吾輩は刺し身である 名前はもう無い

とびうお

第1話

吾輩は刺し身である


名前はもう無い


今まさに食される所である。今の吾輩にとっての問題は汚いオッサンの口に入るのか、綺麗な娘さんの口に入るのか、ということだけである。そんな吾輩も元々はタカシと呼ばれる勇敢な海の男であった、吾輩は一族の中でも1番高く飛び跳ねることができ、いつも飛び跳ねてばかりで、その時もとても高く跳ねていた所であった。跳ねている時はそれだけに集中できて、頭が最高にクリアになる、これはもう天国まで届くんじゃねぇかって、超気持ちー、何も言えねー、って時にゴソッといかれた。


数えきれない程の仲間と共にうちあげられて、息もできず揉みくちゃにされ、訳もわからず死んじまったようなんだが意識だけは消えることが無く、体から浮かび上がってぼんやりと元吾輩の肉体を眺めていた。はじめのうちは呆然としてしまい、只々自らの亡き骸を眺めていたのだが少しして飽きてくると、今のこの意識だけの状態でどこまでできるのか?と好奇心が湧いてきたので少し飛び回ってみることにした。しかし、肉体から10メートル程離れると引っ張られるような力で戻されてしまい、それ以上遠くに行くことはできなかった。


吾輩の肉体は市場にて競りにかけられ髭面のワイルドな男の手に渡ったかと思えば他の仲間と共に箱詰めされてトラックで運ばれていく、トラック上空から見る陸の上は海上から見るソレとは全く違ってみえ刺激的であった。なかでも高速道路といわれる道を走っている時は、めまぐるしい程に景色が流れ続け退屈とは無縁である、吾輩がいた海中では何処に行っても同じような景色が続くだけであったのに対して陸上には様々な建物が建ち並び、田畑には多種多様な植物が生え、少し遠くを見れば山がそびえる、嗚呼、なんてカラフルな世界なんだろう。人間達が創り上げた世界は我々にとって恐ろしいものとばかり思っていたが同時に吸い込まれるような美しさを秘めていたのである、生きているうちは禁断の果実といっしょで手にしてはならないものだったが死んでしまったのだから話しは別だ、吾輩はこのおぞましくも素晴らしき世界を人知れず堪能していた。一見すると気色悪い程に規則正しく並べられた建物群も見慣れてくると味わい深いものであるのだが、それよりなにより吾輩の気を引いたのは人々そのものであって、個々人の服装や髪型などの容姿の違いや話し方、立ち振る舞いの違いなどは本当に驚かされた。海面から見ていた港や市場の人間はどれも同じような恰好をして同じように話し同じような動きをしていたが、陸上の人々はソレとは違い、皆それぞれ個性豊かな恰好で、話し方や動きもバラバラで、まるで別の生き物のようにも見えた。特に若いメスと思われる人間達は遠巻きに吾輩が今まで見ていた人間達とは随分と違う容姿で魚だった吾輩からみても魅力的である。


暫く走った末に一軒の小さな魚屋で下ろされて氷とともにショーケースに並べられると隣りにイカの霊魂が浮いていた、自分以外の霊魂は初めてであったので吾輩はとても興奮した、もしかしたらこのまま独りで浮いていなければならないのかと心の隅で心配していたからである。吾輩が嬉々として『どーも』と話しかけるとイカの霊魂は『どーも』と返してはくれたのだが、非常に無愛想な態度で強く温度差を感じた。吾輩が出鼻を挫かれ黙っているとイカの霊魂が重そうに口を開いた。


「無礼な態度をとってしまいすまなかったな、今しがた友人が消えていってしまい気落ちしていてな。見たところあんたもワシと同じ霊魂のようだが?」


「ああ、そうでしたか、それは不幸でしたね。吾輩はまだこうなったばかりで何が何だかわからないのですが、どうやら今朝、霊魂とやらになってしまったようですね。イカさんはこうなって長いのですか?」


「長くはない、というより恐らく長くは居られないようだな。まぁ、それも先ほど友人が消えていってしまったからそう思うんだが。」


「どういうことです?」


「友人はここで数日過ごした後に食べ時を逃したとしてゴミ箱に捨てられたんだが、その瞬間霊魂も消えてしまってね、ということは霊魂でいられるのもせいぜい数日間ってことなんじゃないかと思ってね。」


「そうですか、それは気の毒でしたね…。その後はどうなっちゃうんですかね?」


「さあな。そうなっちまってからじゃなきゃわからないな、食われたやつそっくりに生まれかわるなんていう話しもあるけどな。」


「ああ、それはよく言いますよね、サメの奴がイワシの記憶もって生まれたとか、さすがにプランクトンの記憶ってのは聞かないですがね。」


「確かに聞かないな、まぁ、ワシとアンタは魚屋まできてるんだから人間に食われるんだろうね。奴等じゃどいつに食われたって大差無いがゴミ箱行きだけは避けたいもんだ、ああなっちまったらどうなるか見当もつかない。」


「ゴミ箱行きは嫌ですね。吾輩は人間ならできれば若いメスになってみたいです、ここに来るまでの間に見ただけですが他の人間共とは随分違いましたから、人間のメスになって好きなように着飾って見たいもんです。」


「そんなに違うもんかね?ワシには違いがわからんかったが。」


「違いますよ!パッと見でマグロとカツオくらい違いましたよ!」


「そうかのう?ヒラメとカレイくらいにしか見えんかったがのう。それよりワシは金持ちとやらになってみたいもんだがの、容姿も能力も変わらないのに他の人間達よりずっといい暮らしができるらしいぞ、それこそタコとイカ程の違いだそうだ。」


「う〜ん、タコとイカですか、そんなに違わない気がしますけどね、エビとカニみたいなもんですかね?」


「ぜんぜん違うではないか!イカは透明感があってカドもあるし、ハイセンスじゃないか!いつまでも古臭い壺に入りたがるタコなどとは一緒にして欲しくないね!まぁ、トビウオだった君に言っても仕方ないのかも知れんがね。君は人間のメスなんかより鳥にでも食べられた方が良かったんじゃないのかい?いつも鳥の真似して飛び跳ねているのだし、そっちの方がお似合いだよ!」


「あ、いや、勿論イカの方が良いですけどね。鳥、鳥もいいですね、吾輩の場合やっぱり空を飛ぶというのには憧れがありますからね、ただ鳥というのは夜は目が見えないので飛ばないそうじゃないですか、吾輩は夜の地上ってのが見てみたいんですよ、海から見る人間の街は夜もピカピカに輝いていて綺麗ですからね、やっぱり吾輩は人間の若いメスになって夜にとぶ蝶になるのが1番いいですね。」


「蝶には食われないだろ、あいつらは肉食じゃないだろうし。」


「いやいや、本物の蝶という訳では無いんですよ。夜に着飾ってる人間の若いメスのことを夜の蝶なんて人間共は呼ぶんだそうでして。なんだか彼女達は肉食だそうですが。」


「はぁ、そうなのか。まぁよくわからねぇな。とにかくトビウオだったアンタは人間のメスになりてぇってわけだ。」


「まぁ、それだけと言ってしまえばそれだけの話しですね。そういえば、あの飛行機とかっていう超でかい飛んでるヤツ、あれも人間の乗り物らしいですよ、人間になれば空も飛べるってんなら言うことないですよ。」


「あぁアレか、まぁ見るからにそうだもんな。全く人間ってヤツは何でも作りやがるな、おとなしく陸の上だけで生活しろってんだよな。本人達は楽しくても他は迷惑だってんだよ。」


がらららら

『ぃらっしゃぁい』


「おっ、人間様が入ってきたぞ。さぁ今日こそ買ってもらわないとな。」


「こうなってしまった以上食べてもらわないとですもんね。」


魚屋に入ってきたのは頭にパーマのかかった元気の良いおばさんであったのだが入店した途端に何やら店の主人と話し始めて我々が並べられてる商品棚の方にはなかなかやってこない、買われるのを待つこと以外に特にすることもできることもない我々は店主とおばさんの会話に自然と聞き耳をたてていた。


『Sさん、今日も元気だね。昨日ウチで買ってってくれたサンマはもう食べた?ありゃあ脂がのってうまかったろう?』


『それがドラ猫に盗られちゃって食べてないのよ〜、慌てて追いかけたんだけど捕まらなかったわ。あんまり慌ててたから裸足で駆けちゃって小石踏んで怪我までしちゃったわよ、ちょっとご主人見てよ』


『どれどれ?ってSさん靴下履いてたんじゃわかんないよ。それよりKって書いてあるけど、この靴下弟のK君のじゃあないかい?』


『あら、やだわぁ私ったら。ちょっと履きなおしてきます、ウフフフフ。』


そういうとパーマのおばさんは本当に店からでて行ってしまった。それと入れ替わりでまたお客さんが入ってきて店主と話し始める。


『ぃらっしゃぁい』


『ヤスさん、今日は何かいいの入ったかい?』


『いやぁ、今日は特別ってのはないねぇ。まぁでもウチは何でも採れたて新鮮だから、どれ買ってって貰っても大将の店で出せますよ!』


『ヤスさん、情けねぇ話しだが俺はどうにも目利きってやつが苦手でね。それで親父の代から世話んなってるヤスさんとこなら下手なもん掴まされたりしないだろうって毎回使わせてもらってんだけど、また適当に良いやつみつくろってくれねぇかい?』


『いや、ウチはいいけどねえ、いつまでもそれじゃあ大将の店になってかないよ。』


『いいんだよ、俺は別に継ぎたくて店継いだ訳じゃないんだし、それに親父の味が好きだって昔から来てくれてるお客さんガッカリさせたくないからさ。それには目利きのできねぇ俺なんかじゃなく、親父の代から世話になってるヤスさんに選んでもらうのが1番なんだ。』


『しょうがないねぇ、でも俺も歳だからね、徐々にでいいから覚えるんだよ』


『すまねぇヤスさん、恩にきるよ。』


やりとりが終わるとヤスさんはあらかじめ決められていたようにいくつかの魚や貝を箱に詰めた。ヤスさんが箱詰めした箱の中に吾輩の肉体も入れられて、大将の車に乗せられたのだがそこにイカさんの肉体は無かった。




大将の店は駅の近くのこじんまりとした寿司屋で、古くなった木材がいい味を出していて、決して新しく綺麗なわけでは無いのだがそれなりに繁盛しているのだろうというのが伺える、いい感じの店であった。店の中に入ると大将は早速仕込みを始め、吾輩は三枚におろされ刺身にされた。その時に一瞬だが見えた吾輩の肉体は思ってたのと違って内臓が小さく、自分の感覚とのズレに驚いた。その後も仕込み作業は続き、数時間にも及んだのだが大将の手捌きはかなりのもので時間を忘れて見ていることができた。仕込みが終わると大将はテレビをつけて遅めの昼食をとり、昼食を食べ終わるとさっさと片付けて、そのまま開店の準備を始めた。机や水槽を拭いて椅子やテーブルを並べ、箸や楊枝、醤油などの補填をする大将を眺めていると窓から見える空がいつのまにか橙色に染まっていて夜が近づいているのに気づく、思えば、出会ってからずっと大将を見ているが数分昼食をとっただけで働き詰めである、人間の男というのは皆こうなのだろうか?だとしたらなかなかに大変そうであまり生まれ変わりたくないな、魚類の男共なら食い物にありつこうって時だけ働けばいいのだから。しかし、額に汗する大将はかっこよく、やっぱり人間の男も悪くないのかもな、とも思えた。


開店準備が終わり大将が暖簾をだすとすぐに何組かのお客が入ってきて大将の店は満席になったのだが、お客はみな年齢が高く、若いメスは見当たらなかった。吾輩はガッカリしてしまった、大将の店は回転率が悪く、お客の入れ替えは少なく、また並んでいるお客も皆若くなかったので吾輩は若いメスに食べられるのを諦め、店にいるマダム達の若い頃を想像することにした、ダメだ、できない、そもそも本当に経てきたのか?あまりにも違うではないか、声や話し方まで違うのは何故だ?人間は歳をとると髪の毛が紫になるのか?全くわからないことだらけだ、出世魚みたいなものだろうか?そうこう考えているうちにも吾輩の切り身はひと切れふた切れとマダム達に食されていく、ふぅ、このまま吾輩はマダムになるのかと半ば諦めて外を見ると行列の1番前にとびきり綺麗な若いメスが待っているではないか、幸運なことに吾輩の肉体も切り身数切れ分くらいは残っているし、彼女に食べてもらえれば期待どおり人間の若いメス、それもとびきりの美人になれるかも知れない。


席が空き、入ってきた彼女にはツレの男がいて、何やら仲良さげに喋っている。男は金ピカの装飾品をジャラジャラと身につけ派手なスーツを着て、お世辞にも趣味がいいとは言えない身なりで、そのうえデカイしゃがれ声で話す、若く綺麗な彼女が何故こんなオッサンと仲良くしているのか吾輩は不思議だった、周りのお客からも良く思われていないようで、ときおり皆彼女達を煙たそうに見る。もしかしたらこの男がイカさんの言っていた金持ちという奴なのであろうか?


『おう大将、任せるから適当に見繕って握ってくれ。』


『はい、わかりました。何か苦手な物はございますか?』


『玉子だ穴子だの甘いのはよしてくれ、あぁ、あと女ようにサビ抜きで何貫か頼む。』


『お姉さんは苦手なものございますか?』


『あ〜、ウニくらいかなぁ。適当に美味しいのお願いしまぁす。』


『はい、承知しました。』


この手の注文に慣れているのか大将は次々とネタを握っていき、彼女達に出した。その中には吾輩の最後の肉体もしっかりと握られていた、この綺麗な娘さんに食べてもらえれば吾輩も本望だが、こっちのオッサンに食われるとしたらいい気はしないな、イカさんは金持ちになりたいと言っていたが吾輩はこのオッサンには魅力を感じることができなかった。このオッサンに食われるくらいなら大将に食べてもらいたい、手際よく仕事をこなす大将はかっこいいからだ。


『そういや、お前こないだ買ってやった犬は元気か?』


『うん、プーちゃんすごい元気だよぉ、いつも一緒に寝てるんだけどとってもあったかいのぉ』


『へー、そりゃ羨ましいな、そろそろ俺もお前んちに上げてくれよ。お犬様の様子も見てえしよ』


『うん、きてきてぇ。でも今はまだ引っ越したばっかでお片づけが済んでないから全部片づいたらねぇ。』


『お前引っ越したのもう三ヶ月は前だろ、いつになったら片づくんだよ』


『だってせっかくアッ君にソファーとか買ってもらったから、すっごいオシャレにしたくってぇ、全部終わったら絶対呼ぶからぁ』


おい、どうした?何故大将が出してくれた寿司に手をつけんのだ、いつまでくだらない話しをしているんだ?このままでは吾輩の肉体も含め、寿司がどんどん不味くなるぞ、ったくどうなってんだ、さっさと有り難く食え、外にはまだ他の客が何組も待ってるんだぞ、せっかくの大将の手際の良さも無駄じゃないか、くそっ、この女も外見ばかりで内面はさっぱりじゃないか!まぁこの際だから内面など関係ないが、とにかくさっさと食いやがれ!


その後も長々とオッサンと女は話し続け、時折少し摘まんでは酒を呑み、また話した。そのうち暫くしてオッサンの方が出された寿司を全てたいらげると、『おあいそ!』と大将に声をかけ会計を済ませて出て行ってしまった。女の方に出された寿司は殆ど減っておらず、中には上のネタだけしか食べていない物もあった、そして残念なことに我輩の刺身はそのままシャリの上に乗ったままであった。


大将は少しだけ悔しさを滲ませた顔でオッサンと女の席を片づけた。その際、女の席にあった明らかに手をつけていない何貫かのネタだけは別皿に移し、他の物は全て捨ててしまった。幸か不幸か我輩の刺身は別皿に残されている、まぁ、自分が美味だろうがそうでなかろうがどうだっていいのだが、一口も手をつけられずに捨てられる所だったと思うとなんとなく嫌な思いである、調理して出していた大将の立場なら尚更であろう。その後も客足はなかなか途絶えずに大将が店を閉めるまでほぼ満席の状態であった、さすがに疲れたのであろう、大将は暖簾をしまうと客席に座って暖かいお茶を飲み、そのまま座り込んでひと息つき始めた。吾輩はというと女達に残され別皿に移されたままで、ついには客に食べられることは無かった。大将は湯呑みのお茶を飲み終えるともう一度湯飲みになみなみとお茶を注ぎ、賄いの支度を始める、別皿に移されたネタを何枚かとってみじん切りにするとシャリと混ぜて丼にする、それを二杯分作ると再び客席に座り、一杯の丼をかきこむように食した。その食べ方は見ていてあまり綺麗なものではなかったが、とても旨そうに食べていて食われる方の立場としては少し嬉しくもあった。一杯の丼を食べ終えると大将はまた少し休んでから閉店作業を始めた。吾輩の肉体はもう一杯の方に入っているのか吾輩は霊魂のまま消えないでいた。

閉店後の作業は主に片付けと掃除で、隅々までおこなわれるそれは深夜にまで及んだ。本当に大将の頑張りには頭が下がる思いである、人間の若いメスに食べてもらいたいとばかり思っていたが今ではすっかり大将に食べてもらいたいとすら思うようになっていた。無論、それには若いメスに食される可能性が極端に減ってしまったこともあるにはあるが、種族は違えど頑張る男というのは尊敬に値する。大将に食べてもらい、大将のように生まれ変わり、吾輩も大将のような料理人になりたいと考えていた。


閉店作業を終え、大将が帰りの身支度を始めると外から聞いたことのある嫌な声が聞こえてきた。大将はその声を気にかける様子もなく身支度を済ませると吾輩の肉体の入った丼を持って店の外に出た。外に出ると大将は店の前のベンチに腰掛けて吾輩の肉体の入った丼を地べたに置き、すぐそばの自販機で缶コーヒーを買うと、持っていたタバコに火を点け一服し始めた。するとすぐに嫌な声の主が数匹近づいてきた。吾輩にまだ名があった頃も港に近づくと稀にだが聞こえてきた声である、毛むくじゃらの体で闇夜に光る眼をした奴等は人間と同じく、陸地に住みながらも我々を食べるらしい。何故だか人間に好かれている奴等に我々を差し出す人間も多く、大将もその1人であった。数匹で集まり一心不乱に丼にがっつく其奴らを見ながら大将はとても愛おしそうに笑う


『うまいかぁお前ら、今日はやたらと残す客がいたから沢山あるぞ。味には自信あるんだがなぁ、食わねぇなら頼むなよなぁ、お前らみたいにうまそうに食ってくれんのが1番だよ、魚だって生きてたんだからなぁ』


嬉しそうに話す大将の声がだんだん聞こえずらくなっていく、あっという間に食べられて減っていく丼とともに吾輩の意識も確実に薄れていく、しかし、こうも旨そうに食べてくれると悪い気もしないな、なんたって大将も満足げだしな、どうやら人間にはなれそうにないが仕方あるまい、たのしみは次の機会にとっておくとしよう。


吾輩は猫になる。

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