第4話:全てが生まれ変わる場所があるのなら。
目覚めてからかなりの時間が経った。私は土の中で、先程殺した木偶の坊について考えた。人形の様に美しい顔をした、出来損ないの人間だった。そこには何も無かった。知性であったり人間の尊厳であったり、もろもろの人を構成している脳内の活動が行われている様子が見て取れなかった。
殺して正解だったとは思わない。私はその事について少し心が痛んだ。彼女を手にかける時、妹の事を思い出したからだ。私は妹が大好きで大嫌いだった。
私の妹はとても良く出来た存在だった。人の幸せを測るスケールがあるなら模範的な数字を叩き出しただろう。スポーツや勉強も出来て彼女の周りにはいつも人が沢山集まっていた。彼女は、二十四歳の時に学生時代から付き合っていた幼馴染と結婚をし、男の子を二人もうけた。いつも暖かな笑みを浮かべ、世の中を精一杯生きていた。今もきっと小さな幸せを噛みしめながら生きているのだろう。
当然、家庭内での私の立場はすこぶる良くないものだった。両親は妹ばかりかわいがり、私を邪険にした。私は学校だけで無く、家でも居場所が無く一人だったのだ。
生まれ変わるなら私は妹になりたいと思った。私の求める幸せの形があった。しかし私はそうはなれないという自信もあった。そして私は自分が求める幸せでは無く、自分が出来る事をやろうと心に決めたのだ。それがブラックホールの研究だったのだ。
どうしてブラックホールに興味を持ったかと言うと、そこには終わりと始まりがあったからだ。ブラックホールは全てを飲み込み無に帰す力を持っていた。物体から、分子へ、分子から原子へ、原子からもっと細かい素粒子などに分解する性質を持っていた。そしてそれは再構築される。ホワイトホールと言うものだ。ブラックホールのある場所は、全てのものが死にそして生まれる場所でもあるのだ。
私はそこに行きたいと思った。そして壊したかった。私は生まれ変わりたくなかったのだ、輪廻の歯車に乗ってまた他の何かになんてごめんだ。もう充分なのだ。
私は生きる事にもうとことん疲れていたのだ。
ゼロの旅人 @simameko2628160
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