第5話
西暦2135年 8月20日
「う~む…どうしたものか…」
東区駅前を少年が物思いにふけながら散歩していた。
反旗団の創設者の橘晴斗である。彼は今、重大な問題を抱えている。
それは…
「拠点をどうしよう…」
団体で活動するにあたって、拠点になるものは必要だろうと晴斗は考えていた。
「てか…なんかこう…秘密基地!って感じのが欲しいな~」
男なら一度は夢見るであろう秘密基地、高校生になっても(もっとも学校には行ってないのだが)憧れていた。
晴斗の描く秘密基地図はツリーハウスのような手作り感満載の基地ではなく、建物の中の一室が基地というパターンだった。
「無理かもしれないけど暗号入れて入る、みたいな機能が欲しいな」
無理だろうけど、ともう一度言い笑う。
それから歩くこと数分、晴斗は歩みを止めた。
「…ここのカフェ…潰れちまったのか…」
そこは以前晴斗がよく通っていたカフェだった。カウンター席4つとテーブル席2つの、広すぎず狭すぎず丁度良い広さの店だった。
自営業だったからか駅前という場所でありながら東区外の人間より意外と近所の人達に人気の穴場カフェだった。
「マスターが2月に亡くなったそうだ…常連だっただけにやっぱり悲しいな…」
突然声をかけられる。理科の教員のように白衣をまとった青年だった。普通なら町中で着るような服じゃないが彼が着るとなぜか違和感がない。
「あなたは?」
「オレか?オレは山吹 黄土。変な名前だろ?笑ってくれたって構わんぜ?」
「いや…笑いませんけど…」
黄土はここの常連で害虫駆除の仕事の傍ら趣味でロボット等を作っているらしい。
「製作の途中で行き詰まったときいつもここに来てたんだ。まぁ最近は仕事が忙しかったからこれなかったけど…ようやく暇ができたから線香あげていこうかなって思って来たってわけよ。君は?」
「俺は、久々に来たら潰れててどうしたんだろうって思って…そんな理由があったんですね…」
「じゃあマスターが死んでから初めてここに来るのか?なら、一緒に線香あげるか?えっと…」
「晴斗…橘晴斗です」
二人は店の裏口にまわり、中に入れてもらおうとチャイムを押し…
「あ、しまった!」
と突然晴斗が声を上げる。
「確かここ…この時間誰もいないはず…」
「え!?なんで!?」
「前はここにマスターとそのお孫さん…俺のクラスメイトが二人で住んでいたんです。で、そいつは今高校生だからこんな真っ昼間にいないはずで…」
「うん常連だから知ってるし今夏休み時期だよ?」
「あ、そうです…ね…」
こんな会話を交わしながら中から人が出てくるのを待っていた二人だったが、一向に出てくる気配はない。
聞こえてなかったのか、そう思い何度かチャイムを鳴らすがやはり反応はない。
試しにドアノブをひねったところ、なんの抵抗もなく簡単に回った。
「留守なんですかねぇ?」
「でも鍵がかかってないのはおかしいぜ?」
黄土の言うとおり、だが鍵をかけ忘れる事ぐらいあるのではないか、晴斗が黄土にそう伝えようとした瞬間
「おっじゃまっしまーす」
「えええええええ!?」
黄土はなんの躊躇もなく家の中に入っていったのだった。
「だ~れっかいませんか~?」
「な、なな、なにやってるんですか!?不法侵入ですよ!?」
「わかってるよ、でもこの方が人が居るか否かがわかるじゃん?」
「そうですね。でも人としてアウトですよ!?」
「大丈夫!大丈夫!オレ、ヒトじゃないもん」
「今はそんな冗談言ってる場合じゃないでしょ!?は、早く出ていかないと…」
「冗談じゃないんだけどな…まぁ、不法侵入に関しては大丈夫だ」
「え…?」
「100年以上昔にはこんな名言がある。『バレなきゃ犯罪じゃない』ってな」
「それ名言じゃなく『迷言』ですよね!?」
などと掛け合いをしているうちにダイニングに着いた。
シンクにはカップ麺のゴミが山積みだった。
「これは…」
「うん…このようすじゃ随分と食ってる…」
「いやそうじゃないです。この量は明らかに夏休みで食える量じゃないでしょ」
「冗談だよ。お前が言いたいのはこのゴミはおそらく夏休み前からあって、きっと不登校だったんじゃないか?ってだろ?」
「え?あ、そうですね、そうです!」
「何を考えてたんだよ…」
(カップ麺の王者目指してるのかな?とか思ってたなんて言えない…)
だがダイニングに誰もいないところを考えて今はこの家に誰もいないという結論になったのだが…黄土は気になる事があると言い出した。
「二階から音が聞こえるな…それも人の物だ…」
「なんか動物でも飼ってるんじゃないんですか?」
「オレって昔っから耳と記憶力は良いんだ。ありゃ人間の心臓の音だ」
その言葉を信用して良いのか晴斗はわからなかった。だが黄土の真剣なその眼差しを信じてみようと思ったのだった。
ReverseFlag~序章 記憶編~ 居村るみ @HakuaP
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