女で、アゼルは妻でありながら青年です。このずれがいつか大きな波となって二人の生活を襲うかもしれない。
だけど、この二人だったら、きっと、大丈夫。
私はそう確信しています。
想像を否応なく掻き立てる繊細な筆致で、夫婦となるべき運命を負った二つの部族の少女と少年を美しく描き出す、幻想的な物語です。
部族の言い伝えに従い、女として生まれながら「夫」として結婚する13歳の少女と、男でありながら「妻」として嫁ぐ18歳の少年。
まだ幼い中に凛とした強さと明るさを持つ少女と、わずかに目元しか伺えない衣装に包まれながら、どこか妖艶な美しさを放つ少年。滑らかな文章運びで描かれる美しい世界に、有無を言わせず引き込んでいきます。
まだ物語は始まったばかりですが、これからの展開を大きく期待せずにいられない、ぞくぞくとするような不思議な魅力に溢れた作品です。